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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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五.牢での会話

「先人様」


 呼びかけるとともに跪く衡士。門番は驚いているが空気を読み黙っている。

 先人は頭を下げる。


「衡士様。この間は」

「そのような事は良いのです。無礼をし、申し訳ありません。どうぞお出になってください」


 先人の挨拶を遮りすぐに出るよう促すが先人は首を横に振る。


「いいえ。怪しい動きをした我らの非です。どうぞお調べになり潔白とわかり次第出して頂ければと思います」

「そのような事、出来る訳がありません。光村様が知ればさぞ嘆かれるでしょう」

「曽祖父様はそのような方ではありません。そのように特別扱いされ、優遇されれば嘆かれます。曽祖父様は正道を重んじる方です」

「先人様」


 先人の言葉に感動している衡士を見ながら瀧は思った。


(いや、知ったら皆消される…)*光村は先人が大好き。


 唯一は絶対なのだ。自覚が無い先人に内心頭を抱えながらしっかり話をしていない光村に腹立たしく思う瀧である。

 先人は座り直し、説明を始める。


「我らは都より命を受けてまいりました。技術者が間者として捕まったと聞き、その者を都で裁くので引き受けに来ました。お引渡しの程を頼みます」

「その付き添いとして共にまいりました。お久しぶりでございます」

「我が仲間の事、頭の子として責を取り、まいりました」


 先人に続き瀧、鋼と挨拶をし、頭を下げる。先人は衡士に文を差し出す。


「命の文を預かりました。ここに」

「…確かに。長之皇子。…新しき大王の」


 文を確認する衡士。先人は頷く。


「はい」

「意味は」

「わかっております」


 短いながらも意図を理解しながら話している先人。衡士は真剣に見つめ、


「綜氏は潰しにかかりました。皇族を使い」

「覚悟は出来ています。統括となった時から」

「そこまで考えておりましたか」

「はい」


 しっかりと頷き、衡士を見つめる。衡士も見つめ返し、


「我らを使えば」

「【忠臣】は国を揺るがす事望みません。大王あって国は守られる。大王の権威あってこその国です。それが崩れれば乱世に戻る。忠臣が安定させたものを壊す事無く安寧に導き証明する。その意志変わりません。そのために生きてきました」

「…」


 先人の言葉に黙り込み、思い出す。

 光村が失脚し、追放となった時の事を。




『私は国賊になりたくないと、言っておりました』


 北の反乱を抑えていた時で都にえ向かえず、後で宗から聞いた言葉。


『国は安定している。これで良いのだ』


 追放から数年し、現れた時に言っていた言葉を。


 正気に戻り、俯き、頷く。


「…はい。真に、そのものですな」

「衡士様」


 様子が違うと感じ話しかける先人。だが、頭を上げ、真っ直ぐに見つめる衡士。


「調べは終わりです。出てください」

「よろしいのですか?持ち物を調べたりとかは」

「良いのです。この文と言葉で充分。開けろ」

「はい」


 衡士の言葉に慌てて開ける兵。衡士は優しく話しかける。


「こちらへ」

「あの、牢に居る人は」


 了を見つめる先人を遮り、


「話が先です。後で時間を取ります故」

「…はい」


 衡士の様子に頷く先人。


「はい」

「了さん、後でな」


 瀧も続き、鋼は了に一声かける。


「はい」


 了の返事と共に牢から出る三人。それを見届け、門番は再び戦慄していた。先々代が頭を下げている処を見た事が無いのだ。普段は穏やかだが罪人や兵らと手合わせをする時は一切の容赦が無い。都の者らを許さず、罪を犯せば普段の仕置きの倍は普通にする。元皇族とは思えないほどの武人なのだ。それが、話を聞けば都の者に頭を下げている。敬称を付けている。…一つ、察した。


(先々代様が頭を下げる都の者、その方は亡くなられたが、以前兵を出し、そして)


 主を見つけたと噂が出ていた。先々代様の大恩ある御方の、唯一様。


(…まさか、)


 戦慄した。この予想が合っていたとしたら自分は生きていられるだろうか、そう考える門番である。

 その間、先人達が先々代に案内されている様子を屋敷の中の者すべて見ている。それを見た全員戦慄し、察した。先人は悪意が無いので気にしていないが、瀧は察していた。


(そりゃそうか…)


 遠い目になる瀧と、瀧の様子と屋敷の者らの様子に困惑しつつ付いて行く鋼。


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