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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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九.事情

〔守気の国・都への帰り道中〕


 守氏の当主一族に別れを告げ、都に戻る道中の先人、瀧、鋼、了の四人。山道をかき分け、なだらかそうな道になった時、鋼が息を付き、瀧に目を向ける。


「やっと一息付けた。なあ、瀧」

「うん?別に」

「少し緊張していたからほっとした」


 平然と答える瀧に対し、先人は胸に手を置き安心したように言う。それを鋼が不思議そうに見る。


「先人が?落ち着いている感じだったから平気だと思っていた」

「ううん。大知屋敷はあんなに大きくないし、入れる処も限られているから」

「…ああ」


 先人の言葉に鋼は察する。


(当主か。やっぱりあいつ嫌いだ)


 幼い頃からの先人に対する態度・対応に憤りを感じ、何度か父である鉄と抗議もしたが聞き入れられる事は無かった。


(たかが鍛冶師と言いやがった。光村様も祖父のあの方もそんな事一度も言わなかったと聞いているのに)


 鋼は更に内心怒ってた。鋼は代々宮中御用達の鍛冶師の一族。将軍氏族の大知氏とは付き合いが代々あるが光村もその祖父も礼儀正しく接してくれたと曽祖父や祖父、父から聞いている鋼は現当主の物言いと態度に腹を立てているのである。


 そんな鋼を察しているのかいないのか、瀧が先人に声を掛ける。


「それって服織屋敷うちは狭いって事?」

「そうじゃない。でも瀧の服織屋敷いえをあちこち入るのは失礼だろう。服織様に怒られる」

「親父は気にしない。むしろもっと探検すればいいのにって言っていた」

「そうなのか?」


 会えばいつも気さくに声を掛けてくれる瀧の父であり服織氏当主・吹を思い浮かべる先人。それを見つめ鋼が考え込む。


「へー。瀧の父上っていい人だな。俺はあまり会った事無いけど。会っても挨拶程度だし」

「そういえば鋼、大知屋敷に来ないけど、瀧の服織屋敷にも行った事無かったっけ」


 考えてみれば鋼と会うのはいつも鍛冶場である。長い付き合いだが大知屋敷に来ることは、幼い時の数回程度で後は本当に来ていないと思い返す先人に鋼は平然と答える。


「まあ、出禁だし。大知屋敷は」

「え?」

「何で?」


 先人、瀧の順で驚く。鋼は平然としたまま続ける。


「お前(瀧)と出会う前に色々やったから。むかついて」

「あー」


 鋼の言葉に察し、納得して先人をちらと見る瀧。


「鋼、何で?」

「うん?当主様に嫌われた」


 鋼の当主様と言う言い回しに若干の悪意を感じる先人が首を傾げる。普段の鋼は他者に悪意を向ける人間では無いため困惑していると、


「…若」

「あ、うん。どうした?」


 了が鋼に話しかけたので話は終わる。鋼もこれ以上それについて話す気は無いと感じたので了の話に耳を傾ける。

 了は真剣な顔で謝罪をする。


「本当にすみません。私のせいで」

「もういいって。お前の家族の事は親父に言って何とかするから。病って言っていたけど上や頭に報告して守気の国行きを中断しなかった辺り大きな病では無いんだろう?」

「はい。ですが医師に診せる財が足りず」

「何で?了さん贅沢とかしないし、うちは充分働きに対して出していただろう?」


 荒くれ者が多いとは言え、宮中御用達である。充分に給料は出る。了は家族思いの真面目な性質のため急に必要になったとしても支払えると思うと鋼は指摘する。それに了は首を横に振る。 


「盗みですよ」

「盗み?」

「ここに来る直前に家に盗みが入って財が取られちまったんです。すぐに欲しかったので」

「盗みか。ここ最近はそんな話無かったのになあ」


 了の話に鋼が考え込むと、先人と瀧、無言になる。やがて瀧が口を開き、了に問う。


「あのさ。守気の国に行く事はどこかに話した?」

「え?はい。守気の国と聞いて恐ろしくて行きつけの店や仲間につい愚痴を」


 その言葉に瀧は察し、先人に目線を向ける。


「…先人」

「うん」


 先人が頷くと、鋼が考えを話す。


「…つまり、何だ?最初から仕組まれていたって事か?と言う事は近くに居るって事か。犯人が」

「え?そうなんですか」


 了が驚く声を出すと瀧が人差し指を立て静かにという姿勢をとる。瀧が若干小声になる。


「ここからは速さはそのままで歩きながら小声で話そう。…了さん。その話をした相手の特徴はわかる?」

「夜でしたし、同じ鍛冶師と言っていましたが。主に頼まれて武器を改良したい、見取り図は守りの屋敷を参考にしたいから、それは別の職人に頼むからと言っていました」


 了の話から三人考える。


「どこの鍛冶場とかは…言う訳無いか。そもそも鍛冶師かもわからんし」

「本物かもしれない。何人かを経由して情報を得ているかも」


 鋼の言葉に先人も考えながら話す。了も思い出しながら話す。


「違う鍛冶場だとしか。…でも何か変なんですよ」

「何がですか?」

「夜で顔は見えず背格好と、後は手。何か変だったのですが」


 先人の問いに何かを思い出そうとする了。それを見つめていた鋼がため息を付く。


「そもそも何でそんな怪しい奴の言葉に従ったんだよ。宮中に顔を出すと言う事で軍部の方からも徹底して言われていただろう。何かあれば従わず知らせろって」

「はい。そうです。わかっています」

「なら何で。家族の病と盗みに動揺したのか?」

「帰ろうとしたんです。その時、一瞬意識が、気が付いたら引き受けた事になっていて報酬も貰っていて、やらなければ危ういと思って」

「何だそれ」

「「…」」

 

 了と鋼の話を聞きながら先人と瀧が黙り込む。やがて、瀧が了に問いかける。


「さっき言っていた変って何?」

「それが、意識が飛んだ時に忘れちまって」


 がくっと肩を落とす瀧。それが重要な気がするのだがわからず内心頭を抱えるがどうしようもないと考え直し皆を見つめ声を掛ける。


「まあ、ここで考えていても仕方が無い。近くに村があるし(行きの時に確認済み)少し休んで行くか」

「はい。そうですね。若」

「まあ、先は長いし。色々補充しておくか。先人」

「うん。…瀧」


 鋼の話に先人は頷き、瀧に小さく声を掛ける。瀧も察し、頷く。


「ああ。恐らく近くに居る。捕まっても情報が曖昧でどこが狙ったのかもわからない。守気の国で裁けば皆引きこもるらしいし話は漏れないと踏んだんだろう。例外は」

「俺達が迎えに来た事」

「それで証言する事になれば都で徹底して調べられるだろう。五大氏族と軋轢を生みたくないからな。都は」

「その前に、来るか?」

「まあ、情報は曖昧だから。それが確認できれば去る可能性が高い」

「なら」

「承知」


 今後の事について互いに了承し、頷き合う先人と瀧。そうとも知らず、鋼が不思議そう二人に声を掛ける。


「先人、瀧?」

「うん。今行く」

「ああ」


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