四.衝撃
「…次から次へと。今度はどこだ」
先人達を捕まえた兵ともう一人、若い男の冷たい声が聞こえる。
(…この声、)
(あ)
先人と瀧が察していると、先程の門番と若い男が牢の前に立っていた。門番が説明する。
「こいつらが門の前で」
「怪しい動きをしていたと聞いている。正直に話せ。さも無ければ斬る」
温度の無い冷たい声で問いかける。容赦はしないという空気を感じる。先人は徹底しているなと感心しながら堂々と返事をする。
「はい。わかりました」
「…」
若い男がその声の主を見て絶句する。固まっている。兵は気付かず先人に強く言う。
「ああ。素直に答えろ。若様は優しくないぞ」
「何なりと」
はっきりと答える先人を見て、ようやく声が出たと言う感じで若い男が声を掛ける。
「…先人様」
「はい。この前はありがとうございました。護士殿」
「おい。若様に無礼」
ようやく誰か理解した護士と先人の物言いに圧を掛ける兵。その瞬間、空気が凍る。
「出せ」
「は?」
護士の指示が一瞬理解出来ず固まる兵に再度強く声を掛ける。
「すぐにだ」
「え、はい」
慌てて出そうとする兵に先人は断る。
「いいえ。このままで」
「「!」」
瀧と鋼が驚く。護士はさっきの冷たい様子から一転して跪いて否定する。
「先人様、成りません」
「いいえ。北の守りをされている皆様に失礼です。中小氏族の反乱も未だ燻っておられます。警戒されるのは当たり前です。怪しき動きをした我らが非。どうぞお調べください」
堂々と言う先人に更に頭を下げる護士。
「いいえ。いいえ。成りません」
「どのような立場であれ、特別扱いは成りません。どうぞ」
先人の曇りの無い目に感動しつつどうすれば良いのか考えあぐねる護士。
「先人様」
「護士殿。規律を破る事成りません」
揺るがない意思を示す先人の言葉に俯き、目を閉じ、考え、立ち上がる。
「…少し場を離れます。おい」
「はい」
護士の声に慌てて返事をする兵を冷たい目でじっと見つめ、
「その間、少しでも無礼な真似をすれば、わかっているな」
「はい。勿論です」
何度も首を縦に振る兵を横目に一転して牢の中の先人に優しく話しかける。
「先人様。少々お待ちください」
去って行く護士。それを見つめている門番は、戦慄していた。未だかつて見た事が無いからだった。守気の国守氏当主の子として幼き日より鍛えられ、高圧でも無く、礼儀正しく、皇族の血筋だからか代々品がある顔立ちと立ち振る舞い。若いが強く、兵らで敵う者がいない程。敵にも容赦が無く、処するときも平然とこなす。兵らにも次代は安泰だと言われ、屋敷内外の女子からも人気がある、が、表情感情が乏しい。何を考えているのか感じているのかまったくわからない。それが、と思いながらこっそり振り返る牢の中の穏やかな男に、敬称を付け、慌て、跪き、優しく話しかけていた。
(どういう関係だ…?)
門番は考えるがわからない。
牢の中では瀧が呆れた声を出している。
「いや、出してもらえよ」
「いいや。ちゃんとしなければ統制がとれない。特別扱いは良くない」
真面目に答える先人に鋼が申し訳なさそうにしている。
「そうだな。ごめんな。俺のせいで」
「ううん。最初からこうすれば良かったんだ。立場を利用するのは良くない」
「…処に寄りけりだぞ。先人」
先人に瀧が冷静に答えていると、また出入口から足音が聞こえて来た。かなり速足で見た目には落ち着いているように見えるが
(慌てている…)
瀧は察した。それはそうか、とも一人納得している。鋼は何事かと驚きつつ見ている。先人は気付き、見つめている。




