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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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十四.新たなる命令

〔都・宮中〕


 了を軍部に預け、鋼は鍛冶場に戻り、宇茉皇子の元に戻る先人と瀧。宮中ではあちこちから見られ何やら噂をされているが気にしない二人である。

 いつもの書庫に宇茉皇子がいた。荻君は書簡を取りに行っているらしい。先人と瀧を見るなり宇茉皇子が立ち上がり近付いて来る。


「良くやった」

「はい。ありがとうございます。皇子様。それで」


 すぐに労いの言葉を掛けられる。それに対し先人は何か伝えようとするが察した宇茉皇子に遮られる。


「ああ。操られたと言う点は考慮するよう伝えてある。裁く者も軽く済むと言っていた」

「ありがとうございます」


 守気の国からの帰る前に鷹を飛ばしていたので話が伝わっていたのである。すぐに対処してくれた事に感謝し、先人は深く頭を下げる。瀧も軽く。それを見て宇茉皇子は小さく息を吐く。


「操った者らを連れて来ないのは考えものだが」

「命令されていなかったので」

「瀧。申し訳ありません。私の独断です。しかし、」


 平然と答える瀧に先人は咎めるが、宇茉皇子が小さく首を横に振る。


「わかっている。守気の国へも配慮しなければならない。あちらはまだ火種が燻っている。統括としての判断は正しい」

「はい」

「今後は我らとの釣り合いも採らなければならない。難しい立場だ。綜大臣にも宣言したのだ。上手くやらねばな」

「はい。助言、感謝致します」

「ああ」


 宇茉皇子と先人が話をしていると、荻君が書簡を持ち入って来る。宇茉皇子に頭を下げ、すぐに先人と瀧に目を向ける。


「先人、戻ったのか。服織も」

「荻君殿。はい。戻りました」

「大変だったとか。まあ、大丈夫そうだな」

「はい。気遣いありがとうございます」


 労う荻君の顔をじっと見つめる先人。荻君は戸惑う。


「どうした?」

「いえ。荻君殿一人で護衛、お疲れ様です」

「ああ。しょっちゅうお前らが居なくなるからな」

「すみません」


 先人が謝るとすかさず、


「私の指示だが」

「申し訳ありません」


 宇茉皇子が割って入り、荻君は恐縮する。それを見て少し笑う宇茉皇子。揶揄っているのである。

 先人が荻君に声を掛ける。


「戻りましたゆえ、交代します。荻君殿お休みください」

「いや、お前達も戻ったばかりだろう」

「大丈夫です。休みながら来ましたので」

「いや、先人、瀧。悪いが次がある。荻君も悪いな」


 いつも宇茉皇子に付きっきりで休む間も無いので交代しようと先人が提案していると宇茉皇子がすまなさそうに間に入る。先人が驚く。 


「次、ですか?」

「ああ。戻った処悪いが出来るだけすぐに行って欲しい」

「…守気の国より問題が?」


 宇茉皇子の言葉に引っ掛かりを感じた瀧が問う。宇茉皇子が頷く。


「まあ、ある意味厄介だ。あちらより」

「五大氏族ですか?」


 先人の問いに宇茉皇子は苦虫を嚙み潰したような顔で再度頷く。


「ああ。都から行った技術者がまた」

「…間者に?」

「ああ」


 恐る恐る聞いた先人に宇茉皇子があっさりと答え、瀧は呆れる。荻君もため息を付く。


「どうなっているのですか。都は」

「まったくだ。今回は技術者を返さないと使者を突っ返された」

「せっかく守気の国が従ったのにもかかわらず他の五大氏族が突っ返すと言う事は統括出来てないと判断される。統括としての立場が危うい。それと五大氏族以外の国もそれに追随して都の命に従わなくなるかもしれない。それでは困ると」

「そうだ。流石だな。瀧」

「どう致しまして。それで、今回は先人にどこの国へ行けと?」

「味の国だ。統括として説得してくれ。頼む」

「はい。拝命しました」

「了解しました」


 先人、瀧が順に了承する返事を出す。宇茉皇子はそれに軽く頷き、荻君に目線を向ける。


「ああ。荻君もすまないが頼む」

「はい」





〔数刻後・都の国境付近〕


「で、俺かよ。何でなんだよ」


 頭を抱える鋼。鍛冶場に戻ればまた行けと頭であり父である鉄に言われ、再び都の入り口に。すると、


「まあ、今回は鍛冶師じゃ無いけど守気の国に行って引きこもらず生きているのはお前だけだからだろ」

「鋼、大丈夫だ。一緒だ」


 平然と答える瀧と笑顔の先人が居た。


「何でいるんだよ。嬉しいけど」

「うん。皇子様の命で」

「そ、受け取って来いって」


 あっさりと答える幼馴染二人に鋼も腹をくくりいつもの調子に戻る。


「お前らの処の皇子様も大変だな。五大氏族と関わるなんて心労すごいだろうに」

「そうかな。平気そうにしているけど。な、瀧」

「まあ、切り札を持っているからな」


 そう言いながら先人を見る瀧。驚く鋼。


「え?そうなのか。すげーな。聞いた話だとどこも都嫌いで言う事聞きそうも無いと思っていたのに。やり手なんだな」

*統括は正式な役職で無いため、宮中の貴族らのみ周知している。後、綜大臣により厳命され内密とされている。

「そうなのか?瀧」

「ああ。自覚無いの」

「へー。すごいな」

「?」


 わかっていない先人と平然と答える瀧、感心する鋼である。

 取り敢えず、気を取り直して順路を考える鋼。


「味の国へ行くには青海の国から湖で川に入り、波流の港へ。そこから船に乗って味の国へ。それが一番早い、が」

「それでいいと思うけど、どうしたんだ。鋼」


 何か引っかかっているような物言いに先人は不思議そうに鋼を見る。鋼は首を横に振る。


「いや、親父の話で」

「ああ。青海の国での話?」

「ああ。青海の国の当主一族が恐ろしいと聞いたからな」

「目が笑ってないだけだろ?それくらい何だ」


 鋼が不安そうになっているのを一蹴する瀧。鋼は更に首を横に振る。


「会う人間を厳選しているらしい」

「は?」


 良くわからないと言った風な瀧に鋼は続ける。


「伝説の皇后様の力。それで判断しているらしい。見合わない者は兵に引きずられ」

「…で?」

「都に帰った者はいない」

「…怖。いや、しかし、都に近いだろうが。都と軋轢をつくる事はしないだろう」

「何かしらやらかしているらしいから独自で裁いているらしい。証拠も残さないと」

「伝説の皇后様の力を何に使っているんだよ」

「まったくだ。まあ、だから、俺大丈夫かな」


 鋼の話に思わず突っ込む瀧。ため息を付く鋼。自分も中々の性格をしているので引っ掛からないかと心配をしているのである。それを察した先人が声を出す。


「大丈夫だ。鋼は真っ直ぐで筋を通す優しい人だ」

「先人。ありがとうな」

「うん。大丈夫だ。行こう。皆様優しくて穏やかな方達だ。話せばわかってくれる。鋼は必ず守る」

「先人、立派になったな」

「ありがとう。鋼」

「とっとと行くぞ」


 いつもの褒め合いが始まった事に呆れつつ先を促す瀧。鋼から少し離れ、瀧が先人に小声で話す。


「…鷹は?」

「うん。船を頼まないといけないし」

「それは上々」

「瀧。さっきの話。俺は大丈夫かな?」

「この前会っただろう?」

「曽祖父様の事だし。俺だけだと違うんじゃないかな?」

「大丈夫だろ」

「そうかな?」


(あの男(光村)の方が余程…)


 光村の本性を知っている瀧であるが、何故光村は御記氏に引っ掛からなかったのか疑問に思うのである。



再び鋼と共に出ます。この三人の絆は強いです。瀧の疑問ですが、御記氏は人の本質を景色で見ると言う感じで、性格はわかりません。光村は国を安定させる信念が美しく見えていたという感じです。ちなみに光村は騙す気は無く、地方氏族の者達に対し、誠実に接しているので本来の性格もそうだと思われています。都では冷酷と言われているのは、色々事情もありだったり上に立つ者としての責任だったりです。



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