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和乃国伝  作者: 小春
第九章 きたとうみ
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二.守気の国へ

〔守気の国への道中〕


 鍛冶師頭であり父である鉄からの指示で守気の国に行った仲間を迎えに行く事になった鋼は、都を出て一路向かう。


「気が重い。だが、仲間の責は俺らの責。行かなければ」


 気合を入れている鋼に


「大丈夫だ。鋼。一緒だ」

「そうそう」


 何故か先人と瀧もいる。


「何で来ているんだよ。二人共」


 鉄から責任者と共に受け取りに行けと言われて、その人物との待ち合わせ場所に行けば先人と瀧がいた。疑問を持ちつつ歩いていたがとうとう爆発した。*鋼は基本的に先人と瀧には深く聞かない主義。

 先人はあっさりと答える。


「皇子様の命で。罪を犯した職人を連れて帰ってこいと言われて」

「都で裁くんだと。氏族が独自で裁くのは国の威信に関わるとかで」


 先人の言葉を補足するように瀧もあっさりと答える。あっさりとした様子と空気にそんなもんかと思いながら鋼は頷く。


「へー。皇子様ってそんな仕事もするんだな。お前らも大変だな」

「うん。どこの部署にも顔を出す方だから」


 労うように言う鋼に先人は小さく笑い答える。瀧はいつもの平然とした態度でまた補足する。


「決まった仕事が無い方」

「皇子様に失礼だろうが」


 一言注意する鋼に先人も頷く。


「そうだぞ。瀧。いつもそうだけど気を付けるんだ」

「はいはい」


 反省する素振りも無い瀧の様子に苦笑いする鋼と困ったように見つめる先人。それをいつもの平然とした様子でかわしながら、瀧は都を出る前の宮中でのやり取りを思い出す。



回想・・・


 新大王の話の中、宇茉皇子が先人と瀧を真剣に見つめる。


「守気の国へ行ってもらいたい」


 突然話が変わり先人は戸惑うが、宇茉皇子の言葉に頷く。


「守気の国、守様ですね。何をすれば?」

「昔から技術者を都から定期的に送り、互いの国の技術を交換し、向上させようという名目で行っているのだが」


 先人の問いに、宇茉皇子が説明する。途中から言いにくそうになり、瀧が察する。


「…間者ですか」

「その通りだ。元々間者なのか、財につられたかで各国へ行った技術者がその国の情報を手に入れ持ち帰る。それがかなりの頻度で行われているらしい」


 宇茉皇子の説明に先人と瀧が頷く。地方氏族は五大氏族がほぼ抑えているが、その土台を崩そうとする輩が後を絶たない。どんな小さな領国でも大きな情報を持っている場合がある。都のとある氏族が指示を出していたり、どこかの地方氏族が内密に技術者を買収して自身が有利になる情報を得ようと躍起なのだ。狙いは五大氏族だったり、都・中央政権への足掛かりと考えたり様々だが。

 瀧が話を続ける。


「確かに、都から命を受けたなら変にあれこれ用意せずとも容易に地方の国に入れますし怪しまれにくい。それで今回は守気の国ですか」


 宇茉皇子が頷く。


「ああ。今までは裁きは各国に任せていたが、というか勝手に行われていたが、今回から都の者は都に戻し正式に裁くと言う事とした」

「それは何故?」

「長之皇子様の提案だ。そろそろ成人。政に携わらせてはと綜大臣が推したのだ」

「成程。そういう事ですか」


 宇茉皇子と瀧が交互に話している。瀧が深く頷くと、長之皇子が慌てる。


「兄上。それは確かに提案しましたが、今はそれ処では、」

「いいえ。今だからです」

「大王の嫡子で近い位置にいる。いずれは即位。ならばその威光をと」


 瀧の鋭い指摘に宇茉皇子は頷く。


「そうだ」

「ですが、それでは兄上が」

「自身の事は自身で守ります。綜大臣もまだ私に使い道があると思っているでしょう。荻君」


 長之皇子の懸念を宇茉皇子が一蹴し、荻君を見つめる。荻君はしっかりと頷き、長之皇子を見つめる。 


「はい。長之皇子様。私が守ります。必ず」

「…荻君、手が必要なら言ってくれ。口が固く信を置ける者らを用意する」

「はい。ありがとうございます」


 長之皇子の言葉に荻君は心より礼をする。それを見つめ、宇茉皇子は先人と瀧に向き直る。


「先人、瀧。今回の件は皇族の力を強めると言う意味もある。今の地方任せとなる緩んだ規律ではいずれ皇族の力を弱めると案じられる」

「中央である都が規律を重んじ統率する事で権威を高めると言う事ですね」


 先人は頷きながら宇茉皇子の意を察する。

 宇茉皇子は長之皇子の提案を推し進めると表明した。ならば太子、次代は長之皇子と見据えている。それを叶えるための土台固めを命じているのだと。

 宇茉皇子は頷き、続ける。


「ああ。それに」

「五大氏族の一つ、守氏を抑えられれば皆言う事を聞かざるを得ない。だから先人」


 瀧が先人に目線を向ける。

 最大勢力の氏族が従うとなれば他の氏族も黙る。それが出来るのは先人しかいない。

 瀧の目線を受け、先人も頷く。それを見つめ、宇茉皇子は命じる。


「そうだ。統括という立場を証明するのだ。未だそれに疑念を持つ者らも少なくない。そなたが我ら皇族と五大氏族を繋ぐ要であると知らしめ、国の兵であるという事を証明する意味合いもある。出来るな」

「はい。必ず」


 長之皇子の土台固めだけで無く、先人の土台をも固め、五大氏族を守ろうと考えてくれている宇茉皇子に心から感謝し、しっかりと返事と礼をする先人。それを見つめ、宇茉皇子は頭を下げる。


「先人、瀧。頼む。長之皇子様、最初の政だ。支えてくれ」

「兄上。先人、瀧、頼む」


 宇茉皇子が頭を下げた事で長之皇子も複雑な思いがあるが覚悟を決め、頭を下げる。先人は驚くが(皇族が頭を下げる事は無い)、宇茉皇子の覚悟とそれを受けとめた長之皇子の気持ちを受け取り、礼をする。瀧も合わせて礼を取る。


「はい」

「了解しました」

「荻君殿、宇茉皇子様の事を一人任せて申し訳ありません」

「いや。いい。お前はお前の仕事をしてくれ。それが皇子様のためになる」

「はい」


 いつも任せてばかりなのを気にする先人に荻君は首を横に振り、労う。互いが主のため本分を全うするのみ。その様子を見ている宇茉皇子と長之皇子は優しく見つめているが、瀧は冷たく見据えていた。


回想終わり・・・



〔現在 守気の国への道中〕


 都から守気の国までは海は使えず、徒歩が主流である。道が整備されている処が少なくあちこちの里で泊まりながら早くても五日はかかる。*先人や瀧はもっと早く出来る。

 道が整備されていないのは氏族の反乱が少なからず燻っているからである。


(…やはり長之皇子様。ならばそろそろ…)


 ちらと先人を見る瀧。先人はその気配を感じ、瀧を不思議そうに見る。


「どうした?瀧」

「いいや。道はここで良いのか」

「ああ。恐らくもう少し…」


 鋼が地図を見ながら進む。途中、野宿や里に泊まりながら進んでいると、やがて辿り着く。

 

 海と山に恵まれ、広き国、守気の国。しかし


「通常の家も塀が高いな」

「中小氏族の反乱が多かったから。今も少なからずあると聞いているし、守りを固める意味で」


 瀧が辺りを見回すと、どの家も塀が高い。それを指摘すると先人も見回しながら答える。北は守氏によりほぼおさまったとはいえ油断はならない。どこも徹底しているのである。


「そうだろうな。守様が来てほぼ収まっているが今回のように間者が出るのはそういう事だろう」

「瀧、今回は間者では無くて」

「いいよ。先人。どんな理由があれ情報を取ろうとした。何が重要なものになるかわからない。危うくしたのだ。責は取らないと。けど、何でなんだよ。本当に」

「鋼…。何かあったのかも知れない。話を聞こう。了さんはそんな人では無いから」

「ああ。先人、ありがとうな」


 幼い頃から罪人の氏族と言われていた先人に鍛冶場の皆は優しく接してくれた。将軍氏族であった大知氏とは代々の付き合いがあるとは言え、罪人を出したとなれば敬遠するだろうに。今回間者とされた了さんもその一人。真面目で優しい人だと思い出している先人に、鋼は礼を言う。瀧もそれを見ているし、実際に接していたから良くわかっている。


「ま、そうだな。話を聞けばわかる。けど、生きているかどうか」

「どういう事だ。瀧?」

「やっぱりそうか…。了さん。生きていろよ」

「?」 


 瀧と鋼の言葉に困惑する先人。それを見て瀧が答える。


「守気の国からまともに帰った者がいないと噂に聞いた事がある」

「え?」


 更に困惑する先人の隣で鋼も頷く。


「俺も聞いている。都から命を受けて行った者らは帰って来るとすべて引きこもって出て来なくなる」

「そうなのか?」

「ああ。話を聞こうにも皆何も語らず出てこない。だから誰も行きたがらないのに…何で毎度出すんだよ。都!」


 ここぞとばかりに不満を爆発させる鋼に瀧は平然と答える。


「まあ命を下す役人もやる事やら無いと上から罰を受けるし、仕方無い」

「だからって都の技術者が減る一方だぞ」

「そそのかされて間者になる方が悪い」

「…まともな奴が行かないのが悪い。何で毎度こうなるんだ」


 瀧のもっともな指摘に頭を抱える鋼。それを見つめている先人は考え込む。


「でも、引きこもるほど何があったのだろう。そんなに厳しく裁かれたのかな」

「まあ、消されないだけましではあるがかなりされたのだろうな」

「…考えたく無い」


 かなりされたと言う瀧の言葉に更に頭を抱える鋼。先人は更に考え込み、小さく話す。


「良い方達だったけど」


 先人は守氏の長である衡士と曽孫の護士を思い出す。どちらも礼儀正しく優しい方々だったと思っていると、瀧が先人に小さく呟く。


「…お前にだけな」

「?」


 困惑する先人である。

かなり久しぶりの登場で、鋼くんです。先人の幼馴染で最初の友です。光村と会う前に出会い、友となりました。

五大氏族は主に対しては優しいです。主の大切な者にも礼儀を尽くします。そこそこ。

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