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和乃国伝  作者: 小春
第八章 とうかつ
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五.先人の怒り

今回の話は少し長くなります。五大氏族全員出しました。


 屋敷の前のいざこざが解決し、先人と瀧は御記氏前当主にして五大氏族の筆頭・宗に案内されて部屋の前に辿り着く。採と瑞は先程の事で心配そうにしていたが宗に言われ、まだ来ていない他の五大氏族を迎える準備をしに戻っていった。


「こちらです。私は他の方々の対応がありますので皆様と休んでいてください」

「ありがとうございます」


 宗が去り、部屋に入る先人と瀧。部屋には四人が座っている。高年の男性二人と歳が近い二人。歳が近いその内の一人がこちらを見てすぐに立ち上がる。


「先人様」


 笑顔で声を掛けるのは、綾武佑廉。津の国・都以来である。知った相手に先人はほっする。


「佑廉殿。お久しぶりです。その節はありがとうございました」

「いいえ。お元気そうで何よりです。…服織殿も」

「はい。若様」


 佑廉の含みのある呼び方に平然と流す瀧。その様子に戸惑いながら気になる事を指摘する。


「佑廉殿。私はもう大将軍ではありません。様付けはしなくて良いのです」

「そんな訳にはまいりません。主君なのです」

「え」


 更に戸惑う先人だが、直ぐに別の声にかき消される。


「佑廉。人の屋敷で大きな声を出すな」

「すみませぬ。曽祖父様」

「!」


 その声と佑廉の呼び方、顔を見て直ぐにわかり、驚く先人に硬い表情で見据える熟練。


「久しいですな。先人殿」

「長老様。お久しぶりでございます。以前は知らぬ事とはいえ無礼を致しました。申し訳ありません」

「いいや。こちらも本来の名を明かせなかった。お互い様だ」


 硬い表情と言葉に戸惑う先人。幼き日に会った時と違うからだ。その様子を見ている瀧。


(こちらも固い。やはり)


 意図を察したが、先人に伝えるべきか迷う瀧。その内に熟練が瀧の方を向く。


「そちらは?」

「服織当主の子、瀧と申します。お会い出来て光栄に思います。長老様、味様、でございましょうか?」


 瀧の言葉に正気を取り戻し、先人は挨拶をする。


「お初にお目にかかります。大知先人と申します」

「前当主のはつだ。こっちは孫のこう

「初めまして」


 熟練よりも若い様子の味氏前当主の溌。海の者らしく精悍な感じで優し気な風貌であり、口調は砕けている。その孫の航は、背が高く、精悍な感じだが顔立ちが整っている。言葉遣いも礼儀正しく、優し気な様子である。


 味の国。初代大王の時代から味氏が治めていた。皇后も輩出し、皇統でもある。和乃国の海を治め、守っている。光村の時代に海の支配を奪われかけ反乱を起こすが、大連であった光村の采配で許され、味氏が味の国を治め続けている。反乱後に国を壊されたのを立て直したのも大知光村である。反乱を抑えたのは陳新鹿。


 先人は少し離れて座り、深々と頭を下げる。


「長老様、味様。この度は兵を出して頂き、ありがとうございます」

「いや。筋を通しただけの事。光村様の命だからな」

「ああ。光村様の命に従っただけの事。兵を返したのはお前の意思だとか。褒めてやる。阿呆では無いようだな」


 熟練と溌が順に答えるが、溌の言葉で場の空気が固まる。すぐに熟練が諫める。



「溌殿。失礼ですぞ」

「熟練殿。その通りだろう。父(味氏先々代・帆凪)が言っていた。幼子に兵を預けてほしいと言われた時おかしくなったのかと思ったと。乱心したのかと思ったとも言っていたな」

祖父様じいさま。失礼です。すみません。祖父に悪気はまったく無く、口が悪いだけなのです」

「そうですか」


 溌の言葉に航が慌てて補足する。先人は頷くが、溌は続ける。


「何を謝る事がある。本当の事を言ったまでだ。光村様への恩あるため出しただけ。本来なら」

「はい。そうですね」

「ん?」

「先人殿」


 更に言おうとする溌の言葉を察して先人は真っ直ぐに見つめ、返事をする。熟練が先人を驚き見つめる。


「皆様曽祖父様のために力を貸して下さっただけの事。私は曽孫というだけ。価値など無い。その通りです。何も偽りはありません」


 先人の言葉に皆黙り込む。己を卑下している訳でも無くあるがままを当たり前に言っている様子に十六の者と思えない何かを感じている。瀧は静かに見つめている。

 先人は淡々と続ける。


「それでも曽祖父様への忠誠と約束のため、兵を出して頂きました。ありがとうございました」


 更に深々と頭を下げる先人に熟練は硬くしていた表情が思わず崩れる。


「先人殿、それは」

「そうか。うん。わかった。顔も似てないし凡庸な感じだったが阿呆では無いようだ。良かった」

「はい。似ているところが欲しかったのですが、こればかりは」

「溌殿」

「祖父様」

「前当主様、先人様に無礼です」

「いや似てないだろ。まあ、良かった。幼子に情に絆された、歳をとって耄碌した、狂ったのかと思った」


 はははと笑う溌に皆固まる。


「まあ、そうだな」


 じっと先人を見る溌。


「まったく似ていないがその顔立ちなら、光村様も絆されるか。冷酷無比も形無しだ」

「溌殿、」

「祖父様」

「前当主様」

「本当の事だろうか。なあ、お前も」


「黙れ」


 瞬間、空気が重くなる。圧が、重くのしかかる。

 その場の全員、固まり、発生源である先人を見る。


「我の事はどうとでも言え。ただの曽孫。価値など無い。だが」


 先人が立ち上がり、皆を見下げる。


「我が曽祖父・大知光村はどれだけ歳を重ねようとも忠臣である。乱心だの、情に絆されただの、耄碌など、狂っただの言われる筋合いなど無い」


 皆黙り込む。激しい怒り、憤怒を抑えながらそれでも漏れ出す空気に皆が固まる。


「我が覚悟決めたから、覚悟を決めたのだ。主君を愚弄するか。身の程をわきまえよ」


 己が侮辱されたからでは無い。大知先人はたった一人を侮辱された事に怒っている。その怒りは抑えようとしても止まらない。


「すべて捧げ、すべて失い、化物と罵られ、国を去った。そなたも同じか。忠臣では無く化物と、そう罵るのか」


 その言葉に溌は瞬時に返事をする。


「違う」

「どう違うのだ」


 全員呆気に取られている。ここに居るのは誰だ。先程の、穏やかな、優し気な男はいない。目の前にいるのは


「大知光村は幼子に絆され、耄碌し、乱心し、五大氏族を動かし、兵を出させた。そなたはそう言っている」

「それは」


 溌が言葉を発しようとしても先人は話させない。


「私が望んだ。忠臣と証明したいと。夢物語と言われた。だが私は成すと決めた。覚悟はあるかと言われた。止まれば終わるとも」


 皆黙り見つめている。圧倒されている。それと、


「私の意を汲んだのだ。確かに幼子だった。だが、その約束に恥じぬよう生きて来た。成すために生きて来たのだ」


 その言葉に熟練の心が震える。


「先人様…」

「大知光村は耄碌も乱心もしていない。幼子に絆され、守るものを間違えたりなどしない。忠臣は、決して誤らない」


 圧が一層強くなる。全員を静かに、強く見据える。


「侮辱は決して赦さん」


 その場の全員固まる。余りにも強く重い気迫と圧。これは、熟練と溌は知っている。これは、


『侮辱は赦さん。大王あっての国なのだ』


(え…、光村様…え)


 溌は思い出す。


(光村様)


 熟練も思い出していた。


((え…。格好いい))


 佑廉と航は気迫と圧に感動していた。瀧は、


(やった…。いや、そうなるのはわかる。わかりたくないが)


 内心頭を抱えていた。


 そして先人は収まりを見せず、圧を出しながら見つめていると


「…ごめんなさい」


 溌が小さく謝る。頭を深く下げる。


「申し訳ありませぬ」


 熟練も深く頭を下げる。佑廉と航も何故か頭を下げている。瀧はそれをどうにも出来ず見ている。皆が頭を下げている様子を見て正気に戻る。


「はっ。すみませぬ。生意気な口を」*怒りが若干収まらず口調が定まらない。

「いいえ。ごめんなさい」

「止められず、申し訳ありませぬ」


 正気に戻り、慌てて座り、謝罪する先人に溌も熟練も頭を更に深く下げる。佑廉と航も何故か更に頭を下げる。先人はそれを目線で見つめ、更に慌てる。


「頭を上げてください。こちらこそ失礼いたしました。ですが、曽祖父様はそのような方ではありません。兵の事は私の先を案じての事。確かにそう思われても仕方ありません。申し訳ありません」


 先人の言葉に皆更に頭を下げる。


「いいえ。良くわかりました。流石です」

「うん。良くわかった。分かりました。はい」

「先人様、一生付いていきます」

「俺も、そうする。そうします」


 熟練と溌、佑廉と航の順で声を出す。前者二人は心からの謝罪、後者二人は感動している。

 

 全員(瀧以外)土下座している状態に遠い目をする瀧。その時、



どさっ(物が落ちる音)


「?」


 部屋の入口から音が聞こえ、そちらを向く先人。すると、背が高く品の良いきれいな顔立ちの高年の男性が立ったまま泣いている。後ろにいる先人より少し年下と思われる高年の男性の若い頃に似ているような感じの男性はこちら(先人)を見て顔を赤らめている。


(…五大氏族の方?)


 先人は察し、立ち上がろうとすると高年の男性が涙も拭かず先人の前に素早く座る。その際に溌を押しのけている。


「先人様ですね。私は守気のかみきのくに先々代の衡士こうしと申します」


 守気の国。遥か昔から和乃国の北は中小の氏族が集まり度々反乱が起こる場所であった。それを抑えるため、大王の威光を示すため、武に優れ、将軍になりたいと願っていた皇子である衡士(皇子時代は衡皇子)が臣籍降下して北に派遣され、守気の国をつくり、反乱を抑えているのである。現在はほぼ抑えているが、未だくすぶっている。それを抑えつつ守っている。衡士は【北の勇士きたのゆうし】と現在も称えられているのである。北に派遣するように大王に進言と説得をしたのは大知光村である。


(北の勇士様。佇まいも振る舞いも品がある)


 皇族だが生粋の武人と噂されているが実際に見ればやはり皇族と感じられる雰囲気に内心圧倒されるが直ぐに気を取り直し深々と頭を下げる先人と瀧。


「初めてお目にかかります。大知先人と申します。この度は」

「良いのです。お目に狂いはありませんでした」

「え…?」


 涙を見せながら強く見つめられ戸惑う先人に更に続ける衡士。


「今の話、聞かせて頂きました」

「申し訳ありません。お恥ずかしいものを」

「何を仰っているのです。光村様そのものでした。流石、唯一様です」

「いえ。流石に曽祖父様には」

「いいえ。あの重い空気、圧、声、口調、気迫。惑う事無く光村様です。護士、これが威厳と言うものだ。わかったな」

「はい」


 衡士の言葉に瞬時に出て来る後ろにいた先人より年下の男性。衡士の隣に座り深く礼をする。


守当主もりとうしゅの子、護士ごしと申します。お目にかかれて光栄です」

「大知先人と申します。こちらこそお目にかかれて嬉しく思います」

「いいえ。主君に会え、どのような御方かを直に見る事叶い光栄の至りでございます。他を掌握する圧倒的な威厳、感服致しました。私を手足と思い今後は思うようにお使いください」


 色々情報過多(主君とか手足とか)で戸惑う先人。瀧は更に内心頭を抱えるが、先人に目線を送る。


(取り敢えず、合わせておけ)


 それを受け取り、小さく頷く先人。


「そのような、恐縮です」

「護士、気が早い。そなたは成人前だ。まだ少し国におれ」

「しかし、主君に会えたのです。仕えるのが道理では?」

「まだだ。すみませぬ。護士も主君に会えて浮足立っておるのです。今少し鍛え、お側に仕えさせますゆえ、よろしくお願い致します」


 頭を下げられ更に戸惑いが増すが、取り敢えず落ち着きを保ちながら


「私の処でよろしいのですか?私の主君宇茉皇子様或いは長之皇子様の処がよろしいのでは」

「は?何故でしょう」

「私には価値など在りません。曽祖父様の血だけ。兵を出して頂いたのも曽祖父様への忠誠のため筋を通されたと伺っております。皇族で在られた御方の血筋を側に置くなど」

「…誰がそのような事を」


 地を這う声。そのままゆっくりと振り向き、熟練と溌を見つめる衡士。


「熟練様、溌殿。これはどういう事でしょうか」

「いや、それは」

「うん。それは」


 熟練と溌が慌てる。怒りを押し殺しながら衡士は続ける。


「光村様が直々に我らに頼むと言われていたでしょう。兵を出すのも死地に赴く事あれば、その時には器は充分と、溌殿の父、帆凪様も言われていた筈」

「うん。聞いている」

「熟練様は先人様が幼き時に会い、才を見込んだ筈。師悟殿すいごどのもそう仰っておられた。それなのに血筋だけ?ならば御子は?現当主は?それを飛ばして先人様にしたのは」

「ああ。それは」


 熟練が言い返そうとするが、衡士は睨み付け、続ける。


「侮辱しているのですか。主君を、唯一を」

「そんな訳が無い」

「うん。無い」


 衡士の言葉を強く否定する熟練と溌。衡士はそれを見て更に深く睨みつける。


「ならば何故このような事になっているのです」

「守様。当たり前の事です。皆様にとって曽祖父・光村こそ忠誠を捧げる方。見ず知らずの私に疑念を持つのは当たり前の事です。皆様にも兵達にも守る者がいます。それをおして曽祖父様のため、兵を出して頂いたのです」

「先人様」

「様など付けずとも良いのです。曽祖父様に敬意を示し、接して下さりありがとうございます」

「そのような事、それだけではありません」


 深く頭を下げる先人に強く否定をする衡士。先人は頭を上げ、真っ直ぐに衡士を見つめる。


「私には成し遂げる事があります。そのために生きてきました。まだ亡くなるわけにはいかないのです。兵を出して頂き、心より礼を申し上げます。ありがとうございました」


 再び頭を深く下げる先人に首を横に振る衡士。


「そのような、当たり前の事です。お会い出来る日を待ち望んでおりました」

「守様」

「皇族に未練など在りませぬ。光村様が我が主君であり、次を託された先人様も然り。貴方様も主君なのです。護士、都に出る際にはそなたがお守りするのだ」

「はい。勿論です。よろしくお願い致します。先人様」


 先人は戸惑うが、衡士の言葉に心打たれ、護士に向き合い、頭を下げる。


「私の処でよろしければ頼みます。護士殿」

「はい」


 護士も深く頭を下げる。互いに頭を上げた時、嬉しそうに笑う護士に笑い返す先人。


(守様同様忠誠心が篤い方なのだな。仕える先がこちらでいいのかわからないけれど、良ければいずれ宇茉皇子様や長之皇子様を紹介しよう)


(と、思っているのだろうな。先人は。また変なのが増えた。都に来るなよ)


 先人の考えを瞬時に判断し、内心ため息を付く瀧である。

 先人と護士の様子を佑廉は冷たい目で見つめている。


「…曽祖父様。私はいつ都に行けるのです?」

「うん。俺も行きたい。祖父様?」

「気持ちはわかるが時機を見ろ」

「うん。いいよ。時機を見てね」


 佑廉と航の言葉に熟練は冷静に返し、溌は若干圧が取れていない様子で弱弱しく返事をする。

 そこにまた別の声が入る。


「よ。いいか?」

「侠悟殿。お久しぶりです」


 津氏当主の子・侠悟である。先人が振り向き笑顔で挨拶をすると侠悟も笑う。


「ああ。祖父様じいさま連れて来た。あ、皆様初めてお目にかかります。津氏当主の子・侠悟と申します。よろしくお願い致します。あ、佑廉殿久しぶりだな」

「はい。侠悟殿」


 皆に挨拶をしていると佑廉に気付き気さくに話しかける侠悟だが目が笑っていない。佑廉も返すが同じく。平坦な声になっている。先人がそれに気付き戸惑っていると侠悟が向き直り、一緒に居る相手に紹介をする。


「祖父様。こいつが大知先人」

「侠悟。主君に対して何という言葉遣いだ。先人様、津の国前当主・彊悟きょうごと申します。出征の際にはお会い出来ず申し訳ありませんでした」


 侠悟の言葉を諫めながら先人に向け優しく挨拶をする津氏の前当主・彊悟。

 歳は溌より下のようで、南の特徴ある濃い顔付きと鍛えられたとわかる体付き、背は高くは無いが軸がぶれずしっかりしている。恐らく剣よりも短い武器と素手の達人だと感じる。

 先人は体を向け、深々と頭を下げる。


「大知先人と申します。いいえ。こちらこそ尽力して頂き、心より礼を申し上げます。ありがとうございました。…彊悟と言う名なのですか?」


 読み方が同じで戸惑っていると小さく笑う彊悟。


「はい。字は違いますが読みは同じです。好きなようにお呼び下さい」

「俺はきょうでいいぜ。先人」

「成程。じゃあ、侠殿で」

「ああ。すごかったな。さっき。見ていた」

「見たのですか?」


 侠悟の言葉に驚く先人に彊悟は深く頷く。


「昔父から聞いていた光村様の通りだった。すごい気迫でしたな」

「お恥ずかしい限りです」

「何で?格好よかったぞ。惚れ惚れした。なあ祖父様」

「ああ。強き者の証明だ。良いものを受け継がれましたな。先人様」

「ありがとうございます。あの、父とは?」


 先人は彊悟の話に引っ掛かるものを感じ聞いてみると、彊悟が話し出す。


「私は八年前に五大氏族、津氏の長(当主では無く、五大氏族の各氏族代表)となりました。その前は、父・師悟が長でした」

「師、悟様?」

「師と名乗られていましたな。父は」


 驚き目を見開く先人に彊悟は寂し気になる。


「聞いておりました。病で亡くなるまでずっと」

「…私の事を何と?」

「そっくりだと。必ず守るようにと。連れて帰りたかったと何度も」


 その言葉で思い出す。光村の処で過ごし、師が帰る事になった日を。


回想・・・


 幼い先人を抱き締め、離そうとしない師に光村が怒っていた。


『連れて帰ってもいいですか?』

『駄目に決まっているだろう』

『私は曽祖父様といたいので』

『残念です』


 少し寂し気に言われた事を思い出す。


回想終わり・・・


 思い出し、俯く先人を優しく見つめる彊悟。


「…お会いしたかったです。お礼ももっと言いたかった」

「父も、そう思っていましたよ。ずっと」

「私は似ていませんが」

「心根が、そっくりだと。良きものを受け継がれたと言っておりました」

「…ありがとうございます」


 そう思ってもらえていたのと、それを身内に伝えていてくれた事が嬉しく、切ない気持ちになる先人。その様子を見て明るく声を掛ける侠悟。


「ああ。俺も光村様に会った事無いけど聞いている。お前そのままだと思った。顔だけ似ていても仕方ないだろ。良かったな」

「侠殿。ありがとうございます」


 先人の礼に頷き、他を見渡す侠悟。


「ああ。で、そっちは、佑廉殿と」

「味氏当主の子・航です。侠悟殿」

「守氏当主の子・護士と申します。侠悟殿と、長老様の」


 近くに居た五大氏族の若達がそれぞれ挨拶をする。航が侠悟に挨拶をし、護士が話を聞きながら人物を特定しつつ挨拶をする。それを佑廉が察して挨拶をする。


「はい。綾武佑廉と申します。護士殿よろしくお願い致します」

「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」

「皆様はお会いになるのは初めてなのですか?」


 若達がそれぞれ挨拶をしているのを見て、先人は疑問に思い、問う。五大氏族は繋がりが深いと思っていたので全世代交流があると考えていたがそうではないらしい。

 先人の疑問に佑廉が頷き、答える。


「はい。先人様。五大氏族は長同士でやり取りをし、まれに会う事もありますがそれも長のみで。それ以外の世代は付き合いがありません」


 先人は佑廉の言葉に納得して頷くと、侠悟が続ける。


「そう。この前の援軍出征が初めてだったな。それでも航殿や護士殿と会う事は無かったし」


 侠悟が目線を向けるのを受け止め、航が頷く。


「うん。出征で波流の港を使う時も接触しないようにしていたし」

「私も兵を出す支度を手伝ったのみです」


 護士も答え、皆の話を聞き、先人が考え込む。


「成程。そうですね。五大氏族の皆様が密に接触すると都より疑念を持たれやすいですから。出征の際は私が疑念を持たれていましたし、」

「ああ。大変だったな。特に先人は」

「いいえ。皆様のおかげで収まりました」


 労わる侠悟の言葉に先人が礼を伝える。

 その時ふと思い出したように声を出す侠悟。


「そういえば、近々礼状が来るそうだぞ。居の国の王から」

「え?」

「先人の策が当たった。広の国に噂が広がり精鋭は等の国へ。残りの兵は居の国の将軍が撤退させたと。王の信頼篤い将軍」


 目を見開く先人。他の皆も驚いた顔をしている。侠悟が笑って続ける。


「居の国から噂を出しても通じなくなっていたから助けられたと。噂を流すよう指示した者に礼をしたいと近々内密に。すごいな」

「先人様」


 その策を話す処を見ていた佑廉が目を輝かせて先人を見つめている。

 航も護士も思わずというような声を出す。


「え、そうなの?」

「真ですか?」


 驚く声に頷く侠悟。佑廉に目線を送る。


「そ、出征撤回で都に帰る前に、父と俺に頼んできた。なあ佑廉殿」

「はい。先人様」


 嬉しそうに先人を見る佑廉に戸惑う先人。


「いえ。ですが策は誰が出したか分かりませぬ。恐らくは綜大臣の処で止まるかと」

「大知光村の曽孫と伝えておいた。な、祖父様」


 更に驚愕の話を聞かせる侠悟。彊悟に目線を送り、彊悟も頷く。


「ああ。堅悟がな。貿易船の商人、王族に近い者らにな」

「堅悟様が?」

「そう。父が。才があり、他国を救った。充分価値がある。中身もそっくり。で、何が不満なのですか?長老様、味様?」


 嬉しそうに語りながら、後半から声が低くなり熟練と溌を見据える侠悟に彊悟も深く頷く。


「そうですな。父の目が曇っていたと言う事ですかな」


 それに続いて衡士も声が低くなる。


「まったくです。色々思う処はありましたが師悟殿は見る目がある方でした」


 護士も頷く。


「はい。私にも充分才があり、大いに価値がある方だとしか思えません」

「うん。俺もそう思う。祖父様」


 航が溌を若干冷たく見据える。佑廉も熟練を見据え、冷静に問う。


「会うのを心待ちになされていたと思っていたのですが何故あの態度だったのですか?曽祖父様」

「いや、それは」


 その場の全員(先人、瀧以外)から詰められ、言葉を失う熟練。先人は口を挟めず見ている。場の様子を見て瀧は思う。


(試したが、相手が悪かったな)


 立場的にそうなるのは仕方が無いが二人(溌)でやるのはどうかと友であり主君でもある先人を思いただ見つめている瀧であった。


師様は津氏の先々代師悟さんの事です。光村さんが亡くなる少し前に亡くなりました。この人が生きていたら展開が早かったと思います。この先も回想等でちょこちょこ出ます。

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