表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和乃国伝  作者: 小春
第五章 さきへ
40/129

七.荻君と先人

そのすぐ後 宮中・書庫


「要人暗殺⁉」

「そういう事らしい」


 驚き声を上げてしまった先人に宇茉皇子は淡々と答える。現在書庫には宇茉皇子、先人、瀧、荻君がいる。瀧は表情を変えず聞き、荻君は黙っている。


「私の手の者からの報告では、陳氏の生き残りがそう言っていたらしい」


 宇茉皇子がちらと荻君に目線を送る。その様子を先人は気付くが意図が分からず困惑していると瀧が話に入る。


「それはそれは、余程の手練れとお見受けします。それ程の者がおられるのならば私共などのお手をなど必要ないでしょうね。お役御免にして頂けますか」

「たまたまだ」

「ご謙遜を。我らに気を遣わずとも良いのですよ」


 といつもの絡む口調になった瀧を止めようと先人が口を開けると


「大知」


 黙っていた護衛から突然声をかけられる。呼ばれるまま目線を合わせようとすると、相手は宇茉皇子に目を向け一つ頷くと先人に目を合わせる。


「おい」


 瀧が口を挟もうとするが気にも留めずそのまま話始める。


「先程の情報は、私が掴んだ」

「はい」


 突然の言葉に困惑しつつ答える先人。そのまま続けられる。


「私が、陳氏の者だから奴らは声をかけた」

「え」


 思わず声を出す先人に更に続ける。


「我が名は陳荻君。そなたの曽祖父・大知光村を失脚に追い込んだ大連・陳新鹿は我が曽祖伯父であり、私が、現当主だ」


 その言葉に先人は、目の前が真っ暗になった。そして、思い出す。

『友か』

『はい。鍛冶師の頭の子の鋼と服部瀧。他の者らには避けられたり、言われたりしますが二人は違います。ちゃんと、私を見てくれる』

『そういう者らは大事にせねばな』

『はい』

『…私にも、友と呼べる者がいた。しかし、私は〝信〟に値せぬ者だったようだ』

 深い哀しみを感じた。恨みも、憎しみも、怒りも無く、只、哀しみのみを。


「先人」


 宇茉皇子の言葉にはっと意識を戻す。


(これは、過去。曽祖父様との)


 瀧も心配げに見ている。

 荻君はじっと先人を見つめている。悪意も感じられず、誠実さを感じる。


「驚くのも無理はない。しかしいつまでも黙っている訳にもいかない。今回の件があり尚更だ。過去の事もあり思う事もあるだろうが今はそれに囚われず無事に宴と密談をー」

「わかりました」


 荻君が真っ直ぐに言葉を出しているのを遮る先人。荻君は驚き先人を見つめる。


「わかった…のか」

「はい」


 怒りも、恨みも、憎しみも感じられる事も無くただ返事をする先人にその場の皆驚く。


「恨み事は」

「ありません」

「私は、陳氏の当主だ」

「はい」


 そのやり取りを唖然として見ている宇茉皇子と瀧。瀧が思わず


「無いのか、何も」


 瀧の言葉の意図を察した先人は首を横に振る。


「あなたではありません」


 先人のその言葉に皆、黙る。先人が感情を向けるのならば、荻君では無く、陳新鹿なのだ。そして五年前の乱を起こした張本人。

 先人は荻君を見つめ、問い始める。


「何故、宇茉皇子様の元へ?」

「乱の後、成人前と関与していないという事で恩赦が下った。行く当ても無く屋敷跡に居ると宇茉皇子様が来られた。そして手を取った。再興のために」

「どう思っていますか」

「いつか氏族を束ねる者として言われるがまま付き従った。それが正しい事と信じて。だが、言う資格が無いのはわかっているが、悔いている」


 先人の問いに正直に答える荻君。完全に主導権をとられている。もっと罵倒されるか、暴れられるかするかと思っていたので拍子抜けしたのもあるが。それでも、真剣に答える荻君である。


「大知光村の事は?」

「噂のみだ。曽祖伯父の事も氏族の噂程度にしか知らない」

「あなた自身は」

「最初はそれを鵜吞みにしていた。だが、今はわからない」


 先人は一つ頷く。


「最後に、私をどう思いますか」

「…凡庸に見えて以外に切れ者。他者に誠実さも伺える。他者の言葉に惑わされず己が信を貫こうとする。私は、そこまで祖を信じきれない」

「悪意はありますか」

「無い」


 じっと荻君を見つめる先人。


「なら、問題ありませんね」


 ふっと笑い宇茉皇子に向く先人。


「私も陳氏当主に思う処はありませぬ。お話を続けてください」

「先人、いいのか?」


 思わず瀧が口を出すが、先人は頷く。


「いいんだ。向こうもそう思っているのなら。むしろ、もっと言われるか殴られるかと」


 平然と言ってのける先人に一同唖然とするが、瀧は察する。自身と出会う前の先人を。


「殴りはしない」


 荻君がぽつりと言う。先人がそう思うのも無理はない、と荻君も察した。陳氏の凋落は大知光村失脚からと言っていいからだ。裏切った上失脚に追い込んだ者が言うな、というものだが。

「先人がそう言うならこの話はこれで終わりだ。よいな、荻君」


「はい」

「では続けよう」


 宇茉皇子の言葉に先人と荻君は頷く。瀧はそれを見つめていた。


「【陳氏族】の生き残りと他刺客の目的は、暗殺。誰をだが」

「正確には暗殺が主目的では無く居の国との関係に傷をつける事が真意のようです」


 宇茉皇子の言葉に荻君が補足する。先人が予想を立てる。


「事を成すのなら大事にするならば宴、内密に済ますならば密談の場、でしょうね」

「今回は大事にしたいようだし、皇族や高位の貴族らが集う宴でしょう」


 瀧も冷静に考えを言う。更に続ける。


「宴で事が起こり、居の国の客人(商人)に何かあれば下手をすれば居の国への宣戦布告にも取られかねない。何とか犠牲無く収められたとしても居の国に報告が行けばどうとらえられるか、それこそ外交担当・綜氏の責となる」


 瀧の言葉を引き継ぐ先人。


「綜氏に取って代わりたい氏族からの内乱と居の国からの外乱、両方起こり得る原因になる」

「事が起こった時、混乱している綜氏以外の高位貴族の前で陳氏が現れ、皆を救う。実は陳氏の嫡子は生きていて宮中に居た。混乱が起こると察知し、他の生き残りを率いて現れ救う。過去を涙ながらに悔い、何なら土下座でもして深い謝罪をして、混乱している皆の心を先導する。そこに大知氏当主を立て、その場を収める」


 先人と瀧が交互に考えを話す。宇茉皇子と荻君は黙って聞いている。


「【大知光村】は綜氏の陰謀により失墜させられた。陳氏は利用されたのだ。【化物】では無く【忠臣】だったと高らかに宣言」

「【大知光村】はすべての氏族を従えていた。汚名が晴れた以上すべての氏族を束ねる事こそ正しいとそこにいる皇族・高位貴族らを納得させる。そして、大王に報告」


 先人と瀧の考えを聞いていた宇茉皇子が指摘をする。


「大王が納得すれば成功となるがそうで無い場合の方が高い。勝算はあるのか?」

「大王が納得しなければ、大王の血を引く大知の皇子を立てる。そういう事だと」


 先人の言葉に荻君は目を見開く。


「いるのか?」

「わかりません。ただ、刺客が」

「いる」


 宇茉皇子の言葉に全員視線を皇子に向ける。


「ただ、そちらは思い通りにいかない。逃がしたからな」


 皆に強い視線を向ける宇茉皇子。続けて


「時間が無い。後で詳しく話す。続けるぞ。宴の場の見取り図だ」


 見取り図に皆視線を向ける。先人から切り出す。


「どこから攻めるか、ですね」

「入る者らの身元はきっちり検閲するのでしょう?」


 瀧が宇茉皇子を見つめ問う。


「無論だ。厳重にしている」

「陳殿、貴方様の処に来た氏族の者らは手練れでしょうか?」


 瀧の問いに頷く宇茉皇子。先人が荻君に問う。


「大連だが曽祖伯父は元将軍、それにあやかり武芸に優れていなければという教訓で傍流も育てられているから、手練れではある。しかし、精鋭とは言えない。乱の際も形勢不利と判断したら早々に逃げ帰ったと聞いている」 

*陳氏は元々は宮中では司法の長の氏族。陳新鹿が武に優れていた事から将軍となり大連となった経緯がある。


 荻君もすぐに答える。瀧が続ける。


「その後追手から逃れ、隠れ、生き延びた。運を差し引いても、まあ、そこそこではありそうですね。爪は甘いですが」

「侮辱しているのか?」

「いいえ。事実を言ったまで」

「貴様」


 瀧の言葉に激昂する荻君。先人が瀧を諫め、宇茉皇子も諫め、話を続ける。


「瀧」

「やめよ。話から察して要するにそこまで細かな采配が出来そうにない者らだと、そう言いたいのであろう」

「英明です。皇子様。策は悪く無いですが、人を知らず情勢を知らず己が正しいと思う者ばかり。だから五大氏族は従わず、大知総領姫に捕まり、陳氏当主は動かず、大知・中氏両方取り入れられず、…甘い奴らだ」


 瀧の言葉にぞっとする荻君。


(何なのだ。こいつは…)


「…」

「先人、どうした?」


 先程から黙って考え込んでいる様子の先人に宇茉皇子が声を掛ける。


「いえ。ずっと気になっていたのですが、何故綜大臣は動かないのでしょう」

「何を言っている。宴も密談の場の準備もすべて大臣自ら采配を」

「表立ってのみ、ですよね。綜大臣ならば独自に探る者らを従えている筈。ですが私と瀧が調査中そういった者らを見かけていない。な、瀧」

「…ああ」


(霧はいたが、一度だけだ。調査している様子も無かった。一応という感じで。あれのみ?他は?気付かない訳が無い。まさか、)


 瀧がはっと気が付く。


「わざとか」

「事を起こさせるつもりか」


 宇茉皇子も気が付く。先人も荻君も。瀧の言葉で皆悟る。


「事を起こさせ、加担した者らすべて潰す。居の国との密約を条件に使者として来た商人の口を塞ぐ。そうすれば」

「反対勢力すべて消える。五年前の復讐も出来る」


 荻君、先人と次々考えを話す。


「流石綜大臣。何もかも手の内とは」

「感心している場合では無い。では、皇子様」


 瀧が感心したように言うのを荻君が突っ込み、宇茉皇子に詰め寄る。宇茉皇子は頷く。


「事が起これば陳氏だけでは無い。声を掛けた氏族、すなわち大知・中氏それに味方した氏族すべて滅ぼされる」

「そして、それを従えている者も」


 ちらと瀧は宇茉皇子を見る。先人が礼をする。


「皇子様、出ます」

「策はあるのか?」

「はい。宇茉皇子様にお願いがあります」


 先人が策を話す。


「成程。わかった。…これで良いか?」


 話ながらさらさらと文を書き、先人に渡す宇茉皇子。


「はい。事が起こる前にすべて終わらせます。しのびとして」

「わかった。行け」

「はい。瀧、」

「承知」

「皇子様、私は先に刺客が動かないとも限らないので宴の場に行きます」

「ああ。荻君も頼む」


 全員各々動き始める。宴は、明日に迫っていた。


最近、更新の時間がばらばらで申し訳ありません。更新は水・土曜日でいつも通りです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ