十五.青海
津氏当主の堅悟と侠悟と別れ、都に戻るため、船に乗り込んだ先人と佑廉。使者との挨拶に出なかった鋭も近くに来る。
「師匠。共に来るかと思いましたが」
「渡来人が軍にいては何かと不都合が出ると思ってな」
「ありがとうございます。気を遣って頂いて」
配慮をしてくれた鋭に礼をする先人。佑廉は辺りを振り返る。
「そういえば、服織殿は」
「先に戻りました」
「え?…都の使者と共に?」
「隠れて入り込んだようです。佑廉殿」
「はい」
先人の声色が変わり、すぐに体を向ける佑廉。先人は真剣な表情で見つめる。
「内密に願います。瀧が来た事、その日の事、頼みます」
「…ご存じなのですか。彼が何者か?」
「聞かないと約束しています。瀧は瀧であればそれで良いのです」
先人は微笑む。鋭はそれをただ見つめ、小さく頷く。それを見た佑廉は心が動く。
(ああ、この方は)
「わかりました。何も知らず見ておりませぬ」
「ありがとうございます」
佑廉の返事に、いつもよりも遥かに年上のような空気で笑みを深める先人。
佑廉は思う。
(聡明で清廉で高潔。曽祖父様の敬愛する大知光村様はこのような御方だったのだろうか)
そんな佑廉の様子を見る鋭はため息を付く。
(これは、また面倒な事になりそうだ)
人を惹きつける力、それは為政者となるには必要であるが、際限があると思う。と思いつつ、遠く離れた主もそうであったと思い出す鋭。
(まあ、聡明であったが口調は軽かったな。威厳が足りない方だった。そこが親しみやすいと言われていたが)
にこにこと笑っていた主を思い出し、遠くを見る鋭であった。
そして、船は行きと反対で波流の港へ。そこから船の乗り換え、川から青海の国の湖へと辿り着く。船着き場では御記氏当主の採と瑞が来ていた。
「採様、瑞殿自ら出迎え、ありがとうございます」
先人の礼に二人も返す。
「いいえ。ご無事に戻られ良かった。後の始末は、佑廉殿、」
「はい。曽祖父様より聞いております」
採が労わるように言い、目線を佑廉に向ける。佑廉は返事をし、頷く。
「ご無事のお戻り何よりです。私の言葉は当たりましたか?」
「はい」
労わり、問う言葉に深く頷く先人。それに笑みを向ける瑞。笑みを浮かべたまま話す。
「お疲れでしょう。その間は屋敷で休息をお取りください」
「屋敷ですか?こちらの広い場所で軽く休息でも構いません。早く都に戻らなければならないですし」
「いいえ。今都は騒がしい。その渦中に戻られては混乱を生みます。ゆっくり、お戻りください」
瑞の誘いを断ろうとするが、採にも止められ、休むように言われる。その様子に何かを察した先人が鋭と佑廉に目を向ける。
「…わかりました。佑廉殿、師匠」
二人も頷き、採と瑞の案内で屋敷に向かう。その中で、鋭は考える。
(津の国での話から、大知光村という人物は五大氏族にとって重要で唯一統括出来た存在だったのだろう。その者が先人のみを唯一の後継と認めた。五大氏族はそれを代々の教えとして子や孫、その先にも引き継がせた。都での最大勢力は綜氏、だが外は五大氏族が抑えている。それを統括出来た存在は亡くなり、沈黙していたが、それは綜氏に従っていたのでは無く、もう一人が育つのを待っていたという事。今回それが証明された。非常に厄介な存在が戻るとなれば、警戒もしよう。大王崩御の件が落ち着くまで待てと言う事か)
と深い思考に陥っている鋭。それと、気になっている事がある。
(曽祖父が曽孫を後継にと定めるのはどこの国でも聞いた事が無い。大知氏は当主も、たまに来る総領姫も昏く重い。先人は良くあれに耐えられたな…もう一人、染まっていないが)
佐手彦を思い浮かべる鋭。
(あの者が当主となり、采配を振るい、先人を後継にとは考えなかったのか。大知光村殿は)
と考えるが無理だろうとも思う。あれは駄目だ。選び取れない半端者。
この先の弟子の行く道をどうにか支えられないかと思案に耽る鋭である。
鋭さんは弟子を大切に思っています。主君が一番ですが。




