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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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八.護士と先人

〔部屋〕

「氏族の反乱、ですか?」


 先人が驚いた声を出す。

 了と話を終え、先人、瀧、鋼は牢から護士の案内で当主一族と対面した部屋とは別の部屋に通され一息付けると護士が現在抱えている問題を説明する。


「はい。とある氏族が画策しているとの情報が入り、我々が探っていました。先程の話を聞き、関係しているのではと」

「成程。北の反乱は大半収まっていますがまだまだ根深いのですね」


 先人は考え込む。

 守氏の長である元皇子の衡士が反乱の多い北を抑えるため、守気の国を拠点として数十年、ほぼ抑えてはいるがまだまだ根強いのである。守氏はわずかな情報も漏らさず、反乱を防いでいる。それは次期当主である護士も長、前当主、当主と共に把握している。間者に特に厳しいのはそういった理由からである。*都の人間は特に容赦しない。

 護士は頷く。


「はい。どうにか我々を追い落とそうとあれこれ手を尽くし」

「都の技術者に目を付けたという事ですね」

「その氏族の目星は付いているのですか?」


 先人は頷き、瀧は問う。守氏を良く思わない反乱氏族がまだいるのである。皇子の威光をもってしても難しい場合もある。しかし間者が生きて帰って来ないため、今度は都の技術者に目を付け、財を積んだりして情報を引き出そうとするのである。今回はそれである。

 護士は淡々と答える。


「付いています。先程の技術者、先人様が来る前は好奇心から少し覗いたと言っていたのですが」

「安心したのでしょうね。我々に。な、鋼」


 瀧が鋼に話を振る。鋼は平然と答える。


「まあ、身内のようなものだし」

「鋼を頼りにしているから。あ、護士殿。鋼は次期頭なのです」


 先人は鋼を見つめすぐに護士に向き、説明をする。


「そうですか。頼りにしておられるのですね」

「そうだと嬉しいですが。まだ若造なので」


 温度の無い声で褒めるような言い方をする護士に気付かず、褒められたと思い照れたように謙遜する鋼。それをただ見据えている護士。


「先人様も信を置いておられます。先程も」

「お恥ずかしいです。幼馴染の癖が出てしまいました」


 更に照れたようになる鋼に先人が笑顔で見つめ、護士に向く。


「鋼はずっと守ってくれていました。信を置ける相手です」

「…そうですか」

「はい。瀧も守ってくれました」

「いや、俺は」


 突然話を振られて戸惑う瀧だが、鋼が頷く。


「うんうん。まあ最初はどうなるかと思ったけど、良かった」

「それを言うな」

「…」


 鋼と瀧の掛け合いを無言で見つめている護士に先人が声を掛ける。


「護士殿。話が脱線してすみませぬ。それで、氏族の反乱の方は大丈夫なのですか?」

「はい。証拠もいくつか出てきましたし、証言もあります。後一押しがあれば皆で押さえます。それは、」

「内密に致します。我らは罪を犯した都の者を引き取りに来ただけです」

「先人様。ありがとうございます」


 こちら(守氏)の意図を察して答える先人に護士は笑顔で礼をする。先人は首を横に振る。


「いいえ。来て早々皆様に心労を掛けて申し訳ありません」

「はい。驚きました。こちらの不手際で申し訳ありません」

「いいえ。こちらの非です。それと諫めてくださりありがとうございました」


 屋敷の外で休むのを諫めた事に対する事だと察した護士は頭を下げる。


「出過ぎた事を申しました」

「いいえ。私はまだ己が立場を理解していなかったのです。それを教えて下さり嬉しく思います」

「そのような、勿体無いお言葉です」

「真にそう思っています」

「先人様…」


 護士と先人、二人見つめ合い、柔らかい空気である。二人共至って真面目な気性が噛み合っているのだ。それをじっと見ている鋼は思う。


(感動している。忠誠というものか。すごいな。年下なのにこの言葉遣いと立ち振る舞い、流石高位貴族。あ、皇族の血もあるからかな)


 鋼が感心しながら瀧に話しかける。


「瀧、何かわからんがすごいな」

「まあ、こういう事だ。色々な」

「先人の良さをわかってくれるのが増えて良かった」

「…心の底からすごいなお前」

「ん?」


 色々言葉を濁して話しているのにも関わらずまるで気にせず良かったと言い切る気性に瀧は鋼を心から感嘆する。鋼は不思議そうに瀧を見つめる。

 そうこうする内に話も終わり、先人は護士を戻るよう促す。


「護士殿。今日はこれで休みます。部屋にお戻りください」

「いいえ。私もここで休みます。護衛もかねてと皆から命を受けております」

「そうですか。…ありがとうございます」

「はい」


 護士の返事を聞きながら先人は思う。


(…遠慮してしまう処だった。皆様は統括として接してくださっている。立場を理解しなければ)

(と、考えているんだろうな。先人は。まあ、忠誠は悪い事では無い。役に立つが…)


 瀧は先人の思惑を察して内心苦笑いをしている。

 そうとも知らず、先人は皆に声を掛ける。


「では休みましょうか。瀧、鋼も」

「はい」

「ああ」

「うん」




〔朝・守屋敷前〕


 門兵は恐縮していた。と言うか屋敷に居る全員(使用人や兵ら)は目の前の光景に驚いていた。昨日捕まえ、牢に入れたとされる者らを当主一族が見送っているという光景に。


「お世話になりました。突然の事に迅速な対応をして下さり、その上大層な心遣い、恐縮です。ありがとうございます」

「「ありがとうございます」」


 先人の挨拶に瀧、鋼も続ける。牢から出た了も恐縮しながら頭を下げている。


「いいえ。お会い出来て嬉しゅうございました。先人様」


 長である衡士の挨拶から続けて、


「はい。嬉しゅうございました」

「お会い出来て光栄でございました」


 衡士に続き前当主の戍士と現当主の衛士が挨拶をする。少し話しただけだが先人に好感を抱いている様子に瀧はほっとして見ている。


(どの世代にも受け入れられて良かった。こちらの土台は大丈夫そうだ)


 先の世代に受け入れられても下の世代に受け入れられない話は良く聞く。そうなれば事を成す事は難しい。と、考えていたが、そもそも先人は何も言わないのが答えだったりする。*本質を見る目。

 先人は嬉しそうにしている。


「先人様」

「護士殿。護士殿には特にお世話になりました。ありがとうございます」

「いいえ。束の間でありましたがお仕え出来、幸せでした。すぐに都に行けるよう精進しますので待っていてください」

「…はい。お待ちしています」

「はい」


 護士の笑顔を見ながら先人は思う。


(つい遠慮する言葉が出そうになってしまった。統括としてしっかりしないと)

(…やはり面倒だ。来るなよ)

(先人の良さがわかる人間が増えた。良かった)


 瀧の複雑な思いを知らず、鋼は平和であった。


 そして若様(護士)の笑った処を一度も見た事が無い屋敷の皆は信じられないものを見る目で先人を見ていたが、当の先人は視線の意味に気付いていない。(視線は感じていたが悪意は無いのでそのままにしていた)衡士達は微笑ましく見つめている。それもまた屋敷の皆を更に戦慄させていたのである。


守気の国は北にあるので基本寒いのと、守氏は当主一族全員怖いです。主の前なのでこういう感じです。

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