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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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三.不審者

〔守氏屋敷前〕


 いくつかの里を越え、山の中に建てられた屋敷。塀が高く、そこらの里の家の比では無い。辺りは山と木々、川に囲まれ、簡単に来られないように細工というか罠というか、それらが施されている。中小氏族の反乱に備えた造りである。辺りは天然の要塞。屋敷は…


「…要塞?」


 屋敷から少し離れた場所から見上げ、思わずと言った風に声を出す鋼。それに頷く瀧。


「高いな。塀が。すごいな。どうだ。先人」

「うん。すごい。守りに徹底しているつくりになっている。中小氏族の反乱が多く大変だったと聞いているし、流石守様」


 目をきらきらさせて感動している様子の先人に幼馴染二人は苦笑いする。


「うん。お前ならそう言うと思った」

「うん。先人はそうだ。さて、どうやって入れてもらうか」


 鋼が考え込むが、先人が不思議そうに見つめる。


「門番の兵に頼めば、」

「都からと言えば一応入れてもらえるか。今までもそうだし。だけど今までが今まで。どう扱われるか。都嫌いで有名だし」


 更に悩みが深まったように考え込む鋼。入ってどう対応すれば穏便にいくのか考えている。


「…先人」


 体を寄せ瀧が小声で話しかける。


「何だ?瀧」

「ここに来る前に鷹は?」

「うん。御記様に飛ばして、すぐに返事をもらってこちらにも知らせてある」


 五大氏族筆頭に最初に報告する事で先人は統括という立場を私的に利用しないと証明している。瀧は満足気に頷く。


「抜かりないな」

「勝手に動かさない約束だ。当たり前だ」

「なら入れるな。お前の名前を使って。鋼、」

「何用だ。屋敷の前で何を話している?」


 瀧が鋼に声を掛けようとすると、門番の兵がこちらに気付き、怪しみ近付いて来る。


「へー。これ屋敷なんですか。要塞かと思いました」

「は?」


 つい素で感想を言ってしまった鋼に困惑する兵。慌てて近付き謝る瀧。


「いえ。申し訳ありません。珍しい造りなので見入っていただけです。我らは」

「…怪しい奴らだな。来い」

「へ?」


 門番が素早く動き、鋼が連れて行かれる。門番は近くに居た兵に門の守りを任せ、連れて行く。付いて行く先人と瀧。付いて行きながら瀧は先人に小さく話しかける。


「…どうする?」

「取り敢えず話を聞いてくれれば良いけど」

「…知ったら卒倒するだろうな」

「いざという時は一旦引こう」

「ああ。…大物だな。先人は」


 慌てる事も無く平然と答える先人に感心する瀧。

 兵らの鍛錬場らしき場所に連れて行かれる。その先に恐らく牢があると思われる。

 兵らに一斉に見つめられる。門番の兵がそこにいる兵に簡単に事情を伝える。


「怪しい奴らがうろついていた」

「そうか。見ない感じだ」

「どこの奴だ?」

「斬るか?」


 中々物騒である。取り敢えず牢まで連れて行かれるようだ。後に続く。


「入っていろ」

「はい」


 門番の指示に従い、先人が返事をし、取り敢えず皆入る。


「尋問は後だ。報告しておく」


 兵が去って行くと辺りを見回す三人。


「成程。こういうつくりか」

「環境は悪くない感じだ。まだ罪が確定していないからかな」

「広いし清潔な感じだな」


 鋼と先人が交互に感想を言っていると瀧が思わず突っ込む。


「いや、何でそんなに落ち着いているんだよ。二人共」

「見慣れているし」*佐手彦関連

「そうそう。俺も御用達だし。軍部に顔を出す事もあるし」

「…そうだったな。で、どうする?」


 それでも焦る様子も見せない二人に一つ頷き問う瀧。


「うーん。もう少し様子を見てからかな?鋼は大丈夫か」

「ああ。鍵開け出来るし、師匠から暗器の試作品もあるし」

「そうだな…。すごいな…」


 幼馴染二人の肝の座りように遠い目になる瀧である。その時


「…若?」


 聞き覚えのある声に三人見回すと少し離れた牢に壮年の男がいた。瘦せているが体つきはしっかりしている真面目そうな男、鋼の鍛冶場で働く古参の了である。

 慌てて話しかける鋼。


「了さん?」

「若。何でこんな処に。まさか…いけませんよ。いくら何でも御用達の頭の子が罪を犯すなんて」

「いや、それ言われたくないし。違うし。誤解だし。てか迎えに来たんだよ」

「え?」


 鋼の言葉に目を見開く了。


「都に戻す事になったから迎えに来たの」

「…そうなんですか?」

「ああ」

「良かったー」

「え?」


 心の底から安堵している声を出す了に鋼は戸惑って見る。了は続けて


「見張りから仕置きされるって聞いていて生きた心地がしなかった。本当にあんな事をされると思うと気が気じゃなくて。良かった」

「あんな事?」


 鋼が更に戸惑い問うが、了が先人と瀧を見つける。


「あ、先人様と、瀧様?お二人も迎えに?」

「はい」

「うん」


 先人、瀧の順で返事をすると申し訳無さそうにする了。昔からの知り合いで先人や瀧にも優しく接してくれる鍛冶師の一人なのだ。


「迷惑かけてすみません」

「何があったんだよ」

「ええ。実は」


 鋼の問いに了が答えようとすると、出入り口から足音と声が聞こえる。


「こちらです」

「…次から次へと。今度はどこだ」


 先人達を捕まえた兵ともう一人、若い男の冷たい声が聞こえる。


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