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和乃国伝  作者: 小春
第七章 まこと
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一.出征

第七章が始まりました。物語が大きく動く回となります。

少し長くなりますので出来る限り毎日投稿出来たらと思っております。

時間はばらばらですが良ければ読んで頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。

〔宮中・謁見の部屋〕


 大王と二人、共に居るのは、大知氏当主・巌。大王から内密にと呼び出されすぐに向かい通された謁見の部屋でお言葉を頂く。それは


「何と、仰いましたか」

「居の国の戦、援軍を送る。大将軍は、そなたの息子・大知先人」


 目を見開く巌。それを見つめ、小さく笑う大王。


「お待ちください。それならば私或いは佐手彦が行きます。先人はまだ若い。大将軍として兵を率いるのは早いと心得ます」

「そなたらの祖は十五で当主となり数々の戦に出たというが」

「それは後を継ぐ者がいなかったから当主となり、その責を持って戦に出ただけの事。私も佐手彦もおります。出征は我らに―」


 光村は父を早くに亡くし祖父に育てられた。成人後すぐに代替わりをして当主となった経緯がある。

 それは誰でも知っている事。それでも大王は笑みを絶やさない。


「宇茉皇子も五年前に十三で戦に出たが?」

「それは、国内、政治闘争の果ての戦でございます。規模が違いまする」


 居の国は海を越えた他国。光村とてそんなに早く無い。そう主張したが、


「大知連、主命である」

「…」


 大王の言葉に黙るしか無い。


「そなたの息子の評判は聞いている。宇茉皇子の元、目覚ましい働きをしているようだな。若き力が育っているのはこの国にとって実に良い事である。任せるに相応しいと思うが?」

「大王」

「無論、無事に終えれば良き地位にも付けなければな。これで大知氏は安泰だ」

「大王」

「話は終わりだ。じき正式に命を下す。下がれ」


 巌は謁見の部屋を出る。

 大王は一人、呟く。


「大知先人、あの者は皇子に近付き過ぎた。【化物】の二の舞はごめんだ」


 巌が謁見の部屋を出るとそれを見付けた佐手彦が声を掛ける。


「兄上。大王より突然の呼び出し、何事ですか」

「来い」

「兄上?」


 巌が佐手彦に体を寄せ、小さく話す。


「大将軍?先人を」

「居の国への援軍での出征だ」


〔だんっ〕 巌は壁を叩く。


「大王は、我ら大知氏族を滅ぼすつもりだ」

「兄上。私が出ます。我らの父も叔父もかつて居の国への援軍で出征しました。私が行きます。今すぐ大王に奏上を―」

「無駄だ。却下された。当主の私が行くと言ってもな」

「しかし、先人は大知氏唯一の嫡子。もし何かあれば」

「わかっている。―大王はそれが狙いだ。この事態を打破するには」

「先人が、広の国に勝つ事。それは」

「こうなったのはすべてあの男のせい。この世から消えても我らを振り回すつもりか」

「兄上…」

「佐手彦…。先人は、どこだ?」






〔宮中・書庫〕


 いつもの通り、宇茉皇子の元に仕えている先人。休んでいた荻君が出て来たので声を掛ける。


「荻君殿。傷はその後どうですか?」

「大事無い。鍛えているからな」

「大知氏の良き薬があります。良ければお使い下さい」

「そうか。悪いな」


 気を遣う様子の先人とそれを素直に受け取る荻君の様子を黙って見つめている宇茉皇子。その様子を不思議に思い荻君が声を掛ける。 


「いかがしましたか?宇茉皇子様」

「いや、親しくなったなと思ってな。最初とは大違いだ」


 感心したように言う宇茉皇子に荻君が口籠る。


「互いに思う処ありまして」

「そうなのか?」


 先人が笑みを浮かべて言うと宇茉皇子が面白そうに返す。その様子を見て荻君も小さく頷く。


「はい。先人」

「はい」

「宇茉皇子様の許しを得て、史書を読んでいる。当時の陳新鹿を知りたくてな」

「どうですか?」


 先人が興味深げに聞く。大連・陳新鹿は噂には聞いているが多くは知らない。大知氏当主の巌が徹底して赦さないのもあり情報がわからない。光村も話さなかった。ただ一つ、自分は友の信に値しなかったとだけ。荻君は真剣な顔になる。


「…化物だ」

「え?」


 その言葉に瞬時に反応する先人。それにすぐ首を横に振る。


「いや、光村殿の話では無い。陳新鹿、あれは化物だ。元々司法の長の氏族から武に優れたのを大王に買われ、将軍として反乱した氏族を抑えるための戦に出て数々の戦歴、十代でだぞ。挙句、三国の戦に加わり、居の国を守り、広の国を退け凱旋その数三回。船で行くだけでも苦労するのに戦功を上げ続け、皇統問題でも当時の皇后の信を受け、功績を上げ、大連。二十代前半だぞ。信じられるか」


 熱く語る荻君に先人も感心し、負けじと返す。


「すごいですね。ですが、曽祖父様もすごいのです。十五で当主になり、当時の大王の権力を奪った臣下とその氏族を処し、大王の権力を取り戻した。その後将軍から大将軍として反乱する氏族を片端から抑え、立て直し、皇統危うくなったときはそれを守り、大王を守り、国をまとめた。居の国への援軍として出兵も数度行ったとか。軍略に優れ、強かったと。大王から深い信頼を得て近衛の兵をまとめる将軍となり、その後大連、二十代に入った時だとか。本当にすごいのです」

「…すごいな」


 先人の語りに感嘆する荻君。陳氏と言う事もあり、大知光村の情報は新鹿と同じく禁忌とされているので知らなかったのだ。素直に驚く。聞いていた宇茉皇子も深く頷く。


「前に言ったと思うがかつての二人の大連は功績を上げ続けた。大王を守り、国を守った。だから深く信頼され、出世もした。同世代にこの二人がいたのが驚きだ。今の皇統も大王の力も、この二人がつくったと言っていい」


 先人と荻君が共に頷くと、それに被さるように


「ですが一方は密告し、一方を追い落とした」


 冷たい声がする。織部司に顔を出していた瀧が来たのである。先人が諌めるように名を呼ぶ。


「瀧」

「事実かと。どれだけ功績を上げても、罪は消えない。貴方が言った事ですよ。ね」

「…」


 荻君に対し嘲るように視線を向ける瀧。過去に会い、先人に言った事と思い出す荻君は黙り込む。

 すると先人が近付き、


[ごんっ]頭を叩き、頭を下げる。


「すみませぬ。また口が悪くなり」

「いや、いい」


 荻君が返事をする前で頭を抱える瀧。


「先人、痛い」

「瀧。俺はいいと言っている。祖を思うのは悪い事では無い。心配してくれるのはわかるが昔の事。気にしていない」


 瀧は黙り込むが、先人は優しく見つめる。


「大丈夫だ。ありがとう。瀧」

「そなたらは、仲が良いな。いつも」

「はい」


 感心したように言う宇茉皇子に先人は笑顔で返事をする。瀧は若干むくれたような顔をしている。それに荻君が気付くがすぐに顔を背ける。

 すると、


「宇茉皇子様。大知連当主・巌でございます。息子はそちらにいますか?」

「父上?」

「大知殿。先人はここに居ます。どうなされた?」

「大王から、命が下りました。先人を、居の国への援軍の大将軍にと」

「…何?」


 その場の全員、驚愕する。






〔大知屋敷離れ・鋭の部屋〕


「居の国への援軍?」


 宮中で巌から大王の命を受け取り、正式な命は書状にし、屋敷へ使者を送るとなったので宇茉皇子の処から辞し、屋敷に戻る事になった先人と付いてきた瀧。すぐに鋭の処に報告に行き、話をする。


「はい。命が下りました。兵を率いる大将軍として出征する事となりました」


 淡々と話す先人に顔色が悪い瀧。鋭は双方を見つめ、問いかける。


「何故そうなった?そなたは出仕して間も無い。大将軍になるには、兵らを率いるのには若すぎるし経験不足だろう」

「居の国への援軍は曽祖父様から代々大知氏が出ています。内政から離れていたとしても戦での事は大知氏に受け継がれているのを大王はわかっておられるのでしょう」

「…他は?」


 意図が他にあると察し、更に問う鋭。先人は淡々と答える。


「曽祖父様の失脚の理由が三国への密談、賄賂、収賄です。特に居の国との王族と親しかったと聞いていますし、その罪の責をとれ、という事かと」

「暴論だな。証拠も無しに」


 呆れる鋭に、瀧が声を出す。


「滅ぼしたいのだ。【化物】の氏族を」

「瀧」


 先人が諌めるが、続ける。


「居の国を狙っているのは北の広の国。あそこは戦が強い。どの兵も精鋭だと聞いている。超大国である等の国も前王朝である繊の国も狙っていたが攻め落とせない。今まで居の国が滅びなかったのはそちらに勢力を傾けていたから。今は、等の国も内政を重視している噂もある。なら」

「全勢力が居の国に来ると?」


 鋭の言葉に瀧は更に続ける。


「全勢力を当てられたら勝てる訳が無い」

「瀧、落ち着け」


 先人が声を掛けるが止まらない。


「勝てる訳が無い戦に出る。それはすなわち…行くな、行ってはならない」

「それは、出来無い。私は大知連の嫡子だ。大王が命を下した以上行かねばならない」

「俺も行く」

「無理だ。服織氏嫡子では許されない」


 瀧の強い言葉にも先人は首を横に振る。瀧は懇願する。


「何とでもする。先人、」

「瀧、俺は必ず約束を果たす。曽祖父様の汚名を雪ぎ、大知氏の濁を雪ぎ、大王を守り、国を守る。そのために戦う。必ず帰って来る」

「先人」


 泣きそうな顔になる瀧。鋭が声を出す。


「先人、私も行こう。三国の情報ならわかる」

「…いつ戻れるかもわかりません。ここに居てください」

「私はお前の師だ。弟子と共に行く」

「私と行けば、いつか主君に再会する日が来ないかもしれません」

「…あの方は、仲間を、弟子を見捨てた者を決して許さない。そういう方だ」

「師匠」

「共に行く。師としてそなたに力を貸そう。瀧、そなたは待っていろ」

「…」


 瀧は俯き、拳を握る。そして、決意をする。

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