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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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十八.気になること


 さっきとは打って変わり、いつもの調子に戻った溌が先人を見つめ笑顔になる。


「今日は泊っていけ」

「え?ですが」


 戸惑う先人。すぐに引き渡しが終わればすぐに戻る予定だったのだ。溌に続いて航も最帆も頷く。


「うん。もう遅くなるし」

「仕度しますのでお待ちください」

「瀧、鋼」


 味氏の皆に言われ、先人は考え、瀧と鋼に声を掛ける。瀧は小さく頷き、鋼も一緒に頷く。


「話が長くなったしそうするか」

「うん。向こうもそう言ってくれているなら」

「では、よろしくお願いします」


 先人が言いながら頭を下げる。瀧と鋼も。それを見て溌が頷く。


「うん」

「仕度が終わったら航、部屋に案内しなさい」

「うん。わかった」


 泊り客の仕度の采配をするため、最帆が立ち上がり、航に案内の指示を出す。航が頷くと、先人が溌に向き、問う。


「間者には会えますか?」

「いいぞ。航」

「うん。先人様、こっち」


 溌の了承を得て、間者と面会が出来る事になった。航が先に歩き、先人、瀧、鋼は向かう。



 しばらく屋敷内を歩いて、奥の小屋。そこに航は入って行く。先人達も向かう。すると入ってすぐに下り階段があった。航は慣れているようでさっさと降りて行くが、薄暗い。少し降りて先人達を振り返る。


「ここ。ちょっと暗いから気を付けて」

「屋敷の地下ですか」

「うん」


 先人の問いにあっさりと答える航。地下ではあるが隠す気は無いらしい。薄暗い中ゆっくりと降りて行くと、地下に辿り着いた。牢屋である。瀧は冷静に辺りを見回し、場の様子を把握する。


(小さい窓があるくらいか。清潔ではあるけど)

(…罪人がいない?)


 鋼も辺りを見回し、疑問を感じている。静かなのだ。人の気配を感じない。いや、一人だけ。入ってすぐの牢に男がいた。中年くらいの小柄な感じだ。男はじっと見られている事に気付き、声を出す。


「何でしょう?」


 問われ、先人が代表して声を掛ける。


「私達は都から命を受けた者です。都の者は都で裁くよう指示を受け、迎えに来ました」

「そうなのですか?では出してもらえますか」

「はい。明日、連れて行きますので、今日はこのまま牢で」

「わかりました」


 慌てる事も無く冷静に返す男に疑問を持ちつつ、先人は話を続ける。


「何故このような事を?」

「財を積まれて、つい出来心で、申し訳ありません」

「…ふーん。でも何で書庫に?」


 謝罪をする男に、航が突然疑問をぶつける。男は少し俯き、先人は航を見つめる。


「そうなのですか?」

「うん。何でかなとは思っていたけど。まあ、祖父様滅多に使わないし」

「部屋を間違えまして」

「そう」


 男は俯いた顔を上げ、淡々と答える。航はそれを見つめ、それには興味も無いように返事をする。瀧がふと気になり、男に問う。


「大工って聞いたけど、どこを見ていたの?」

「それは…」


 言いにくそうにしている男に航があっさりと答える。


「ん?上の、一番高い処。あちこち弱くなっていて、直そうと思っていたら都から来たからついでにって祖父様が」

「…良く受け入れましたね」

「父上も驚いていた」


 瀧が呆れたように言うと航も頷きながら返事をする。ありえない事なのだ。味氏が都の者を入れて何かさせるなど。しかし、長である溌の決定。ならば従う他無いのだが、皆おかしいと思う事を敢えてする。それは…。それと、何かを察した先人が小さく瀧に声を掛ける。


「…瀧」

「ああ」


 瀧が頷いている時、鋼は牢の中の男をじっと見ていた。男は怪訝な顔をする。


「…何か?」

「いや、何でも」


 鋼は首を横に振る。男は違和感を覚えながら先人達に向け声を出す。


「もういいでしょうか?話す事はもうありませんが」

「はい。では、明日に」


 先人の返事に皆、頷き、牢から出る。それを見届けた牢の男は牢にわずかにある小窓から外を眺めていた。




 地下から出て屋敷に戻れば仕度が終わったと最帆が航に声を掛ける。そのまま案内され一室に入る先人達。航が声を出す。


「部屋、ここ」

「広いですね」

「そうだな」

「ああ」


 広く、落ち着いた感じである。味の国は衣や飾りも色味が濃く、派手なのも多いが前長である溌の父・帆凪と最帆の趣味なのである。先人は航に向き、頭を下げる。


「航殿。お世話になります。ありがとうございます」

「うん。俺も寝るし、ここで」

「航殿もですか?」

「主君との時間も持ちたいし。…ありがとうございます」

「航殿?」


 突然礼を言われ戸惑う先人と真面目な顔をする航。


「祖父様の事です。解き放って下さり、心より礼を申し上げます」

「曽祖父様(光村)の事ですか? 」


 溌は囚われていた。それは、光村の事。先人の言葉に航は頷く。


「うん。五年前、戦をしようとした。陳氏から味方になるように文が来た時、笑って、戦準備を始めた」

「それは」

「我慢していた。祖父様はずっと。光村様が居なくなって、傷つけた奴らは都で何ともなく生きていて、どうにかしたくても動くなと言われていて、そして亡くなって、辛かったと思う」

「…」


 黙る先人。先程の事を思い出す。夢中で言葉を出したが、溌は、確かに狂っていた。

 航は続ける。


「祖父様は光村様がずっと好きで、会いたいと思っていた。だけど、何にも出来ず亡くなって、何ともないようにしているけどちょいちょい憎しみが出る。どうしても赦せない。さっきのも本気だった。ずっとためて、耐えていた」

「はい。伝わってきました」

「御記様と綾武様が来て収まったけど、祖父様大声で泣いていた。それからはずっとああだった。でも、すっきりしたと思う。怒られて」

「申し訳ありません。また」


 思い出し、慌てて謝る先人に航は首を横に振る。


「ううん。俺は会った事が無いけどあれは光村様なんだと思った」

「曽祖父様では」

「光村様だよ。祖父様から聞いていた通り。きっと同じ事を言った。救って下さりありがとうございます。先人様」


 心からの感謝の言葉を感じ、先人は小さく笑う。


「航殿…。いいえ。私も、溌様と曽祖父様の話が出来て嬉しかったです」

「すごく嬉しそうだったな。二人共」

「幸せです」

「そんなに美しい人だったんだ」

「身も心も美しい人です」


 ぶはっ(むせる。三回目)

 どうしても納得が出来ない瀧はまた吹き出し、せき込む。鋼が背中をさすりながら心配そうに見つめる。


「瀧、風邪か?」

「…うん」


 俯く瀧。そんな二人を気にもせず、航は先人と話を続ける。先人の話を聞き、しみじみと言う。


「そっかあ、会ってみたかったな。ああ、でも祖父様がなあ」

「?」

「昔視察で来た時に屋敷の皆じろじろと見ていて、後で祖父様殴っていたらしいから」

「そうなのですか?」

「美しい人だから変なのがいつも寄ってきて後始末が大変だったと祖父様がぼやいていた」

「曽祖父様のために、ありがとうございます」

「ううん。海なら楽なのに宮中に居た時は気を使って大変だったって。陸は面倒だよね」

「そうなのですか?」

「うん」


 にこにこ笑っている航に瀧と鋼は戦慄した。


(( 怖い…。だから罪人が居ないのか、牢に…怖 ))


 そう思っていた時、ふと、思い出す鋼。


「…先人」

「どうした。鋼」


 考え込む鋼の様子に問いかける先人。鋼は先人を見つめ、


「少し、気になる事があるのだけど」

「ああ、俺も」

「うん。俺もそう」


 鋼の言葉から瀧と航も続く。先人が頷く。



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