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和乃国伝  作者: 小春
第一章 はじまり
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二.村と渡来人

都外れの村


 小さな家が立ち並び、煙を出している。農機具の手入れをしている人、糸を紡ぐ人、染色をする人、機織りをする人、焼き物をしている人等いる。職人の村のようである。


「小さな村だけど活気があるな」

「ああ。噂には聞いていたけど。ん?あれかしらじゃないか?」


 二人とも辺りを見回していると瀧が誰かを見つける。


「あ」


 鍛冶屋の前で話をしている中年男性。鍛冶師の頭をしている名はてつである。呼ばれていた本人が先人と瀧の声にふと振り返る。


「ん?先人様と瀧様ではないですか。こんな所で何を?」

 

 敬語ではあるが親しみがある口調で先人達に話しかけてきた。大知氏は代々将軍の氏族で、宮中御用達の鍛冶師である鉄の鍛冶場は幼い頃から行っているのだ。瀧もよく着いてきたので顔なじみである。逆に瀧が問う。


「頭は?」

「今日は村に腕のいい鍛冶師が来ていると聞いたので話を聞きに。技術を学んで色々工夫してみようか 

 と」


 鍛冶師は武器だけでなく、農機具も作る。日々技術も進化しているので外に出て教わることも良くある話なのである。


「いくつになっても学ぶ姿勢、尊敬します」

 

 先人が心底感心して言うと頭は慌てる。


「やめてください。お恥ずかしい限りで。でもそう言って頂き嬉しいものです。息子にもその素直さ見習ってもらいたい。本当に口答えばっかりで…」


 ぶつぶつ言い始める頭。頭の息子・こうは先人の一つ上で瀧と同じく幼馴染。鍛冶師としての腕は良いと評判だが口が悪い、根はしっかりしていて筋も通す良い男なのだが。と先人が思っていると瀧が頭に聞き始める。


「頭、ちょっと変わった強い渡来人って知らない?」

「強くて変わった?」


 親方が困惑していると一緒に話していた職人が口を出す。


「ああ、もしかしてあの人かな。力仕事もこなすし、手先が器用で職人の手伝いもこなし、通訳、書を読みこむ知識があって村の皆助かっているんだが、どうにも訳ありのようで」

「どう訳ありなのだ?」


 話がよくわかってない頭も気になったようで職人に問う。先人も瀧も不思議そうに職人を見る。


「出来過ぎるんだよ。大陸から来たと言っても職も様々、出来ない事も勿論あって当然なのにどれもそつが無くてな。まあ、助かっているし、誰でも事情があるからな」

「そうなのですか」

 

 先人が答えつつ、考える。渡来人にも様々な事情がある。頭の祖先も鍛冶の技術を渡来人に教わったと聞いた事がある。技術・知識を伝えるためこの国に来るのは勿論の事、商売ためなど理由は様々あるが、それ以外にも故郷を捨て定住に至るというのは各事情、様々あるのである。頭も祖先から聞いた渡来人の師達の事情を思い出し、耽る。


「そうそれ。その人、どこに住んでるの?」


 少し空気が重くなったと思っていたのに事も無げに問う瀧に職人は押されつつ、


「それなら…」


 村から少し離れた場所にある小さな家。その前で背の高い青年と小柄な身なりのいい男が言い合いをしている。背の高い男の方はこの国とは少し違う顔立ちをしている。渡来人だろうか。その男が表情も変えず小柄な男に言う。小柄な男は他に数人引き連れているが黙って控えている。仕えている者だろうか。


「来ないでくれ」

「そうはいいましても、ぜひとも、我が主がお望みで」

 

 渡来人らしき者に強く言われても居も介さずにこにこと笑い顔を作りながら返答している小柄な身なりのいい男。


「私は罪人だ。流されてこの国に来た。罪人を抱き込む気か。そなたの主は」

「あなた様に罪な無いと調べでわかっております。それはあなた様の」

「黙れ」


 冷たく断する声に小柄な男は後ろに引く。


「また来ます」

「二度と来ないでくれ」

 

 去っていく男らを冷めた目で見つめている。


 その様子を少し離れた木の陰から見ている二人。先人は小声で瀧に話しかける。


「あれは?」

「さっき言っただろ。変わった渡来人がいるって」


 しれっと答える瀧に困惑しながら問う。


「そうではなくて。どうして」

「少し、気になってね」


 にやりと笑う瀧に更に困惑する先人。瀧を見つめながら


(昔から時々こういうことがある。何事にも興味が無さそうなのに突然巻き込む。訳を聞いてもいつもこ

 うだ。慣れたけど)


 思いに耽り、つい油断してしまったのである。


「隠れている二人、何用だ」


 突然、背の高い渡来人が声をかけてくる。瀧は特に驚きもせず、木の陰から出る。先人も付いて一緒に出た。瀧はいつも通りの様子で対峙する。


「やっぱり、只者じゃないですね」

「すみません」

 

 平然としている瀧に申し訳なさそうにする先人。対比のある二人の様子に怪訝な顔で見つめる渡来人。


「あれは高位の者の使い、綜氏辺りの使者ですかね。あなたは何者?」

「瀧。すみません」


 相手の事情も考慮せず淡々と話を進める瀧を注意しつつ謝罪する先人。その様子に敵意を感じないと判断したのか渡来人は気にせず答える。


「只の罪人だ。流されてここに来た。向こうが酔狂に部下にしたがっている。知り合いか?どうにかして 

 くれ。」


 ため息をつきながら困ったように話す。本当に参っているようだと先人はが見つめていると隣の瀧がにこりと笑う。


「どうにも出来ません。下の身分なので。あ、先人、父上に言ってみれば?」

「え」


 突然話を振られて困惑する先人を渡来人が見つめる。


「高位の者の子息か」


 と問われ、慌てて返事をする。


「いえ、我が氏族は失脚して」


 最後まで言わせず瀧が続ける。


「でもまだ【連】だ。充分、高位」


 へらっと笑って先人を見る瀧にむっとして言い返す。


「お前の父も【連】だろ」

「衣装係の氏族と将軍の氏族の【連】は違うし」


 軽く言う瀧。確かに宮中の地位的にはそうだが、と先人が考えていると渡来人が話に入ってくる。


「将軍か。高位ではないか。名は?」

「いえ、それは」

「【大知氏】ですよ」

「瀧…」


 あっさり名と身分を話す友に内心頭を抱える。それを聞いた渡来人は驚く。


「大知氏…。大知光村氏の血縁か」

「曽祖父様をご存じで」


 驚きのあまり自分も身分を言ってしまった先人だが、そもそも大陸(三国・超大国)の国々から小さな島国と(*居の国は別)と言われているので、大陸の人が和乃国の高位とはいえ人物まで知っている事はかなり以外で、驚く事なのである。


 先人の言葉に少しばつが悪そうに目を逸らす渡来人。


「まあ、色々あって他国のことは耳に入れていた。戦略と内政に長けた丞相のような存在だと」

*丞相…天子を補佐する最高の大臣


「曽祖父様は失脚しました」

「しかし、没落せず、身分は残った。祖国では考えられないことだ。それだけのことをしてきた方なのだな。」

「ありがとうございます」


 心の底から感謝の声が出た。先人にとって曽祖父・光村は誰よりも尊敬し、慕う存在なのだ。他の人からはそのように言われたことがなかったので、本当に嬉しく、泣きそうになる。


「しかし、本当に困っている。【大知氏】ならば身分も残っているし、過去の様々な功績もあるだろう。どうにかならないか」


 話を戻し、再度問いかける渡来人に何とも言えずにいると静かにしていた瀧がにやりと笑う。


「やぶさかではないですね」


 先人が驚いて瀧を見る。


「何を」

「お前だってこのままでは収まらないことくらいわかっているだろ」


 ぐっとつまる先人。そもそも関係ないのだが、困っている人を放っても置けない。それに曽祖父様を評価してくれた人。先人のその様子を横目で見つつ淡々と話し出す瀧。


「罪人の渡来人の御方。あの使者を追い払いましょう。【大知氏】の名において」


 更に驚く先人。勝手に名を使うな、という視線を出すが気にしない瀧。


「感謝する」

「ただし、こちらの条件も飲んでもらいたい」

「何だ」


 最初にこちらが要求したのだから対価は必要だと納得し先を促す渡来人。瀧は笑みを深め、


「あなたの持つすべてを伝授してもらいたい」

「祖国の事もか」

「勿論」

「断る」

 

 困っていたのにあっさり断る渡来人の様子を驚きつつ様子を見つめる先人。瀧は気にせず続ける。


「罪人として裁かれ流されたのに?」

「己の罪だ」

「主のでは?」


 瀧の言葉に場の空気が凍る。するとごんっと音がする。先人が無言で瀧をげんこつしたのだ。


「何だよ。先人」


 頭をさすりながら若干涙目で訴える瀧。凍った空気が収まる。


「これ以上の個人追及はやめろ。言いたくない事や聞きたくない事は誰でもあるだろう。お前だっていつもそうだ」

「いつもって…」

「何か知らないうちに何でもかんでも巻き込んで大変な目に合う」

「それは…。まあ、色々」

「色々?」


 注意すると共に日頃の不満を言う先人とたじろぐ瀧。思わず目が点となる渡来人。先人は渡来人に向き直り、謝罪する。


「すみません。いつもこうなんです。お詫びに使者は何とかします」

「先人」

「本当か」


 驚く瀧と少しほっとした様子の渡来人に頷く先人。


「はい」

「先人、あのなあ…」


 瀧の言葉を続けさせず、先人が言う。


「代わりにあなたの知る知識と技術を教えてください。国の内情ではなく文化や風習、兵のまとめかた、策なども。あなたは強い方とお見受けします。お願いします」

 

 誠実で真っ直ぐな様子の先人を疑わし気に見る渡来人。


「それを知ってどうする」

「私は、曽祖父・大知光村を誰よりも尊敬しています。その人と約束したのです。必ず濁を雪ぎ、大王を守り、国を守ると。そのために多くを学び、立ち向かうための力を得たい。お願いします」


 真剣な眼差しで見つめ合う。やがて渡来人はひとつため息をつくと


「…頼んだのは私の方だ。よろしく頼む」

「ありがとうございます。ではすぐに策を練ります。あなたは、何とお呼びすれば?私は大知先人といいます。こっちは服織瀧」


 先人の言葉に瀧が苦笑いしつつ渡来人に軽く礼をする。


えいだ。そう呼べ」


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