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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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十三.もう一つの月の記憶

前回書き忘れました。これで守気の国編は終わりになります。


「 … 」


 先人達を見送り、その背を見つめながら黙り込んでいる衡士に戍士が声を掛ける。


「父上、先人様は大丈夫でしょうか」

「同じ血、同じ顔を持つ者が、綜氏の血を引いた皇族と共に先人様と、何と言う事か。因縁でしょうか」

「曽祖父様」


 戍士に続き、衛士、護士も案じている。それを聞きながら衡士は昔を思い出す。


回想・・・


『光村、頼む』

『まったく。自分でやれ』

『悪い。じゃあな』


 沢山の書簡を押し付け去って行く男に光村は呆れ顔である。


『おい。…申し訳ありません。衡皇子様。手伝わせてしまい』


 去って行く背に一声掛けるが聞こえていないのか行ってしまった。それにため息を付き、衡士に向き直り謝罪をする。


『構わない。北へ行く前に国を治める事を学べる。だが陳氏は。光村を何だと思っている。何もかも押し付けて』

『あれでも大連なのです。敬称を。仕方ありません。陳大連にしか出来ない事もあるのです』

『…壊すだけだ。何も生み出さず。…悪い』

『それは私の役目です。衡皇子様。大丈夫です。新鹿は』


 小さく笑う光村。臣籍降下の手続きが終わるまでは皇子だからと言葉も変えなくていいと言ってくれたがそろそろ直さないととも考えていた。


回想終わり・・・


 先程の了の言葉を思い出す。


『陳氏当主の御子ですよ』

『陳新鹿様に良く似ておられました』



 青海の国で集まった時を思い出す。


回想・・・


 宗が無表情で話す。


『居たのですよ。裏切りの分流が』

『…ふーん。何で?あ、皇族に助けられたって』


 どうでもいいという様子の溌が思い出したかのように言う。

 宗が熟練に詰め寄る。


『熟練様。あの者の話題を突然出すので驚きました』

『念を押すつもりだったのだ。近くに居れば情も沸くかもと』

『…例えそうなっても引き剝がすまで。時が来れば出仕させます』


 眉を寄せ不機嫌な空気になる宗を不思議そうに見つめる溌。


『何で?ただの分流だろ』

『ああ。皇子の力に守られるだけの弱き分流だ。そうだな。宗殿』

『ええ。何かの因縁ですかね。今更来られても困りますが』


 熟練が平坦に言い、宗が遠くを見る目になる。


回想終わり・・・



現在


「父上?」


 黙り込んでいる父・衡士の様子に戍士が声を掛ける。その声にはっと正気に戻り衡士は戍士達に目線を向け、静かに低い声を出す。


「…急ぎ文を出す。宗様へ。護士」

「はい」


 突然自身に声を掛けられ一瞬戸惑うがすぐに立て直し、衡士に返事をする護士。それを見て衡士は淡々と話す。


「急ぎ鍛える。着いて来られるか?」

「はい。勿論です」

「戍士、衛士。場合によってはすぐに出仕をさせる。成人させるぞ」

「はい」

「そのように」


 衡士の言葉に戍士も衛士も即決で返事する。それに衡士は頷く。


「女大王。光村様を失脚させた陽大王鍾愛の皇女。綜大臣は統括を抑えに来た。場合によっては潰す事も考えられる。次代はどちらの皇子にしても綜氏の血。そして陳氏。同じだかつてと。一人にしてはならない。一人にしては」

「はい。一人になったその時、」

「わかっております」

「はい。曽祖父様」


 衡士が冷たい空気を放つ。そんな中を平然と戍士と衛士、護士の順で答え、頷く。

 衡士は空を見上げる。


「早く、引き剝がさなくては。同じ轍を踏ませるものか」



『衡皇子様。大丈夫です。新鹿は』

『衡士様。大丈夫です。荻君殿は違います』



 失脚して三年経った時、突然繋ぎが来た。あの方は月を眺めて待っていた。背を向けているため、表情は見えない。月明かりが強いため、振り向けば見えるがこっちを見ようとしない。


『また、飲もうと約束したからな。これで最後だ』

『光村様。申し訳ありませんでした。私は、』


 光村が失脚し、追放された時北の反乱が強く都に向かう事叶わなかった事を謝罪しようと声を出そうとするが遮られる。


『北の守り大変だっただろう。思ったより反乱が大きくなっていた。判断を誤った。申し訳ありません。私はいつも間違える』


 衡士として、衡皇子として伝えているため口調がばらつく光村。決意を込め、その背に向かい跪く。


『…北は、ほぼ収まります』

『それは何より』


 跪く気配を感じているだろうが、かつての主君に敬意をはらっていると思っているだろう光村はこちらを見ず答える。


『今なら動けます。こちらも兵を出せるのです。光村様。在るべき場所にお戻りください』

『私はもう戻れない。陳大連が守っている。これで良いのだ。これで…』


 その返事に立ち上がる。その気配を感じているのになおもこちらを見ない。ならば、


『光村』


 背を向けていた光村がはっとして振り向く。かつての力関係が身に染みているのだ。今ここにいるのは皇子だと察したのだ。


『…衡皇子様』


 そう呼ぶが、光村は俯き目を合わせない。気にせず強く伝える。


『お前は私に言った。国を安定させる。そのために生きると決めたと。お前の居場所はそこでは無い』

『良いのです』

『私が即位すれば良かったのか。私のせいで』

『違います。貴方様はその才を持って国を守る御方です』

『私の意思を汲んでくれたのはお前だけだ。守ってくれたのも。今度は私の番だ。お前を戻す。戻って下さい。光村様』


 衡皇子から衡士に戻り、叫び懇願する。光村は俯いたまま首を横に振る。


『そうなれば、きっと荒れましょう。宮中も国も。私はそれを望まない』

『光ー』

『すまない。衡士殿。申し訳ございません。衡皇子様』


 光村は深々と頭を下げる。そしてまた背を向け、月を見上げる。


『貴き御方を下ろしてこの始末。私は、愚か者です』


 光村がそう言った後、月が一瞬陰る。そして再び月が出れば光村は消えていた。


 あの時、光村は戻れないと言っていたが戻りたいと言う声が内から聞こえた気がした。それなのにそうなれば国が乱れると己を律して去った。


 その後はあの男が綜大臣(現綜大臣の父)と共に陽大王を支え、国を治めた。


 あの男が、壊した。反乱を起こした国を破壊し、何もせず去り、光村にすべて押し付け、そして壊した。私の師であり兄とも思う、私の身内を、私の主を。すべて奪い、壊した。


『陳新鹿様に良く似ていました』

『衡士様。大丈夫です。荻君殿は違います』


(違う。違います。先人、先人様。その男を信じるな。信じてはなりません)



 かつて、光村に伝えたかった。


『衡皇子様。違います。新鹿は』


(光村。信じてはならない)





〔守気の国・都へ戻る道中〕


 山の中を歩いている四人。ふと思い出し、鋼が話し出す。


「しっかし、驚いたな。似ていたんだ。あいつ」

「あいつ?鋼は会った事があるのか?」


 五年前までは荻君は大連の子だが、成人前なので面識は無いと思っていた先人は驚いている。

 鋼は頷き、瀧に目線を向ける。


「ああ。瀧も、な」

「…ああ」


 言いにくそうに返事をする瀧だが、鋼は平然として先人に顔を向ける。


「と言うか先人も」

「え?」

「あの乱の一年くらい前か。瀧にやたら絡んでいて先人を目の敵にしていた」

「そんな事あったかな?」


 少し考える先人に鋼は苦笑いをする。


「いや。大分、かなり言っていただろう。腹立つわ」

「いつもの事だったから」

「それも腹立つ。な、瀧」

「ああ」


 先人の言葉に鋼も瀧も腹立たしく思う。その様子を見ていた了が声を出す。


「若。余計な事を言いましたかね。すみません。先人様」

「いいえ。大丈夫です。了さんが罪が軽くなりそうで良かったです」


 了が反省していると先人が首を横に振る。陳氏の話よりも了の罪が軽くなりそうな事の方が大事なのである。鋼が嬉しそうに頷く。


「ああ。そうだな。薬じゃどうしようもないだろうし。瀧、あれそんなに強いの?」

「ああ。けど、あれは香りが強いから通常使わないんだけどな。詰めが甘い」


 自分で言いながら深く頷く瀧。鋼がそれを見つめていたがすぐに了に向く。


「ふーん。了さん、体は大丈夫か?」

「あの時痺れた感じがしましたがそれだけです」

「まあ、少しだけだろうし後遺症は無いだろう」


 瀧があっさりと答える。それに安心する鋼。


「そっか。そりゃ良かった。また働ける」

「いいのでしょうか」

「まあ。どうしようも無かったし、それは上に伝えてくれるか?先人、瀧」

「うん。皇子様にも伝えておく」


 先人の返事に瀧も頷く。


「まあ、難しいなら知り合いの処紹介するように親父に言っておくわ」

「ありがとうございます。若。先人様、瀧様」

「いいってこと」

「いいえ」

「そうそう」


 了から礼を言われ、鋼、先人、瀧の順で笑顔で答える。そうして四人、都へと向かうのである。

これにて守気の国編は終わりになります。衡士は皇子時代は大変でした。光村だけが身内と呼べる存在で、それを奪う原因になった陳新鹿を深く恨み、憎んでいます。月は良い記憶でもあり辛い記憶でもあります。ちなみに、回想の時はあくまで衡士の視点ですので本編と同じ場面でも違う感じになります。


次は味の国編ですが、先に都の話を少し。すぐに入ります。更新はいつも通り水・土曜日になります。良ければまた読んで頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

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