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和乃国伝  作者: 小春
第一章 はじまり
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三.大知当主との会議

 それからとりあえず先人と瀧は一端屋敷に戻ることとし、帰りの道中。


「本当にいいのか、先人。鋭という男、恐らく三国などではなく、」

「繊の国あるいは等の国」

 

 先人の言葉に瀧は黙る。せんの国はとうの国の前王朝である。八年前に等の国となる。


「そう言いたいのだろう。渡来人の顔立ちの見分け方、瀧も鋼も教えてくれただろう」


 瀧は一族の仕事(織部司)の関係上、鋼は鍛冶の事で渡来人と会う機会が多い。幼い頃二人に聞いたことを思い出す先人。


「覚えていたのか。そう。だから大陸の国の内情を知れば出世にも」

「難しいだろう。綜大臣、綜氏族がいる。瀧も興味ないだろ、出世」


 外交は綜氏族が代々担っている。そう考え首を振る先人。


「まあ、な」

「それより、使者だ。どうするか」


 思案に耽っていると瀧が立ち止まり、


「お前、本当、何も聞かないんだな」


 ぽつりとつぶやく。先人はきょとんとして瀧を見る。今回の件の事、話を進めた事、織部司の父を持っているとはいえ知っている事が多い事、上げればきりがない。だけど、先人は笑う。


「今更だろ」


 昔から変わらないやり取り。何も聞かない、けれど居なくなるなとの幼き日からの約束を互いに守り続けている。瀧は顔を背けて声を張り上げる。


「出世する機会なのに、これじゃまだまだ先だな。ひい爺さんとの約束を果たすには」

 瀧の言葉にむっとし、言い返す。


「爺さんと言うな。曽祖父様は高齢だったが高潔で立派な方だった」


 注意しつつ思いを馳せる。幼き日に出会った曽祖父・大知光村の姿を。その姿を見て若干引いている瀧が軽く手を合わせて


「悪い。悪い」


 ほぼ棒読みだが素直に謝る。それ以上突っ込むと面倒くさくなるのはわかっているので引くことにしている。思いを馳せていた先人が正気に戻り、瀧に向き直る。


「…けど、ありがとう。心配してくれたんだろう。だけど今回の件を出世に利用するのは違う。師匠(鋭)はきっと見抜く。そうしたら居なくなる。そんな気がする」

「まあ、そうだな」

「それに、言った事は本当だ。あの人の元で学んでみたい。きっとこれからの力になる。どれだけ時はかかっても必ず約束は果たす。今はそれでいい」

「ふうん。まあ、別にいいんでない?それじゃ、まだまだ先だな」


 瀧のその言葉にむっとした表情をする先人。それを見て笑う瀧。幼い日に出会い、色々ありこの関係に落ち着いてから変わらない二人である。

 ひとしきり笑い合ってから互いに空気を引き締める。瀧が問う。


「で、どうする?」

「一つ、ある。けど、」


 言いにくそうにする先人に頷く瀧。


「ま、それしかないわな」

「ごめん。話の途中からは俺が、」

「いい。一つ、貸しな」





〔その日の夜 大知氏の屋敷・当主巌の部屋〕


 当主・巌と先人、瀧の三人。巌が腕を組みながら子らの話を聞いている。


「渡来人の師を迎えたい?」

「はい」


 巌の言葉に頷く先人。


「何故だ?足りないものでもあったか?少々弱ったとはいえ【連】ぞ。人脈は少ないが資料や情報等はそれなりに整っているはずだが?」

*大知氏は現在政から遠ざけられているが、縁戚からそこそこ情報と資料あり。光村時代のものも残って

 いる。


「最新の、ではありませんよね」


 先人の横から瀧が口を出す。巌が瀧に目を向ける。


ふきのせがれ、何故共に?」


 服織吹とは瀧の父であり服織氏当主である。


「色々巻き込まれまして」


 平然とした顔で答える瀧に苦笑いしている先人。疑問に思いつつ巌は話を続ける。


「で、渡来人とはどこの」

「等の国」

「は?」

「繊あるいは等の国の影だった男です」


 空気が凍り付く。瀧の言い出した事に先人は驚き見つめるが一瞬の内に先人を目線のみで待てと合図され、黙る。影とは皇族・貴族などが持つ諜報・暗殺部隊。特に名称は無くこの国では影と呼んでいる。

瀧は淡々と話を続ける。


「等の国の情報すべて知りたくありませんか。大知氏の力を取り戻すために」

「確かか?」

「はい」


 俯く先人と巌の言葉を平然とした顔で受け流す瀧。その様子の二人をじっと見つめる巌。やがてひとつ息をつくと、


「やはりそなたは吹の息子よ。食えぬ奴。嘘だな」

 

 つぶさに見抜く。大知現当主は力が無いと言われているが、光村失脚時から現在まで苦難の連続を生きて来たので見る目は養われている。しかし、と今度は先人が声を上げる。


「父上、申し訳ありませぬ。しかし、師は祖国の技術、知識を伝授してくださると仰っています。それこそが大知氏の力となると、私は思うのです。お力をお貸しください」


 頭を深く下げる様子の息子を一瞥し、冷たく言い放つ。


「その得体のしれない師が何をもたらす?たかだが渡来人一人。我らとは何の関わりもない。面倒に巻き込むな。下がれ」


 口八丁で騙そうとした、騙せると思った子らに腹を立てたのもあり、部屋から追い出そうとする。


「父上」

「綜氏が、狙っております」


 先人の声に被せて、瀧が冷静な声を出す。再び空気が凍り付く。


「何?」

「その渡来人の家に使者が来ていました。今日、それを見た。宮中で時々見かける綜氏に仕えている中の一人。なあ、先人」


 正式に出仕はしていないが使いで宮中に入る事もあるので顔を覚える機会があった。


「はい。時々見かけました。綜氏に仕えている男。おそらく、間違いないかと」

「ではお前たちの言っていた師は」

「繊の国時代からの、あるいは広・識・居の三国のどれかに関係している男。綜氏は代々外交を担っています。情報は充分手に入れることが出来るのにあえて欲しがるのは何故か。非公式ではあるがわざわざご丁寧に使者まで出して。つまり」

「更に深い内情を知る者、ということか」

「ご明察です」


 にんまりと笑う瀧。即座に考えを整理し出しぶつぶつと言い出す巌。


「王族内部、権力闘争、内外の反乱勢力…」

「それらをもし綜氏が知れば、ますます権力は強まりますな。大王を凌ぐほどに」


 瀧が煽るように言うと

[どかっ、ばきっ]と大きな音を出し、手当たり次第物を壊す巌。


「ふざけよって。陳氏と共に、大知を滅ぼそうとしたあやつら、あやつら」


 怒りのあまり部屋中壊しまくる。


「父上、落ち着いてください」


 慌てて取り押さえようとする先人。平然と心なしか冷たい目で見ているだけの瀧。目を血走らせ暴れる巌。場が混沌とする。

 しばらくして暴れるのが少し収まったのを確認した瀧が目線を送ると先人が頷く。


「なればこそ、我らが迎え入れるのです。綜氏よりも先に」


 先人の言葉に止まる巌。ひとつ息をすると先人と瀧に向かい、冷静に問いかける。


「目算はあるのか?今の大知には公式ではないとはいえ綜氏の使者を追い払い、その渡来人を我が家に迎え入れる大義名分も力もない」


 瀧は巌を見据え冷静に答える。


「今の力関係では表向きには無理ですね。」

 

 がくっと肩を落とす巌と覚悟を決めた表情で瀧を見つめる先人に瀧は小さく頷く。


「ですが、大知氏には他の氏族と違いとっておきがあるではありませんか。昔には」


 にっと笑う瀧に言葉の意図を察し目を見開く巌。


「まさか」


 巌が思わずと出た言葉に重ねて瀧と先人が同時に返す。


「「大知光村」」


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