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和乃国伝  作者: 小春
第五章 さきへ
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九.和解

これにて第五章は終わりです。ありがとうございました。

第六章は同じように水・土曜日更新していきます。色々ありまして時間がばらばらになっていますがこのペースで進めていきたいと思います。良ければ次もよろしくお願いします。

〔その後・宮中〕


 一連の事件が終わり、先人と瀧が宇茉皇子の元へ報告している。先人が先に荻君を連れ、宇茉皇子に報告している中、瀧が来て共に報告をする。報告を聞き、宇茉皇子は笑みを浮かべる。


「よくやった。これで無事に始められる」

「徹様は?突然変更した事への御咎めは」


 先人が気になっていた事を問うと宇茉皇子は頷き答える。


「変更については不問とされた。居の国の方も篠殿も休めて丁度いいと言っておられたとかで」

「そうですか。陳殿は?」

「医師に見せたが、幸い深くは無かったようだ。十日程で回復するそうだ」


 徹氏にお咎めが無いことにほっとしながら荻君を気にする先人。宮中に入る前に宇茉皇子の兵に任せてたのだ。*宮中に穢れは持ち込め無いため。

 皇子の言葉に更にほっとする先人。


「良かったです。皇子様、ありがとうございます。兵も出して頂き」

「ああ、余り出せなかったがどうにかなったか。良く乗り切った」

「え?少なくは」

「それで、綜大臣は何か?」


 先人が兵を出してもらった礼をすると気になる事を言われるが瀧が割って入る。宇茉皇子は怪訝な表情になるが瀧の問いに答える。


「いや、何も。ああ、些か、ほんの少し、溜飲が下がりそうだと言っていたが」

「それは何より」

「?」


 瀧が笑っているのを不思議そうに見る宇茉皇子と先人であった。





 そして、数日後。居の国の商人は通訳の方と共に帰国する事となった。宮中で大王に挨拶の後、都の入り口で別れを告げる。綜大臣もいた。


 商人・白が見送りの者らとの対応に追われていると、通訳・篠は気付き、白に話をし、場を少し離れる。そこには、先人がいた。篠が声を掛ける。


「もし、あの時の方では?」

「覚えておいででしたか?あの後は、大丈夫でしたか?」

「はい。あの時はありがとうございました。あの、私を庇った方は」

「傷も深く無く、大事には至りません。大丈夫です」


 先人の言葉に篠は笑顔になる。


「良かった」

「兄君様と、お話はされましたか?」

「はい。たくさん、話しました。ここで、待ってくれるそうです。私が癒えるまで、帰る場所を整えて」

「帰って、来られるのですか?」


 帰る、すなわちここが故郷だと言っている。辛く悲しい思いをした場にいつか戻ると。辛くて離れたのではないのかと、驚く先人。篠は答える。


「離れたかったのです。何もかも、覚えていては生きられぬと。それが、綜氏を信じ切ったと、兄に思われてしまった」

「篠様」


 離れたい妹と綜氏に従いたくない兄、本当にすれ違っていただけなのだと感じる先人。


「私達に、罪など無い」

「はい」


「兄が、大知先人様に救われたと。昏い処から救い出してくれたと。貴方ですね」

「はい」


「ありがとうございます。貴方様の祖も、罪など無い、そう信じているのでしょう」

「はい」


「貴方様を見ればわかります。私も、兄も、そう思います。どうか、御達者で」

「ありがとうございます」


「あの方も、助けて下さり、ありがとうございましたと。それを」

「伝えます。必ず」


 去っていく篠を見送る先人。目線はそのままで話し掛ける。


「…良いのですか?」

「当たり前だろう。どの面を下げて」

「そうそう」

「瀧」


 荻君と瀧が出て来る。


「篠殿は、沙須那殿とすれ違っていたようですが、和解出来たようです。良かった」

「ああ。…良かった」


 心からの言葉を出す荻君に先人は語り掛ける。


「陳殿。宇茉皇子に聞きました。貴方は、逃がそうとしたそうですね。徹氏族を」

「…子どもの浅知恵だ」


 徹氏の屋敷が囲まれた際、裏から逃がそうとして見つかり、そのまま火を。祖父や父から殴られた。けれど、どうにかしたかった。彼女の声が忘れられない。罪など無い。そうなのだ。罪があるのは、我らだ。

 先人が柔らかい笑みを浮かべる。


「それでも、己の意思で動き、成そうとした。貴方は強い方です」

「お前も、強いだろう。身内や周りの言葉に惑わされず祖に敬意を示す、私には出来ない」

「陳新鹿様も立派な方だったと聞いています」

「それでも、裏切った」

「理由が、あったのでしょう。曽祖父様は、友と呼んでいた」

「!」


 荻君は先人を見つめる。


「陳殿が見つければ良いのです。祖の真実を。そして信じる道を行けばいい。私はそれを咎めませぬ」

「…」


 荻君が突然礼をする。先人は驚く。


「陳殿」

「荻君でいい。今までの非礼を詫びる。大知先人」

「え」

「そなたを誤解していた。ただ祖を盲目的に信じているのかと」

「否定はしませんが」

「瀧」

「だが、そなたを知れば知るほどわからなくなった。祖を重んじるだけで無く、客観的に物事を見て判断し、信じている。それだけで無く、証明しようとしてるのだろう」

「はい」


 曇りなく返事をする先人に荻君は感嘆する。


「そなたは聡明で強く、清廉だ。人として尊敬する」

「私はそのような者ではありません」


 慌てて否定する先人に荻君は強く言う。


「私がそう思うのだ。そなたが祖を思うように」

「!」

「今まで申し訳なかった。これからも、宇茉皇子様を共に支える仲間と思いたい。よろしく頼む」


 荻君の言葉に今まで黙って見ていた瀧が口を挟む。


「お前今更、」

「瀧。私に殿は要りません。先人とお呼び下さい。よろしくお願いします。荻君殿」

「先人。私、いや俺も荻君と」

「いや無理。駄目」


 あっさりと否定する瀧。


「は?」

「瀧」

 

 咎めようとする先人に瀧は平然と返す。


「宇茉皇子様と同じ呼び方するつもりか。先人」

「あ」


 気が付いたように言う先人に荻君が突っ込む。


「いや、お前も先人も呼び捨て」

「最初からこの呼び方だったし。お前は駄目」

「どういう理屈だ」


 瀧の全否定に荻君は混乱する。先人は少し考えて


「私もいきなり呼び捨ては難しいので、そちらが年上ですし、荻君殿でよろしいですか?」

「まあ、わかった。それと丁寧な口調はしなくていい」

「はい。あ、うん」


 荻君の言葉に直そうとする先人。それを見て


「それでいい」


 と頷く荻君と


「私は呼びませんよ」


 否定する瀧。


「瀧」

「いい。呼びたく無いのだろう。かつてそう言っていたからな」

「覚えていましたか。はい。そうですよ」


 荻君がため息を付くと瀧は笑顔で返す。


「前からの知り合いですか?」


 丁寧な口調が取れない先人に苦笑いする荻君。小さく頷き、


「覚えていないのか?お前にもかなり酷い事を言った」

「いつもの事でしたので」

「…すまない」

「いえ、大丈夫です」


 再び謝られたので慌てて否定する先人。


「大丈夫なわけ無いだろう」


 平然と、しかし怒った口調の瀧。荻君を睨む。荻君は瀧を見つめる。


「あの時から思っていた。お前は私が嫌いなのだろう」

「まさか」


 瀧は満面の笑みを浮かべ


「大嫌いです」


 と、場を凍り付かせる。ややして、荻君が声を出す。


「…先に戻る」

「はい。あの、私、俺は嫌って無いので、」

「ああ。わかっている」

「俺は嫌っていますよ」

「瀧」

「ああ、わかっている」


 去っていく荻君の背を見ながら瀧は満面の笑みを浮かべ、先人は困惑していた。



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