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和乃国伝  作者: 小春
第六章 かこ
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一.過去

第六章が始まりました。よろしくお願いします。今回は色々な過去がわかります。

皇族・綜氏の紹介は今後の話で出て来るので参考にしながら読んで頂ければと思います。ややこしいので。

〔九年前・大知屋敷〕光村と出会う少し前


 先人の部屋に二人。学問をしている。一人は先人。もう一人は、


「…という事だ。わかるか先人?」


 屈託のない笑顔で優しく語り掛ける青年・ろう。先人より七歳上であり学問の師である。二人地図を見ている。大知氏に近付く者がいないので若くても才がある朗が師匠になっているのである。


「はい。えっと、和乃国はここで、海を越えて三国があり、三国の北の広の国の隣の狭い山道を越えて、繊の国がある、という事ですね」


 先人の答えに満足そうに頷く朗。


「そうだ。しかし、今繊の国は揺らいでいる。次が出て来るだろう」

「師匠は詳しいですね」


 先人が何気なく言うと、朗はしれっとして


「恩人の実家が、詳しいのだ」

「そうなのですか」


(商人かな?)


 朗の答えに少し考える先人。その様子を見て朗は笑みを深める。


「先人」

「はい」

「高位につきたいか?」


 何気なく、そしてどこか真剣な空気も感じる朗に困った顔をする先人。


「父上はそうしたかったようです」

「そなたは?」

「わかりません。皆、私を才が無いと言います。師匠は私にそうなってほしいのですか?」

「私は才が無いとは思わない。先人は才がある。私は才を生かすべきと思っている。共に立つか?」


 朗に真剣な様子で言われ、戸惑う先人。


「師匠?」

「戯言だ。私は国を乱す気は無い。しかし、いつかそなたが上に立つ事あれば師に礼をしてほしい」

「礼ですか?」

「ああ、救ってほしいのだ。ある方を」


 真剣に、そして哀しそうな表情で言った師の言葉が忘れられない。何を望んでいたのだろう。今もわからない。




〔現在・宮中書庫〕


「先人」


 宇茉皇子の声掛けに先人がはっと正気に戻る。


「すみませぬ」


 先人が謝ると、小さく首を横に振る宇茉皇子。


「いや、先日の件(五章)で疲れが残っているのだろう。後処理でなかなか休めなかったからな。すまぬ」

「いいえ、謝らないで下さい。荻君殿は、怪我の具合はいかがですか?」

「ああ。大丈夫だ。本人は出ると言っていたが休んでもらった」


 宇茉皇子が平然と言う。ふと違和感があり先人が周囲を見回すが誰もいない。瀧も現在織部司にいるので今は宇茉皇子と先人の二人である。


「皇子様の護衛は?」

「ああ。いない」

「え?」


 素で驚いた声が出る先人に苦笑いする宇茉皇子。


「荻君以外で見た事があったか?」

「…大丈夫なのですか?」

「宮中で私に手を出す者などいない」


 平然と言う宇茉皇子に先人が詰め寄る。


「宮中以外では?」


 皇子だが成人している。宮中近くに屋敷があるとはいえ外。危険がある。そう思い質問するが皇子本人は平然としている。


「屋敷」

「危ないのでは?」

「妻の実家が赦すとでも?」


 その言葉にはっと気が付く。宇茉皇子の妻二人は綜氏族の者でしかも二人いる。綜氏が赦す訳が無い。そう思い至り、先人は反省する。


「…すみません。あの、私はわかりませぬが奥方様達とゆっくりお休みください」


 今は後処理も終わり比較的静かな宮中。護衛が居なければ自身の屋敷でのんびりして頂ければとそう思い言ったのだが、


「お前にそのつもりが無いとはわかっているが変な感じだ」

「?」


 宇茉皇子にまた苦笑いされ、先人は首を傾げる。


「少し出たい。付いてきてくれ」

「はい」


 宇茉皇子の言葉で書庫から宮中を移動中である。


「瀧も後で来ますが、待たなくていいですか?」


 宇茉皇子の背中に付いて行きながら声を掛ける先人。皇子はこちらを見ず平然と答える。


「ああ。いい。あやつは私を嫌っているからな」

「…すみません。理由はわかりませんが」


 先人が謝るが気にした様子も無い宇茉皇子。


「友を思っているのだろう。良いな。そなたらは。心から信を置いている」

「皇子様も長之皇子様がおられます。荻君殿も」

「荻君は、まあそうだな。長之皇子様は、恐れ多い」


 そう言いながら空気は柔らかくなっていると、


「これは、宇茉皇子様」


 唐突に話しかけられる。皇子にそのように言える臣下は宮中にたった一人。


「綜大臣。央子殿も」


 小さく会釈をする二人。綜氏親子である。


「いつもの護衛は見ませんな。そちらは?」


 護衛の存在も、どのような人物かもすべて把握しているのにこの態度。最高権力者の余裕を感じる。何気なく先人を見据え、問いかけるが宇茉皇子は無表情。


「関り無き事では?」

「宇茉皇子様。大臣に対し無礼では?」

「央子殿。そなたも我に興味など無いであろう。後見無き皇子は宮中にて誰と歩くのにもそなたらの許可を得ねばならないのか?」


 父である綜大臣に対し無礼を告げる央子に対し、いつもの穏やかな様子とは一変している宇茉皇子。冷静に、淡々と話しているが


(深い、憎しみ、憎悪)


 それを感じ、静かに見据える先人。


「それは、」


 それにおされ二の句が告げられない央子に


「央子。よい。その通りです。許可などいりませぬ。息子が失礼な事を。お詫び申し上げます」


 父である綜大臣が謝罪する。それを見て、


「…お詫び致します。皇子様」


 共に謝罪をする。それを冷たく見据えながら歩き出す。


「ならよい。では」


 先人と共に去っていく宇茉皇子の後姿を見つめながら苦虫を嚙み潰したような顔をする央子。


「父上、甘すぎます。やはり無礼です。宇茉皇子は」

「よい。気にするな。行くぞ」


 央子の言葉を遮り反対の方向に歩き出す綜大臣。その後を付いて行きながら


「…はい」


 渋々返事をする央子に頷き、遠くを見る目になる。


(大知先人。青海の一件、前回の一件に関わっている。大知光村が真に認めたのなら…)


 既に情報も顔もわかっている相手を思い、


(あの者らの沈黙の理由は恐らく。それが正しければ…、ならば宇茉皇子をどうすれば)


 思案に耽る綜大臣である。



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