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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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七.高位貴族と鍛冶師

「では面会後、一晩留め置き、次の日改めて受け取りに来ます」

「はい。ですが改めてとは」


 戍士の戸惑う声に先人は真っ直ぐ答える。


「近くの里で一晩泊まります。無ければ野宿でも」

「ああ」

「うん」


 先人の目線で瀧と鋼は頷く。衛士は慌てる。


「成りません。お泊まり下さい」

「いいえ。都の者が来ているとなれば皆気分は良く無いでしょう。落ち着かないと思いますし、次の日改めてまいります」


 都嫌いは聞いているので遠慮して去ろうとする先人に護士が突然声を出す。


「成りませぬ」

「護士殿」


 驚き護士を見つめる先人。護士は真っ直ぐ先人を見つめ、


「先人様。仰りたい事は理解しております。我々の事を思っているのも。しかし、貴方様は我々にとっての主君なのです。臣下が主君を外に出すなど考えられません。臣下としてその意受け取って頂きますよう」

「護士…」

「立派になって」

「そうですね」


 頭を下げる護士に衡士、戍士、衛士の順で感動している。


(美形三人が涙ぐんでいる…)


 鋼が思わず突っ込んでいる。本当に美形なのだ。この一族は。それが先人に一喜一憂している事にものすごく驚いているのだ。内心。

 先人がはっと気づく様子になる。


「護士殿。そうですね。申し訳ありません。己が立場を理解していませんでした」

「いいえ。余計な事を申しました」


 護士が謝罪すると先人は首を横に振る。


「いいえ。先程の事も、私の立場を重んじて言って下さっていたのに、それに気付かず己の意を通してしまいました」

「先人様…」


 先人の様子に何か感動している様子の護士。それに気付かず真っ直ぐ護士を見つめる先人。


「先程は必要な事でした。ですが今は己の意を通す事ではありません。諫めて下さりありがとうございます。護士殿」

「先人様。…勿体無い言葉です」

「いいえ」


 先人が笑いかけると護士も笑っている。すると何故か周りの空気が暖かくなる。


(…春の空気が暖かい。あれ?今日は少し寒かった筈だけど。何で?)


 鋼が疑問に思っていると、先人が皆を見つめる。


「では、今日はこちらに泊まらせて頂く事、構いませぬか。皆様」

「はい。勿論です。ゆっくりなさってください」

「すぐに支度をします故、」

「では早速」


 先人の言葉に、衡士、戍士、衛士が順にそれぞれ嬉しそうに返事をする。


「護士、牢へ案内し、後で部屋に」

「はい。曽祖父様。先人様、こちらへ」

「はい。ありがとうございます。瀧、鋼、行こう」

「ああ」

「うん」



〔先程の牢〕


 護士に案内され、先程の牢に戻って来る先人、瀧、鋼である。了がすぐに声を掛ける。


「あ、若。先人様、瀧様も」

「了さん。何でなんだよ。真面目にやっていただろう」

「すみません」


 了さんの平然とした様子に鋼が声を荒げる。心配の余り出た様子に気付き、了は謝罪をする。

 先人は鋼の肩に手を置く。


「鋼」

「あ、悪い」


 先人に声を掛けられ、冷静になった鋼が牢から離れる。先人が牢の前に近付き、了を見つめる。


「了さん。さっきも言いましたが、都から命を受けて迎えに来ました。今日一日牢で過ごした後、都で裁きを受けます」

「はい。行きます。助かりました。あんな目に合うと思って生きた心地がしなかった。良かった」

「…護士殿」

「…はい」


(お、先人も気付いたか)


「反省を促すためそこまで厳しく接したとは、皆様徹底されていますね」


 全員黙る。


「反省は必要です。次にまた同じことを繰り返さぬよう敢えて厳しく諫め続けたのですね。皆様本当にすごいです。お疲れ様です」


((いや違う))


 瀧と鋼が同時に思う。


「いえ。当然の事です」


 平然とした様子で言ってのける護士の様子を見て鋼と瀧は


((乗っかった))


 と何回目かの突っ込みをしていた。

 それに気付かず先人は鋼の方を振り向く。


「鋼、続きを」

「あ、うん。で、何でこんな事をしたんだよ」

「その、ここに来る前にある男に言われたんです。武器や見取り図など知った情報があれば知らせてほしいと、報酬は弾むと」


 話を聞いてかっとなる鋼。


「何で乗っかったんだよ」

「いや、だってそんなに大した情報じゃ無いと思って」

「お前、その小さな情報でどれだけの事が取れると思うんだよ。阿呆」

「家族が病にかかっちまって仕方なかったんですよ」

「何で相談しないんだよ。仲間だろうが」

「若…」


 鋼の必死の言葉に声を詰まらせる了。鋼は続ける。


「お前、本当にいい腕持っているのに何でだよ」

「相談したかったけど、頭も忙しくしているし、若も渡来人とずっとくっついていて話せなかったんですよ!」

「…渡来人?ああ、師匠(*鋭)」


 そういえば最近よく暗器について話を聞いていたと思い出す鋼。了さんは深く頷く。


「師匠か何か知りませんが、近付こうとしたら訳わかんない空気だされて近づけなかったのですよ。何ですかあの渡来人」

「いや、色々教わっていただけ」

「若。先人様が出仕して来なくなって寂しくなってやけになったんじゃないかと皆心配していますよ」

「はあ?そんな訳無いだろ。そりゃ昔ほど会えなくなって寂しいけどだからって身代わり求める程弱くねーわ。大体、全然違うだろうが。見た目とか空気感とか、中身とか」

「いえ。若。それはそうです。前に付き合った者と次に付き合う者がまったく違うのは良くある事。先人様で得られなかったものを求めたのでは」

「わけわからん事言うな!先人は全部揃っている。足りないものなんか無いわ!」


 *弟のように思っている存在への思いがすごい鋼である。

 鋼の言葉に冷静になる了。


「そうですか」

「ああ、先人の役に立つものをつくるために色々教わっていたんだよ。な、先人」

「え。あ、うん。鋼、いつもありがとう」

「おう。役に立てて嬉しいぞ」


 鋼が突然先人に話を振る。驚く先人だが、いつも何かを作っては見せたりくれたりする鋼を慕っているので話を続ける。

 それを護士が黙って見つめている。


「話は終わっただろう。もうやめておけ。な」


 護士の様子を見て察した瀧が慌てて口を出すが、


「鋼。いつも心配かけていると思っていたのにそう言ってくれて嬉しい」

「何言っているんだ。先人は強くて優しい。大好きだぞ」

「うん。俺も好きだ。鋼」

「おう」


 二人笑い合う。幼い頃に鋼に助けられ守られ生きて来たため絆が深いのだ。それを微笑ましく見つめる了。いい光景だ。しかし、当の二人と了は知らない。


「…」


 それを見つめる存在が何を考えていたのかを。


(…やばい)


 瀧は察している。


 五大氏族は、主君に対し重い忠誠を持つ事を。一度忠誠を誓えばすべて捧げる。守先々代当主・衡士は、皇族でありながら将軍を願い、それが叶えられずにいた処を大知光村により見出され、北の守りを任された経緯がある。恩もあるが人としても尊敬・崇拝し、皇族でありながら忠誠を捧げたのである。(後に臣籍降下)都嫌いはそのためである。


(血が濃い)


 その曽孫である護士は青海で会った時から先人に対し、主君と仰いでいるのだ。忠誠を捧げている主君が鍛冶師と好意を言い合うのは


(幼馴染とは知らないが、知ってもわからないだろうな…)


 鋼と先人の関係は特殊なのである。通常平民と高位貴族の子がここまで仲を深める事は無い。だが、先人は


(…鋼は俺より先に本質を見ていた。誰も敵わないだろうな)


 大知光村は腹立たしいが、鋼には複雑な思いを持つ瀧である。


「…話は済みましたか」

「あ、はい。ありがとうございます」

「護士殿。ありがとうございます。では明日、迎えに行きます」

「はい。若、先人様、瀧様。すみません」

「…いい。明日来るな」

「では案内します」


鋼と先人は光村と出会う前からの付き合いです。鋼が先人の最初の理解者で友。鋼にとって先人は弟のような大事な存在です。先人も兄のように思っています。

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