九.光村と先人の花
次で第八章はこれで終わりです。次回は少し短いですが、次に繋げる話ですのでよろしくお願いします。
翌日
御記屋敷前にいる先人と瀧。五大氏族全員いる。
「皆様ありがとうございました。一足先に都に戻ります」
「先人様、こちらこそありがとうございました。志、しっかりと受け取りました。これからよろしくお願い致します」
「宗様。こちらこそよろしくお願い致します」
宗に礼をし、皆に向き合う先人。
「皆様からの信を裏切る真似は致しません。必ず守ります。皆様どうか御達者で」
深く頭を下げる先人と瀧。皆も深く頭を下げ、やがて先人と瀧は去って行った。
それを見て、他の皆に向く宗。
「皆様はどうしますか?」
「我らもすぐに戻ろうと思う。良いか佑廉」
「はい」
宗の問いに長老であり、綾武氏の長・熟練が曽孫の佑廉を見て答える。佑廉も頷く。
続いて味氏の長・溌も孫の航を見て答える。
「うん。我らもすぐに出る。最帆だけに任せておくのも悪いからな。航」
*最帆は溌の子で現当主。航の父 溌の父の帆凪は亡くなっている。
「うん」
航も頷く。それを見て津氏の長・彊悟が溌に声を掛ける。
「では波流の港まで共にまいりましょうか。溌様、航殿。な、侠悟」
「ああ」
味の国も津の国も波流の港から船を出す。行き先が一緒ならと、彊悟が溌に声を掛けたのだ。溌が頷く。
「うん。そうするか。航」
「はい。お願いします。津様、侠悟殿」
「航殿。口調変わってないか?」
「そうですか?」
突然丁寧な口調に変わった航が気になる侠悟が問うが、航は平然と答える。
その様子に戸惑いつつ、侠悟は仲間だし、と思い声を掛ける。
「俺の前では先人の時と同じ口調で構わないぞ。使い辛いだろう」
「そうでも無いですよ。お気になさらず」
「…」
にべもない言葉に黙り込む侠悟。それを見ていた溌は笑い出す。彊悟は戸惑う。
「ははは。こうなるのだ。我らの血は」
「どういう事ですか?」
「うん?まあ、その内慣れたら収まる。私も最初そうだった。質(人質)に出た時」
「父にも、ですか?」
「うん。まあ皆に。かなりかかったな」
懐かし気に語る溌。師悟や他の皆との事を思い出し苦笑いしている。
戸惑いつつ問う彊悟。
「警戒を?」
「まあ、ある意味」
「?」
「とにかく、その内収まるから気にするな。侠悟殿」
「…はい」
溌に言われ、渋々頷く侠悟に対し、にこにこしている航である。
彊悟は溌に更に問う。
「ちなみに光村様には」
「うん?最初からこのまま」
*心を開けば口調が砕ける。溌は皆と光村を取り合っていた。溌は光村が大好きです。
溌と彊悟のやり取りが終わりかけの時を見て、守氏の長・衡士が声を出す。
「我らもすぐに発とうと思います。国が気になりますので。護士、大丈夫か?」
「はい。すぐに戻り、鍛え、主君の元に向かいたいと思います」
気合を入れて答える曽孫・護士の様子に満足して頷く衡士。
「そうか。その心意気良し。戻ったら鍛錬だ」
「はい」
「成人も早めるか。いつでも行けるようにしておかなければ。戻り次第戍士と衛士に言うか」
*戍士は衡士の子で前当主。護士の祖父。衛士は戍士の子であり、衡士の孫で現当主。護士の父。
衡士の言葉に嬉しそうな表情になる護士。
「はい。ありがとうございます」
「そんなに気に入ったのか?先人様を」
滅多に表情を変えないので驚く衡士。護士は頷く。
「はい。気迫が強く、威厳があり、ですが清廉で優しい方とお見受けしました。直にお守りしたいと思いました」
「そうか。心から敬える主君に仕えられるのは幸せな事だ。良かったな」
「はい。早く出仕をしたいと思います」
衡士と護士の会話を聞いている佑廉は無表情になっている。
「…曽祖父様。戻りましょう。今すぐ。私は何をすればいいですか?」
「落ち着け。時機だけだ。お前の方が早い」
「真に?」
「ああ」
「そうですか。それならいいです」
にこにこする佑廉。それを見て何とも言えない感じになる熟練に宗が近付き
「血は争えませんな。皆様」
「…互いにな」
笑いながら言う宗に熟練は小さく返す。互いに黙り込む。*若い世代皆、血が濃い。
「ああ。皆様。その前に」
宗が皆に声を掛け、手を上げると使用人が箱を五つ持ってくる。瑞が受け取り、皆の前に持っていく。
熟練が不思議そうに見る。
「何だ?」
「先人様からです。皆様が各々の国に戻られる際に渡してほしいと。お礼の品だそうです」
宗が答えると溌が箱に近付く。
「気が利くな。何だろう?」
「勝手に開けるな」
熟練が注意をする。これは質の時代から変わらない関係性である。都に質に出た順番として熟練、師悟、溌である。
宗は気にせず続ける。
「氏族ごとに違うそうなので言われた通りにお渡ししますね」
「はい。有難い事です」
「目端が利き、気が利くと父は言っていました。その通りですね」
衡士は頷き、彊悟は笑う。父・師悟が先人を褒めてばかりだった事を思い出す。
皆に箱をそれぞれ渡し、それを見届けた宗が文を出す。
「文を預かっております」
皆様、此度の事、真にありがとうございました。曽祖父・光村への思いあれど見も知らずの私のため、兵を出して頂き、有難くも申し訳なく思っております。
この恩に報いるため、大知光村の守りしものを守るため、一層成すべきことを成す所存であります。
拙いものではありますがどうしても御礼をしたく、良ければお受け取り下さい。
曽祖父・光村が生前、私に五大氏族の皆様の話をして下さいました。
多くは話してくださいませんでしたが、大切に思っている事が伝わってきました。
その時、花に例えてくださいました。私の手で申し訳無いのですが、布を染め、刺繍をしたためました。曽祖父様の皆様への思いと共にお受け取り下さい。
御記様は、水引を。慶事、感謝という意味です。
無理を叶え、国に慶事をもたらしてくれた事に感謝をしていると言っておりました。
綾武様は、山百合を。誠実、威厳という意味です。
いつでも誠実に居てくれた。威厳が強く、他を圧倒していた事に尊敬していたと言っておりました。
守様は、真弓を。真心という意味です。
曇りなき心で国に、自分に尽くしてくれた。得難いものをくれたと言っておりました。
味様は、猫柳を。自由と率直という意味です。
己の心に正直で、囚われずに生きる。その姿が羨ましいと言っておりました。
津様は、青い菖蒲を。信念と大きな志という意味です。
南の大国は都によって苦境に立たされた。その中で信念を持ち、独自で国を守っていた津様に申し訳無いと思いながら心より敬っていたと言っておりました。
青い布にしたのは、青はあふ(会う)から出来た言葉と教わりました。布にしたのは、三国から由来した、戦に出る際に親しき者と身に付けるものを贈り合うと生きて戻れるという言い伝えがあると聞き、それを参考にしました。
会えた事に感謝し、力を合わせ、共に在り、先をつくるという思いでしたためました。
大知光村の名において、決して後悔させぬよう、大知先人、必ず守ってまいります。
よろしくお願い致します。
読み終わり、全員沈黙する。
やがて熟練が呟くように声を出す。
「…光村様」
「そっか。うん。そう思ってたんだ。…ずっと一緒にいたかった」
溌も小さく声を出す。光村を思い出している。
「そう思っていたんだな。いえ、おられたのですね。光村様…」
感慨深く言う衡士。皇子時代から長い付き合いで、臣下になったので普段は丁寧を心掛けているがたまに砕けた口調になる。*大連になる前からの付き合いなので呼び捨てになる時もある。
「父が見たら、喜んだだろう。私も、有難い」
父・師悟が光村に強く忠誠を誓い、ずっと側に仕えたいと思っていた事を思い、感極まる彊悟。
宗はずっと黙り込んでいる。
「…」
「宗殿?」
熟練が声を掛けるとはっと正気に戻り、宗は頷く。
「いえ、良きものを頂きました。光村様の思いを先人様が伝えて下さった。光村様は正しかった」
「ああ。光村様が先人様を選ばれたのは間違いでは無かった」
熟練も頷く。衡士も強く頷く。
「はい。狂いなどありません」
「うん。そうだ。勝手に妬いて、情けないな」
「はい。父の目も狂いはありませんでした。…しかし、手製ですか。すごいですな。細かく仕立てられている」
自嘲する溌に、深く頷く彊悟だが、ふと気になる。余りにも良く出来ているのだ。そこに佑廉が思い出しように声を出す。
「そういえば津の国に居た際にお聞きしましたが」
「何だ。佑廉?」
熟練が佑廉に目を向けると、次の瞬間信じられない事を言われる。
「光村様に教わったのだと」
「…は?」
「何でも光村様は幼い時は手先が不器用だったそうで、鍛えるために光村様の祖父様にさせられていたと。先人様がそれを聞いて教えてもらったのだと言っておりました」
「…そうなのか?」
熟練は戸惑う。光村は何でもこなすが流石に見た事が無かったからである。佑廉は頷き、続ける。
「はい。先人様が光村様に作ったら喜んでおられたと。拙いものだったけど嬉しそうに受け取ってもらい嬉しかったと言っていました」
「そうか。そういえば、昔ほつれていたのを縫ってもらったな。うん」
溌は思い出す。衣のほつれを『味氏の若様がみっともない様子を見せるな。侮られる』と言いすぐに直していた事を。
彊悟も思い出す。
「父もそういえば似たような事があったと。何でもこなす方だと言っていました」
それを聞きながら、佑廉は先人の言葉を思い出す。
「染色は居の国からの留学生に光村様が教わったのを聞いたのだと」
「…そういえば、宮中でその留学生と親しくされていましたね。光村様。おしのびで街に出たとも」
衡士も思い出す。それを聞き、宗が問う。
「衡士様も?」
「いえ。私の立場と大連の立場は違いますので遠目から。皇族だったので」
*通常は皇子の立場の方が強いが、衡士については諸事情あり。
衡士の話を聞きながら、侠悟も先人の言葉を思い出す。
「そういや言っていたな。光村様と一緒に花冠をつくっていたって。変だと思っていたが手先を鍛えていたのかあれも。納得した」
「花冠?」
熟練が驚き、思わず叫ぶ。侠悟は気にせず頷く。
「細かくまとめてあって壊れないし、きれいだったと先人がそれはもう嬉しそうに話していたな。佑廉殿」
「はい。それはもう幸せそうに。辛い幼少を過ごされた唯一の存在を慰めようとなされてそこまでなさるとは、真に良き方ですね。曽祖父様」
佑廉と侠悟の話を聞き、二人以外全員黙る。
やがて、五大氏族の長全員涙ぐむ。
「…光村様。そこまで先人様の事を。辛い思いをさせたと悔いて色々されていたのですね」
九年前に会った時の光村の言葉を思い出し涙ぐむ熟練。
「はい。先人様には母が居ないと聞いております。そのため、母のようにも接されようと」
幼い頃不遇だった自分を教え導いた光村を思い出し、曽孫の先人にも優しさを向けたのだと感じ感動する衡士。
「うん。優しい方だから。うん。ごめんなさい。妬いて酷い事言いました。光村様…」
反乱氏族の長の血筋である自身を都で守り教え導いてくれた光村を思い出し、謝罪をする溌。
「父も気にしておられました。内でも外でも敵だらけだと。それを癒そうとなされたのですね。ご立派です」
九年前に光村と先人に会った時の話をされていた彊悟も感極まる。
「…真に。そこまで思われる唯一様に、私は試す真似を。申し訳ありません光村様。今後はよく尽くしますのでお許しください」
都と青海の橋渡しで宮中に出入りしていた自身を気に掛け良くしてくれていた光村の姿を思い出し心から謝罪をする宗である。
長達の様子を見て、若様も皆声を出す。
「はい。私も出仕し、よくお仕えします」
綾武氏当主の子・佑廉が力強く言う。皆も続く。
「はい。私が行き、片時も離れずお守りします」
守氏当主の子・護士も決意を込めて言う。
「いいえ。俺が行きます。うん」
味氏当主の子・航も深く頷き、言う。
「俺が行く。…と言うか、光村様は本当に先人が大事だったんだな。男でそこまでするって」
津氏当主の子・侠悟も強く言う。が、少し気になる。佑廉はあっさりと答える。
「だから唯一なのでしょう」
「まあそうだな」
何となく気になるが、頷く侠悟。
「はい」
「うん」
納得して頷く護士と航である。若様達の様子を見ていた御記氏当主の子・瑞は
「…行けないのが腹立たしい」
「瑞。次期当主です」
「…はい」
渋々頷く。筆頭は出仕せず、都と地方氏族を繋げる役割と暗黙の了解なのである。
光村さんは何でもこなします。先人がとにかく大切で何でもしています。花冠に関してはいずれ話を書きます。
第九章はまた少し長いです。良ければまた読んで頂ければと思います。よろしくお願いします。




