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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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十九.処罰


 その日の夜、牢の中は暗い。かろうじて小窓から月の光がもれる程度。男が一人、小窓を見つめ何やら音を出している。


「口笛?」


 気配無く近付き声を掛られ、男は驚き振り向く。若い男。都の使いと言った男と一緒にいたと思いながら気を取り直し、返事をする。


「え、はい。やる事が無くて」

「歌っぽくないね」

「上手く出来なくて。ただの慰めですよ」


 自嘲するように笑う男に笑みを深める…瀧である。


「外に繋ぎ?」

「何の事で?」

「波の音で消せると思った?下手だなあ」


 笑う瀧に、男は瞬時に悟る。同じだと。再び口笛を吹く、が、


「…?」

「来ないよ。だってもういない。今頃捕まっている」


 淡々とした声に、男から冷たい汗が流れる。


「何で…?」

「外にいたから。わかりやすかった。こっちの港でらしくない空気を出して、格好も」

「…?」

「都の者を忌み嫌うこの国で、都の者がわからない筈は無い。こっちの空気になるには好きな人が多かったのかな?都に」

「!」

「格好もなあ、着崩すにも流行りがある。無理やり感がすごい。準備不足」

「…お前は」


 男が言い返そうとすると先人が出て来る。


「瀧、もういい。誰の指図だ」

「…」

「口笛と思わせて、暗号。明日都に行くとまずいと思って繋ぎを付けた。…本筋(影)の者だな。本物の方は?」

「…何の事で、私は」

「なあ、俺を覚えているか?」


 鋼が出て来る。出入口前に立っている。


「先程の」

「いいや。来ていたよな。道具の相談で。俺が見た」

「忘れていて」

「良く話したと思うけど。手に合うものを作りたいからって良く覚えていた。顔も体格も一緒だが、小さいな。手が。皺の感じも」

「気のせいですよ」

「そっか。なら、見せてくれよ。しっかりと」

「見なくとも都に連れ帰って家族に見てもらおうか」


 鋼が近付き、先人が圧を加える。その瞬間、


「後ろ!」


 瀧の声で避ける二人。


「兵の中にいたって事か?」

「ああ。曽祖父様を見たくて集まっていた者らに混じって」

「まったく。長(溌)がこんな奴を入れるから、」


 鋼が驚き、先人が考えを話し、瀧は呆れている。

 先人が気配を察しつつ声を掛ける。


「…一人、いや二人か。鋼、下がっていろ」

「ああ、気を付けろ」


 鋼が下がる。瀧が前を見据えながら先人と小声で打ち合わせる。


「一人ずついくか」

「ああ」


 兵らがそれぞれに襲いかかるが、互いに引き倒す。兵らは気絶する。その時、外の間者を捕まえていた航が現れる。


「外は終わった。そっちは?」

「ああ。終わった。すぐに」


 瀧が答えていたその瞬間、小窓から誰にも気付かれず落ちてくる。…小さな刀。

 牢の男はそれを拾い、鋼に向かう。一瞬気がそれていて気が付けば避けきれない。牢の男の腕を掴む。先人である。


「先人」


 男の手から小刀を取り上げ、鋼に声を掛ける。


「大丈夫か。鋼」

「ああ。お前は、」


 頷き、先人を気遣う鋼。先人も鋼を見て頷き、すぐに航に向く。


「うん。航殿。外にまだ、」

「おい、どうなっている?」


 牢から外に向かって叫ぶ航に、外の間者を捕まえていた味氏の兵が返事をする。


「若、すみません。こいつ(外にいた間者の仲間)が急に離れて」

「まったく。捕まえたのか?」

「はい」


 兵の言葉に頷き、航は先人に小さく頭を下げる。


「すみません。先人様」

「いいえ。大丈…」


 先人が大丈夫と伝えようとすると突然、力が抜ける。意識が保てない。瀧が支える。


「先人」

「瀧…何か塗っていた」

「!医師を呼べ。すぐに」

「先人」


 瀧が叫び、鋼も焦る。


「先人様。…おい、医師をすぐ呼べ。父にも伝えろ」

「はい」


 外に向かって叫ぶ航に兵らは返事をして去って行く。


「すぐに部屋に。どこですか?」

「…」

「若様!」


 黙る航に鋼が一喝する。すぐに航が正気に戻り、指示を出す。


「…ああ。俺が運ぶ。着いて来い」

「はい」

 

 先人を抱えた航と出て行こうとする鋼に瞬時に瀧が声を掛ける。


「後で行く」

「…ああ」


 何かを察した鋼が頷き、出て行く。

 牢屋には皆が居なくなり、間者であった男がそのまま閉じ込められているだけ。しかし、瀧が牢の中に入ってくる。男は驚愕する。


「な、何で?」

「…楽なつくり。罪人はどうせすぐ居なくなるからか。ここから出る事も出来無いだろうし」

「お、お前は」

「何を使った?」


 先程とは全く異なる空気をまとった男がにっこり嗤っていた。



〔翌日〕


 目が覚める先人。目の前には、


「瀧、鋼」

「起きたか」

「良かった。先人。ごめん。俺のせいで」


 安心した様子の瀧と泣きそうな顔の鋼がいる。先人は小さく首を横に振る。


「ううん。違う。俺が甘かったせいだ。間者は」

「捕まった。全員。他にも後から来る仲間がいたそうで、皆吐かせて捕まえた」


 瀧の言葉にほっとする先人。気になっていた事を瀧と鋼に問う。


「そうか、良かった。正体はわかったのか?」

「都」

「え?」


 鋼の一言に驚く先人。瀧が詳しく説明する。


「皇統とはいえかつての反乱氏族。その上大知光村に忠誠を捧げ都嫌い。そんな氏族が海を支配している事が許せないという大義名分になってんだかなってないんだかを掲げて海の支配を目論むある氏族が都の役人と手を組んで間者を送り込む事にした」

「都の役人とは?高位貴族なのか?」


 先人の問いに首を横に振る瀧。そのまま続ける。


「いいや。名ばかりの没落寸前貴族。かつて大知大連に罪を問われて権限を縮小された氏族がまあ、復讐?」

「…それが、どうやって間者を」

「都から派遣する技術者を把握する事は出来たからその情報を教えて、後は味氏嫌いのその氏族が用意した、と」

「それは」


 報告しなければと言おうとしている先人を察しつつ頷く瀧。


「お前が寝ている間に皇子様に伝えた。味氏からも抗議を入れたとか。それで終わり」

「そうか、良かった」

「帰ったら師匠に報告な」


 ほっとする先人に瀧がちくりと言う。それを聞いていた鋼が頭を下げる。


「俺のせいだ。謝る」

「何でお前が謝るんだよ」


 瀧が突っ込むが、先人が首を横に振る。


「鋼。ありがとう。でも、これは俺が油断したからだ。師匠にも叱られないと」

「…ごめんな」

「ううん。薬は」


 自分が受けた薬の事が気になる先人。鋼がすぐに答える。


「瀧が間者に聞いた。それですぐに処置して、瀧が詳しくて助かった。医師も驚いていた。意外な才能だな」

「まあな」

「ありがとう。瀧。…溌様や最帆様、航殿は?」


 礼を言いつつ、騒ぎになったのだが部屋の周りが静かなのが気になる先人に瀧はあっさりと答える。 


「ああ、まあ間者らの処罰をするとか」

「え?」


 昨日今日ですぐに処罰を実行すると言う即断に驚く先人。その様子に同意するように鋼も頷き、補足する。


「牢に入れてあった奴も結局都人では無い間者だったし、都も味の国の裁きでいいって返事をもらったらしくて」

「都の役人以外は、味の国の裁き。で、今」


 鋼の補足に被さる瀧。先人は頷き、ふと気付く。


「そうなのか。あ、本物の技術者の方は?」

「ああ、結局、財を積まれて交代したらしい。まあ何も知らず交代したし、味の国に行く事で怖がっていたのもあるし。軽い罰で済むだろうな」


 都からそもそも出ていない。交代しただけ。なので技術者は大した罪にはならない。その事にまたほっとする先人。


「生きているなら良かった。巻き込まれて命も、とも考えていたから」

「そうだな。良かった」


 鋼も頷く。

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