十.間者
守氏の屋敷から都に戻る道中、一休みのため先人、瀧、鋼、了は近くの村に辿り着いた。間者が近くに居るかもしれないと言う思いが皆あるが取り敢えず一休みである。鋼がきょろきょろと辺りを見回す。
「どこか休める処は」
と呟いていると、村人らが走って行く。
「何だ?すみません」
その様子に鋼が気になり、近くに居た村人に声を掛ける。若い女の人だが鋼達を見て少し引いたようになる。脅えているのか警戒しているのか声も小さく答える。
「…はい」
女の人の様子に鋼が察して話始める。
「青海の国から家族に会いに来たのですが村の皆さんが走って行くのが見えて。何かあったのですか?」
「…青海の国?」
女の人の目に少し光が宿った様子になる。五大氏族は同盟国でもあるので警戒が薄れると踏んで話してみたが合っていた事に内心ほっとしながら話を続ける鋼。
「はい。行った事はありますか?湖が綺麗で、川につながっているんですよ。国のあちこちに繋がっていて要の意味が良く分かり」
「そうなのですか。聞いた事がありますが湖はそれほどに?」
北は海はあるが南の味の国や津の国ほど穏やかな流れでは無いため、穏やかな水の流れと言うものに憧れがあるのである。女の人は食いつくように話すの続きを求める。それを見ながら鋼は笑顔で話をする。
ちなみに先人達は少し離れて心配そうに見つめている。
「はい。水面が陽の光に照らされ、海より穏やかなので輝きが美しく」
「それは綺麗でしょうね」
「はい。とても。実は出稼ぎで青海の国に行っていたのですが家族が急病と聞き戻りました。この先の里なのですが、少し休もうと寄ったら皆様走って行かれるので、何かあったのですか?」
「いえ。大した事では、行商人が来ていまして。珍しい物も多く皆が我先にと見たがって」
「成程。ありがとうございます」
「いいえ。こちらこそ。疑って」
「当たり前です。こちらこそ気安くしてしまい、すみません。あ、先をどうぞ」
「はい。良き話をありがとうございます。では」
すっかり警戒を解いた女の人が鋼に頭を下げ去って行く。北は反乱が多く未だ燻っている事は念頭にあったが民の警戒も強いと言う事を忘れ、気安く声を掛けてしまった自身に反省をしつつ息を付く鋼。
女の人が去り、見えなくなった処で先人達が近付く。
「…鋼、お前すごいな」
「うん。すごい。鋼」
「若、すごいです」
珍しく瀧が称賛すると、先人と了も順番に目を輝かせて頷く。鋼はその場でしゃがみ込む。
「…疲れた。咄嗟にな。親父の話をそのまま言った。昔行ったらしくて」
「頭が、そういえば技術交換で青海の国に行ったと」
了が思い出したように話すと鋼が頷く。
「ああ。警戒はされなかったが何か怖かったと言っていた」
「何が怖かったんだ?」
「当主一族。目が笑って無かったって」
「ああ…」
鋼と瀧が会話をする。鋼の言葉に何かを察した瀧が遠い目をする。先人は不思議そうに見る。
「そうなのか?」
「祖父や父(鋼にとっては曽祖父と祖父)が光村様との付き合いが深いと知ったら一変したらしいけど」
「え?」
「どうなったんだ?」
驚く先人とまた珍しく食いつく瀧。鋼が空を見つめ、思い出したように話す。
「何かすごく歓迎されたって。光村様の子供の頃の話をしたら喜んでいたってさ。鉄を打つより話過ぎて疲れたって言っていたな」
「…鋼」
先人の声が少し低くなり、察した鋼が頷く。
「ああ、後でな。結構長いから」
「うん。ありがとう」
「ほんとにすげーわ。お前。」
嬉しそうに礼を伝える先人と鋼の懐の深さに感心する瀧。昔からそうである。
「まあ、話には気を付けたって言っていたな」
「ん?何が」
「…幼馴染」
瀧の問いに言いにくそうになる鋼。先人も察するが、了も察した。
「それは」
「ああ、あの」
「知っているの?了さん」
鋼の問いに軽く首を横に振る。
「子どもの頃に少し見ただけです」
「そっか。いや、そんな事より、どうする?行商人だって」
不自然だが話を切る鋼に瀧は気にせず答える。
「行くか」
「うん。行こう」
先人も食いつく様子に鋼は頷き、了を見る。
「そっか。見てみるか。了さんも行くか」
「はい」
何人かの行商人が品を広げている。衣や焼き物、布や小物、飾りだったり、薬草だったり、書物も少し。とにかく色々ある。その中を見ながら歩いている四人。こっそり話す。
「…何か都で見たようなものが多いですね」
「そうか?」
「若は独り身だから。娘や孫にね、時々妻にも」
「そうかあ。なら余計にわからん」
どれを見ても良く分からないと言った様子。気になるものなら研究するがそれ以外となるとてんで駄目になる鋼である。それを見て小さく笑う了。
「若も身を固めればわかりますよ」
「まだまだだな。未熟者だし」
「鋼は立派だ」
「ありがとうな。そう言ってくれるの、先人だけだ」
「…また始まった」
呆れ顔になる瀧。そうしてあちこち見ていると、ある行商人の前に行く。そこは人もそこそこいたので店主となる行商人と目を合わせず品物を見てさっと行くが、その後了が考え込む。
そのままあちこち見ながら歩いていると
「…若」
袖を引き、本当に小さな声で話しかける了に頷き、人気の無い場所に行く四人。
「どうした?」
「…思い出しました」
日も暮れ始め、行商人達が各々荷物をまとめ始める。最後に残った行商人に瀧が声を掛ける。
「ねえ」
「はい。何か買いに?店じまいですが」
「この辺りの言葉じゃないね。どこから?」
「そりゃ行商人ですから。どこにでも行くし言葉も混ざりますよ」
「元は職人さんだった?」
「いいえ。元々行商人です」
「だろうね。鍛冶師の手じゃない」
「!」
瀧が行商人の手を掴む。
「鍛冶師にしては綺麗な手だね。皮の厚みも足りないねえ。それと、この香り?」
隠れていた了に声を掛ける。
「はい。手と体つき。おかしいと思って止めようとしたら香りがして意識が」
「何でこれにしたのかな?素人に気付かれるようなものを使うなんて。ああ、本物じゃないからか」*影として二流
「何?」
瀧の昏い顔と声にぞっとする行商人(?)。
「瀧、もういい。…仲間は?」
「誰が言うか」
「…仲間は?」
一瞬で変わる重い空気と圧に更に恐怖を感じる行商人(?)。
いつもの先人では無い様子に驚く了が鋼を見ると
(先人。立派になって)
と何か感動しているような鋼の様子。
(若は、一生変わらないだろうなあ)
と了は思った。




