七.五大氏族
先人の話が終わり、各々寛いでいると、ふと気づいたように綾武氏の長・熟練が首を傾げる。
「先人様は?」
「別室で休んでいます。我らに囲まれ緊張しましたでしょうし」
筆頭である宗が答えると熟練が頷く。
「そうだな。まだ十六。一人囲まれ気も張っていただろう」
「そうですね。特にお二方が余計に気を張らせていたでしょうし」
守氏の長・衡士が皮肉を込めて伝えると味氏の長・溌が首を竦める。
「衡士様。言うな。悪かった」
「長老としてだな」
熟練も説明しようとするが、津氏の長・彊悟もため息交じりに参戦する。
「父が居ましたら激昂していたでしょう」
「そうですね。斬りかかりはしましたでしょうね。主君を侮辱されたと」
宗も思い出したように上を見る。津氏の先々代・師悟は見た目は静かだがかなりの激昂型なのである。
溌も思い出し、笑う。
「ははは。そうだな。うん。負けんが」
「ああ。そうだな。私も負けん。宗殿…それで、今後だが」
「はい。熟練様」
「出仕を考えるべきでは?」
その場の全員が宗を見る。宗も頷く。
「そうですね。統括に付けたと都に報告します。そうすれば警戒するでしょうね。皇族、綜大臣らが」
「都は未だに大知氏の悪評が飛び交っています。一人大きな地位に付けては的になる。光村様と同じように」
「はい。衡士様。それは考えております。一人になった時、何が起こったか皆様よくご存じでしょう」
「ならば、」
「ですがまだ早い。統括に付き、地位が安定するまでは我らは動いてはなりません。統括になり五大氏族が出仕となればあちらの警戒が強まり、それこそ的です。今は先人様に任せましょう」
宗の判断に皆が考え込む。彊悟が口を出す。
「ですが宗様。一人では」
「服織がいます。今も昔も服織は共に在る。必ず守るでしょう」
「…そうですね」
服織と言われれば黙るしか無い。光村の失脚前も後も影となり守って来たのは服織である。長らは各々黙り込むが、佑廉が熟練に問う。
「曽祖父様」
「何だ。佑廉」
「あの者(瀧)は、何なのですか?」
「…先人様だけのものだ。現当主、前当主、その前は光村様だけのもの」
「…それは」
「それ以上でもそれ以下でも無い。詮索するな。当主になればわかる。皆も、そう心得よ」
熟練が若達に向かい強く伝える。若達は各々頷く。佑廉も不満だが頷く。
宗が話を戻す。
「地位が安定すれば一人、補佐として出仕させたいと思います。誰にするかは」
考えると言う言葉を遮り、熟練が声を上げる。
「なら佑廉を行かせよう。あちらは権謀術数の戦いが主だ。目端のきく者が補佐に付けばいい。出来るな?」
「はい。勿論です。あちらでは綜大臣とも皇族の方々ともお会いしましたし」
「ああ。宗殿。それで」
佑廉も自信ありげに頷き、熟練も満足したように頷き、宗に了承を得ようとする。しかし、
「いいえ。それならば護士を行かせます。皇族であった頃の伝手もあります。権謀術数でも影を使うでしょう。強き者を守りに付けるべきです。出来るな?」
「はい。主君をお守りします」
衡士も声を上げ、護士も頷く。やる気がある様子に宗も考える。が、
「うん。航を行かせよう。こっちは皇統もあるし皇族共も黙るだろう。危うい者は消せばいい。な?」
「うん。行く。…多分。うん、わかってきた」
「おお。そうか」
溌も声を上げ、航も頷く。初めて会ったが何か感じるものがあったらしい。しかしまた、
「いいえ。侠悟を行かせます。大陸との繋がり、外交担当の綜氏も欲しいでしょう。父と同じように補佐を。行けるな」
「ああ」
父である先々代師悟に言い聞かせられてきた彊悟が声を上げる。先人を気に入った侠悟もやる気満々で頷く。
そして全員宗を見つめる。その視線に耐えられず、宗は息子と孫を見つめる。
「…採、瑞、どうします?」
「そうですね…」
「私が行くのでは?」
「筆頭は駄目だ。皆を繋ぐ役目だ」
「…」
自ら名乗り出たが、駄目と言われむくれる瑞。宗は苦笑いを浮かべ、皆を見つめる。
「まあ、まだ時間があります。その時の状況もあるでしょう。取り敢えず保留で。その時来れば頼みます」
全員渋々頷く。
話が終わったちょうどその時、先人と瀧が入って来る。
「すみません。お話の最中でしょうか」
「先人様。いいえ。今終わりました。どうぞ」
「「失礼致します」」
宗の言葉に先人と瀧が部屋に入る。宗が促す場所に座る。皆を向かいから見つめる位置に通され、戸惑うが改めて先人は挨拶をする。
「皆様、先程は」
「うん。いい。もう終わった話」
「はい。溌様。先程は失礼致しました」
「それも終わった話。こっちこそごめん」
先人と溌がお互い謝っていると宗が話に入る。
「お気になさらず。溌殿は光村様によく怒られていたので」
「そうなのですか?」
「うん。言葉がなってないと言われていた。先人様は怒られなかったのか?」
「はい。いつも優しく接してくださいました」
溌が懐かしそうに話すのを見て、先人も嬉しくなり光村との事を思い出す。そこに熟練が入って来る。
「先人様と一緒にするな。口も悪くないし、むしろ出来過ぎて気にしておられた」
「曽祖父様が?」
「はい。罪人を出した氏族で周りは敵だらけ。辛い思いをさせ子どもになれずすまない事をしたと私に言っていました」
「それは曽祖父様のせいでは」
「いえ。あれは確かにこちらの責です。あれらを放置していたとは」
思い出し、悔いるように話す熟練に溌が思わず話に入る。
「そんなにか?」
「ああ。山ほどいた。もういないが」
深く頷く熟練に、長達が次々と声を上げる。
「そうですか。万一まだいればこちらも対処をと思ったのですが」
「そうですな。あれこれすぐに出しましたのに」
「そうか。あれを出そうと思ったが、」
「こちらが近いのですぐに出せましたが」
衡士、彊悟、溌、宗の順で頷きながら話す。ちなみに対処、あれ、あれこれ、は五大氏族の精鋭の影。
「?」
話に付いて行けず困惑する先人に、隣に静かに居る瀧は内心、
(…怖)
何となくわかるのでそう思っていた。
ふと、と先人が声を出す。
「あの、皆様にお聞きしたいのですが」
皆の視線が先人に向く。代表して宗が尋ねる。
「何でしょう」
「私の顔なのですが、誰に似ているのかずっと気になっていまして。祖父や祖母にも会った事も無いですし、どなたかご存知でしょうか」
ずっと気になっていた問いをする先人。瀧は言い忘れていたと思っていたが、そもそも知っているのは変だからと黙っていたのだ。五大氏族なら知っているかもと思い、思い切って聞いてみたのだ。
溌はじっと先人を見る。
「うん。確かに顔は似てないな。気迫や中身は似ているけど」
「はい。気になっていて」
先人の言葉に宗も考え込む。
「そうですね。私は光村様のご家族は祖父君しか会った事が無く。光村様の祖父様とも違いますね」
「私も、光村様が屋敷に帰った処は見た事が無く。いつも宮中に詰めていたので」
「父も、屋敷までは」
熟練も考え込み、彊悟も首を傾げる。が、衡士はあっさりと答える。
「奥方様ですな。光村様の」
「衡士様、知っておられるのですか?」
宗が驚き、衡士を見る。皆も見る。
「はい。北へ行く前の事。臣籍降下した後、たまたま光村様が屋敷に戻られた時、届け物があり、その時にお会いしました」
「そうなのですか?私に似ておられるのですか」
「はい。光村様の奥方様を見た者は聞いた事が無く、記憶に残っております。良く似ておられます」
優しく見つめ話す衡士に、先人も自分が大知の者と実感し、嬉しくなり更に尋ねてみる。
「曽祖母様はどのような方だったのですか?」
「そうですね。すごく笑っておられました。それはもう」
「何か楽しい事があったのですか?」
「いえ。光村様の顔が好きだと言っておられまして」
「顔、ですか?」
「はい。見ているだけで幸せだと。この顔を誰よりも近くで見ていたくて嫁いだのだと言って、屋敷にいる光村様をどこからでもずっと、それはもうずっと見続け、胸を押さえて蹲り嬉しそうに笑っておられました」
思い出し語る衡士に先人は考え込む。瀧は、内心頭を抱える。
(聞いてないぞ。頭…)
「…そうですか。それ程まで、曽祖父様の事を」
「はい。そこまでの思い感服仕りました」
衡士の言葉に先人も思い出し、嬉しそうに語る。
「そのお気持ち、わかります。私も気が付けば見てしまい、その度に曽祖父様に『どうした?』と聞かれていました。お恥ずかしい」
「いいえ。わかります。私も気が付けばつい。その度に不思議そうにこちらを見ておられました」
先人の言葉につられて衡士も微笑み、思い出す。溌も深く頷き、次々と長達が語る。
「うん。わかる。私もずっと見ていたら『前を見ろ』と怒られていたな」
溌の言葉に彊悟も父の事を思い出し、語る。
「はい。父も補佐として側に居ましたが『美人は飽きると言われていますが少しも飽きない』と言っていました」
熟練も思い出す。
「はい。私も、近くに居ればつい見てしまい、こちらを見ればすぐに逸らしていました」
「私もです。つい、見てしまい」
宗も思い出し、語る。皆の様子に先人は感動する。
「皆様もそんなに曽祖父様の事を…。嬉しいです」
その様子を見て遠い目になる瀧。若様達を見ると、それぞれにこにこして見つめている。
(五大氏族、やばい…)
心からそう思う瀧であった。
五大氏族の長達は光村さんを慕っています。それぞれの理由については今後少しずつ明かされていきます。五大氏族の長達は光村さんが失脚して無為となった時、色々壊れています(津氏は師悟さんが壊れていました)。今回先人さんが幸せそうに光村さんの事を語った時、色々正気に戻っています。熟練さんと師悟さんは光村さんと再会し、先人と会った時にほぼ正気に戻っています。
光村さんの奥様は本当にそんな感じです。顔が好きで婚姻したそうです。




