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和乃国伝  作者: 小春
第五章 さきへ
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四.伯母の伝言

 船が、波流はる(青海の国の隣)の港に到着したと報告が宮中に入る。当初の予定通り、居の国からの商人・白と通訳・篠、商人に仕える者ら十名。波流の港から船を変え、青海の国へ、そして都へ到着する。綜大臣が息子・央子と共に自ら迎えに出る。外交担当の綜氏当主とはいえ、大王を除き政権筆頭の序列である大臣が率先して出迎えるのは異例の事である。


「居の国よりの長旅、心より御礼申し上げます。今宵はゆるりとお休み頂き、翌日宴等の話をしたいと思いまする」


 共に迎えに出た臣下ら周囲が驚く。綜大臣自らの出迎えと言葉掛け、高位の者がする事では無い。それを当たり前に行っている。ただの商人では無く重要な者らかを周囲に示しているのだとその場の皆が察する。


「綜大臣自ら有難く存じます。この機会を与えて頂き感謝しようもありません。宜しくお願い致します」


 居の国からの商人が綜大臣の意図を察し、礼に答える。


「この国の言葉をよくお覚え頂きました。とても流暢です。礼などは要りませぬ。こちらも、大切な者らを救って頂きました」


 綜大臣が目線を商人・白から後ろの通訳の女性・篠に向ける。篠は表情を和らげ綜大臣を見つめる。親しき空気を察する事が出来る。綜大臣も優し気に見つめている。


「長旅お疲れでしょう。ご案内致します」


 そう言い、案内しようとすると、


「どちらの屋敷ですか?」


 商人が目を光らせる。警戒もあるようだ。

「宮中に用意させました。商談も長引くでしょうから特別に場所を整えました。不自由が無いようにしましたが、何かあれば何なりと」

「それは光栄にございます」


 綜大臣の言葉に白は礼をする。篠も礼をすると、綜大臣が小さく言う。


「…徹氏殿が尽力してくれた」

「それは、ありがとうございます」


 篠が嬉しそうに言う。白も綜大臣も小さく笑う。

 その後少し話をし、綜大臣が振り向く。


「さ、央子、共に案内をー」



 それらの様子を遠目で見ていた者がいる。

「成程ね、」

 ぽつりとつぶやきふっと消える。瀧である。



「と、言う事で親しそうに語らいをしておりました」

「報告ご苦労」


 現在、書庫にて宇茉皇子、護衛(荻君)、先人、瀧がいる。今回は瀧のみが出迎えの様子を調査し、報告している。


「皇族なのに出迎えはよろしいので?」


 相変わらず慇懃無礼な態度に荻君も先人も苦い顔をしているが宇茉皇子本人は平然と受け流している。


「必要ない。出迎えは最小限と言われている。長之皇子様もそう言われているそうだ」

「貴方様はともかく長之皇子様もですか。皇位継承が高い御方でもそうなりますか。徹底してますね」

「瀧」

「服織」


 余りの言い様に先人も荻君も注意するべく言葉を発するが宇茉皇子に手で制される。


「人が多ければ危険も増す。襲撃等に備えているのだろう。護衛も、守る者が少ない方が動きやすい。徹底している」


 瀧の言葉は気にも留め無いという態度で話を続ける。瀧の態度には慣れたらしい。


「突然居なくなったかと思えば一人で探って来て。言ってくれれば」

「綜大臣の前で静かに居られるか?」


 咎めるように言う先人に瀧は平然と返す。ぐっと小さく呻る。…この前の事を言っている。その様子を見て苦笑いしている宇茉皇子だが、


「綜大臣らも徹底しているが油断はならない。引き続き頼む」

「「「承知しました」」」


 気を引き締め、指示を出す宇茉皇子に皆礼をする。そして各々動き出す。



 宇茉皇子と荻君を書庫に残し、先人と瀧は再び調査に出ようとすると、


「先人」


 先人の叔父・佐手彦が声掛けてくる。


「叔父上。久しぶりです」


 表情無く小さく礼をする瀧と対称的に久しぶりに会えて嬉しいと言うような様子の先人に笑い返す佐手彦。この叔父甥は仲が良いのである。


「出仕して以来、ほぼすれ違いだったものな。二人とも元気か?」


 宇茉皇子の様子を聞いたりしないで先人の様子を聞く限り、佐手彦と言う人の性質がわかる。疑ってもいないし、気にしていない。素で本質を見ているのだ。


「はい。色々慣れない事もありますが。…どうかしましたか?」


 宮中では顔を見かけても話しかけたりして来ないので(そんなものかと思っていた)不思議に思っていると小さな木簡を差し出される。


「姉上からだ。すぐに渡せと」

「伯母上が?中身は」

「読めばわかる。…余り宮中では接触しない方がいい。疑われる」


 苦笑いしつつ、声を落とす佐手彦。疑い。そうだ我ら氏族はと察する先人。


「はい。ありがとうございます」


 すぐに受け取り、礼を言うと佐手彦が苦笑いをして一言。


「覚悟しておけ」

「…? はい」


 困惑しながら返事をすると、後ろ手に手を振り去っていく佐手彦。瀧と目を合わせてこっそり物陰に隠れ、読む。*瀧の前で会話していると言う事は瀧も見ても良いと言う事である。


するとー


〔宮中・書庫〕


「…何だ?」


 突然目の前に差し出された小さな木簡に戸惑う宇茉皇子。

先人と瀧が先程辞したと思えば戻ってきて無言のまま木簡を差し出すのだ。宇茉皇子の側に付いている荻君も戸惑い気味に見つめ様子を伺っている。


「お読みください。…余り言葉が良くありませんが」

「?」


 先人が苦虫を嚙み潰したような声で直も木簡を差し出す。宇茉皇子は戸惑いながら読み始める。荻君も後ろから目を通す。



先人へ

先日、夫の元に使いが参りました。正確には中氏当主と私両方ね。知っての通り私の夫、方能子は五年前にやらかした従兄から当主の座を引き継いだの。我が夫はかつての事をとても悔いていて、身を慎んで神事に励んでいるのに。それなのに、使者は言うの。中氏を再興させたくないかと。共に立てば権力は戻るから、それには私の実家大知氏も力を貸してほしいと言ってきたの。私が総領姫だから当主を説得してほしいって。嫁いだ身でおかしな話ね。

何をどうするのか聞いてみたらとっても杜撰で阿呆の極みだったわ。だけど放っておいても良くないと思ったから捕まえてお仕置きしちゃった。良かったら中氏屋敷で仕置きしながら待っているので聞きに来てね。まったく、困ったものね。

皆さまによろしく。


追伸 相手が話せる内に、早くね。  咲



「………」

「………」


 沈黙が流れる。難しい表情をしている宇茉皇子と渋い顔をしている荻君。先に読んでいた瀧は笑いを堪えている。


「… 行ってきていいですか?」


 先人が様子を伺いつつ訊ねると宇茉皇子はややあって、頷く。


「行ってこい」


 何とも言えない顔をして指示を出す。

 礼をして場を辞する先人。

 しばらく無言になっている宇茉皇子と荻君。瀧はいつの間にか辞していた。…抜け目が無い。ややして、一息つく宇茉皇子が静かに話し出す。


「大知氏の総領姫はかなりのやり手だな」


 感心したような様子の宇茉皇子に


「恐ろしさしか感じませんでしたが」


 思わず素で突っ込む荻君。目が遠くを見ている。


「使いと言っても事を起こす気のある輩ならばやり手のはずだ。それを抑え、更に情報を引き出すとは」


 うんうんと頷きながら語る宇茉皇子に


「…屋敷の兵が強かっただけでは?」


 冷静に突っ込む荻君。


「中氏の兵が?」


 すっと返す宇茉皇子。はっとする荻君。


「―失言しました」


 素直に謝る。それを流し、遠くを見るようにしみじみ語る。


「残念だな。男子に生まれていれば大知氏を支えられただろうに」

「…」


 荻君は黙っている。


(それは感じる。文面もふざけているように見えて要点を的確にとらえていた。そして、使いと称する輩を捕らえている。冷静で的確。現当主より遥かに有能だ。総領姫として手腕を振るい、他家へ嫁ぐことも無かったろうに)

 

 婿が来ないからかとらしくもなく思いに耽るが、


(しかしー恐ろしい。まだ先人の方がましだ)


 そう思わずにはいられない荻君であった。

 ちなみに中氏はかの乱で陳氏に付いていた。前当主が騙されたので。乱後は事情を鑑み地位を取り上げられてはいないが大知氏同様、内政には関わらず、現在は神事を司る事に没頭している。現当主は中方能子なかのかたのこといい、咲の夫であり、争いを避けている。*乱後、当主交代している。



 一方、先人は


「瀧、何で付いてくる?宇茉皇子様は?」

「面白そうだから。皇子様はわかっているよ」


 大知屋敷に向かう道中。一人で向かうつもりだった先人にいつの間にか一緒にいた瀧に戸惑うがいつもの通り瀧に平然と返される。


「部屋を辞す事、皇子様に伝えてないだろ」


 礼儀を持って接するべきという先人に小さく頷く瀧。


「わかっているよ、あの方なら。流石皇族」

「…」


 じっと瀧を見つめる先人。以前、言われた事を思い出す。


『あれは皇族だ。大知光村を見捨てた皇族だ』


 宇茉皇子に悪感情を持っていてその返しなのかと思っている先人を察した瀧が首を振る。


「違うって。かなり察しが良いってことだ。先を見通している」

「…」

「…何?」


 更にじっと見つめて来る先人に思わず問う。


「何だかんだ言っても、宇茉皇子様の事、信を置いているのだな、と思って」


 笑顔になって言う先人に、目線を遠くにやり、


「… 切れ者、という点ではな。かの乱でも策を上げ、戦でも貢献したと言うし」

「… そうなのか?そういえば叔父上も以前『あの皇子には才があります』と言っていたな。詳しくは話してくれないが」

 はっとする瀧。乱の内部事情は公になっていない。だから宇茉皇子がどの程度関わってどんな功績を上げたのかは直接戦に関わった者らで無ければ知らないのだ。そして、それもほぼ口を封じている。綜大臣が命じたのだ。


「いや、噂だが」


 瀧が表情も変えずに言う。内心どうかわそうか考えていると


「そうか」


 先人が一言。気にして無さそうに言う。


「…聞かないのか?」


 何を、とは言わない。


「瀧は瀧だ」


『何を言っているんだ?』と言わんばかりの不思議そうな顔をしている。幼い頃から何度もしているやり取り。―こいつは何も聞かない。そしていつもこの言葉を返す。わかっているくせに。時々、泣きそうになる。泣かんけど。


「何だそれ」


 茶化すように笑う。先人も笑う。―それでいい。叶うなら、ずっと。


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