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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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十五.航との再会


 宇茉皇子の命で都から青海の国に辿り着いた先人、瀧、鋼は御記屋敷の近くに来ていた。

 鋼が屋敷周りを見渡し深く息を吐く。


「何か屋敷の周り、清らかな感じだな」

「うん。気持ちいい。な、瀧」

「ああ」


 三人、屋敷から流れる清らかな空気に穏やかな気持ちになる。しばらくそうしているとはっと正気に戻り、門の前の兵に声を掛ける。


「都から来ました大知先人です。当主様と約束をしていたのですが取次ぎをお願いします」

「はい。お待ち下さい」


 先人に礼をし、屋敷の中へ行く兵の様子に鋼は驚く。


「ここの兵は穏やかだな。守気の国とは大違い」

「あれはお前が要塞とか言うからだろうが」

「ごめん」


 瀧の指摘にしゅんとなる鋼。先人が真面目な顔で頷く。


「北はまだ警戒しないといけないから。青海の国は御記様の威光も強く、都にも近い。事を起こす者も少ないだろうし、」

「まあ、和乃国最大勢力筆頭に手を出す奴なんていないだろうな」

「そうだな」


 先人と瀧の言葉に深く頷く鋼。伝説と謳われる皇后を出した氏族であり、皇統でもある。最大勢力筆頭であるのも当たり前。誰もおいそれと手は出せないのだろうと鋼が考えていると品のいい壮年の男と顔立ちが似た若い男がやって来る。若い男の方が先人に声を掛け、頭を下げる。


「先人様」

「採様、瑞様も。お久しぶりです。…宗様は?」


 声を掛けられ、先人もすぐに頭を下げる。瀧も、困惑しつつも鋼も同じく頭を下げる。採も瑞と共に頭を下げていたが、頭を上げ、先人に優しく答える。 


「お久しぶりです。父は少し出ております。私が伺います」

「突然申し訳ありません。お手数をかけてしまい」

「いいえ。この度は味の国とはお疲れ様です。まったく統括と言う立場を何だと思っているのやら皇族は」


 憤慨したように声が強くなる採に先人は小さく首を横に振る。


「いいえ。ここで私の立場を明確にしなければ皆様にも累が及ぶかもしれません。皇子様もお考え下されたのです」

「…先人様。大王は、」

「わかっております。覚悟は出来ています。だからこそ明確にしなければなりません」

「はい。我々もお支えします。何かあればお知らせ下さい」

「はい」


 採の言葉に真っ直ぐに答える先人。それを見て小さく頷く採である。そして目線を瀧と鋼に向ける。


「そちらは、服織殿と」

「お久しぶりです。当主様。こちらは、」


 瀧が紹介しようとすると、すかさず鋼が再び頭を下げる。


「都より命を受けて職人を引き取りに来ました。職人の方の責任者で、鍛冶師の鋼と申します。当主様」

「鍛冶師?味の国の罪人は大工だったと」

「無事に戻れるよう真面目で誠実な者を都が用意したのです」

「ほう…」


 大工なのに何故鍛冶師と疑問に感じた採の様子に瀧が説明する。採は怪訝な顔で見つめていると、先人も説明する。


「私の幼馴染で、幼き時より味方で居てくれた誠実で良き者です。宮中御用達の鍛冶師としての腕も良く仲間からも慕われて、次期頭の立派な者です。問題ありません」

「幼き時から…。成程。瑞」

「はい」


 先人の言葉に一応納得した様子の採が瑞にも見るよう促す。瑞が頷き、鋼を見つめる。


「どうだ?見た感じ問題無いと思うが」

「はい。月の光と穏やかな輝き、ゆるやかな川の流れ。全く問題はありません」


 採と瑞が若干小声で相談しているのを聞こえた鋼が困惑する。


(何それ?)


*伝説の皇后様の力。相手を見ると情景が出る。怪しい者はかなりすごい。集中して見るもの。


「瑞、案内なさい」

「はい」


 問題無いと判断した採が瑞を促し、瑞も頷く。湖から川、波流の港までの案内だと察し、先人は恐縮する。


「前(出征時)に引き続き申し訳ありません。瑞様。次期当主様に案内をさせてしまい」

「いいえ。お役に立てて嬉しゅうございます。これも次期当主としての役目でございます」

「…お前そんな事をした事無かっただろうが。どんな客人が来ても使用人に対応させ」

「父上。行ってまいります。行きましょう先人様」


 採の指摘に被せるように瑞が声を少し大きく出し、先人達を促す。先人は採に向き、また頭を下げる。瀧も鋼も同じく。


「採様。ありがとうございました。行ってまいります。瀧、鋼。行こう」

「ああ」

「うん」


 先人達は瑞に付いて行く。





 湖に行き、川船に乗り、波流の港へ着く。ここから海の船に乗って味の国へ行く。

 港は賑やかである。船人は勿論、移動するために来ている人の多い事。商人、職人、民、色々である。渡来人もいる。店もそこここにある。

 先人は辺りを見渡す。


「海の香りがします。賑やかですね」


 前の時は出征であり、兵も連れていた。港の様子も落ち着か無かったのだが、いつもの様子を見て皆が元気に過ごしているのを見てほっとする先人である。瑞も辺りを見渡す。


「はい。ここは海の者休み処にでもありますから。気性が強い者も多いですしお気を付けてください」

「私は大丈夫です。瑞様の方が心配です。綺麗な方ですから」

「…」


 先人の言葉に無言になる瑞。それを見ていた鋼が慌てて先人に近付く。


「先人。男に綺麗と言うのはどうかと思うぞ」

「申し訳ありません。失礼を」


 鋼の指摘に慌てて頭を下げる先人。瑞が静かに首を横に振る。


「いいえ。そう思われますか?」

「はい。清らかで颯爽として綺麗な方だと思っております」

「…そうですか」


 一切邪気が無く、曇りの無い真っ直ぐな目を向けて言われ、何とも言えない瑞。先人はその良く分からない空気のまま真面目に頷く。


「はい。なので川船まで送ります。何かあっては宗様や採様が心配なさいます」

「先人様。私は当主となる者として鍛えられているので大丈夫ですよ」

「は、そうですね。また失礼を致しました。申し訳ありません」

「いいえ。心配して頂きありがとうございます」

「当たり前です」


 先人の言葉に優しく微笑む瑞。力のおかげで人の黒いものが見えてしまうので幼い頃から苦労していたのだが、先人が一切黒く無く真っ直ぐに答えるものだから何か安心したのである。

 それを見ていた鋼は、


(先人、お前すごいわ)


 と心から思い、瀧は遠い目をしていた。


 それから辺りを見回しながら歩く四人と瑞の供の者ら。


「船がたくさんありますが、どこでしょう」

「私の方から鷹を飛ばしまして、迎えに行くと言っていました。来ていると思います」


 先人の問いに瑞は辺りを見渡し答える。そんな中、後ろを歩いていた鋼が俯く。


「…気が重い」

「ん?」


 瀧が鋼に近付き、話を促す。鋼は言葉を重くする。


「味の国も有名だし」

「引きこもる以上の事があるのか」

「生きて帰った奴がいない」

「…まじか」


 鋼の言葉に若干引く瀧。服織として知ってはいたが、一般の民にまで伝わっているとはと驚く。そうとも知らず、鋼は続ける。


「まじだよ。何か良くわからんが引きずられて投げられるとか。それで帰れないってあるのか?」

「…まあ、陸なら無事だが、な」

「え?…まさか」


 瀧の言葉に察した鋼が叫ぼうとする寸前で、向かい側から背の高い鋼と同じ歳くらいの男が現れる。


「先人様」

「航殿。お久しぶりです」


 嬉しそうに先人に声を掛ける若い男。味の国当主の子であり、長である溌の孫、航である。


「うん。久しぶり。瑞様、お疲れ様です。そちらは、服織殿と」


 先人には素の言葉。瑞には敬語である。ぱっと見は瑞に礼を向けているようだが味氏は逆である。航は瀧を見て、隣にいる鋼に目を向ける。


「都から命を受けて職人を引き取りに来ました。職人の方の責任者で、鍛冶師の鋼と申します。よろしくお願いします」

「そうですか。都よりわざわざお疲れ様です。当主の子の航と言います。海にちなんだ字。そっちは?」

「鉄の方です。若様」

「鍛冶師らしいですね」


 にこにことしている航の様子に少し気を抜く鋼。


(噂だけか?優しそうな若様だけど。いや、だけど何か…)


 鍛冶師として色々な人物を見て来た勘と言うか、目の前の人物に何かを感じ、困惑する鋼である。

 瑞がにこやかに紹介をする。


「先人様の幼馴染だそうですよ」

「はい。幼き時より味方で居てくれた大切な人です。宮中御用達の鍛冶師で次期頭なのです。腕もいいし、皆に慕われる良き者なのです」


 嬉しそうに話す先人。鋼を大切に思っているのである。が、しかし、と思い瀧が声を出す。


「いや、先人」

「先人。ありがとうな。そこまで言ってくれて嬉しい」

「本当の事だ」


 二人笑い合う。それを幼い頃から見ている瀧は内心頭を抱える。


「へえ。そうなんだ」

「ええ。先程も先人様が褒め称えていましてね」


 瑞と航が穏やかに会話をしている。が、瀧は察している。


(どっちも目が笑っていない…)


 五大氏族は個の忠誠心が強い。主君のために皆協力はするが個々で仲が良いわけでは無い。主の一番になりたがる。上の世代はすごかったらしい。*吹談


 瀧が更に内心頭を抱えていると、航が瑞に頭を下げる。


「じゃあ瑞様。連れて行きます」

「はい。先人様お気を付けて。お二方も」

「ありがとうございます」


 瑞の挨拶を受け、先人は礼を言い、瀧と鋼は頭を下げる。この先は、味の国である。


次回は味の国に入ります。

瑞さんは伝説の皇后様(御記皇后様)の力が強く出るので人の黒い(欲)が見えて大変でした。先人は本当に感想を言っただけなのですっと心に響いた感じです。

味氏はこれからの話で大分わかると思います。

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