三.思惑と約束
これにて第四章は終わりです。短くなりました。
第五章は土曜日から始めます。よろしくお願いします。
「と、言う事になりました」
「阿呆だな」
少し後の服織屋敷。いつもの通りの定期報告に聞き耳を立てていた当主・吹だが息子であり部下でもある瀧の話ににべも無く切り捨てる。先程との先人との会話そのものだ。今度は瀧が阿呆と言われているが。
「失脚しようが大連を輩出した氏族の唯一の嫡子を【影】にするなど、愚か者のすることだ」
いつもより感情的な様子で語る上司、いや父の様子に若干驚きつつ話を進める。
「【影】では無く【しのび】ですが」
「同じ事だ」
あっさり切り捨てる。…まあ、俺も同じ事言ったがなと思う瀧。
「聡明な方とも思っていたのだが、やはり皇族か」
一息ついた父もとい上司の顔に戻る。…全く同じ事を言っている。こういう処に血の繋がりを感じる瀧である。
「そうでしょうね。恐らくはー」
「―大知光村様」
考えを語ろうとするとすぐさま言葉も考えも被せられる。感情は出れど囚われない、我ら氏族の長は。
「盾か人形が欲しいようで」
「はりぼてならばいくらでもくれてやるのに」
先人では無い身代わりなら誰でも差し出すと言っている。簡単に言ってのける。相手は皇族なのに容赦がない。真に、大王の影なのか?と考える時もある。そんな様子もすぐさま見透かされる。
「我らには我らの真があるのだ」
「そうですか」
昔から幾度も交わされる言葉。何を言う。遥か昔から我らは大王の影だというのに。
「決めたのなら仕方ない。無理なら連れて離れろ」
「勿論」
納得はしていないが、命には背くなと言う事だ。今は。話は終わりという事で立とうとするとふと声をかけられる。
「いつか、話す」
「はい」
この時いつも父は遠くを見るような目をする。我らの、真とはー
「そうか」
「はい」
一方こちらは大知屋敷。戻った先人がすぐに師匠・鋭に会い事情説明。鋭に関しては内情は青海の国の一件で力を貸してもらったからと宇茉皇子から許しがあり、基本は話しても良いことになっている。そしてこの反応。
「【影】になるのは勧めないが」
「【しのび】です」
「そうか」
気にかけているのはわかるが、反応が薄いなと思っていると、
「無理ならやめろ」
暗に同じと言われている。瀧と同じ反応だ。
「成し遂げたいのです」
真剣に言葉を発する。一を話せば百、それ以上わかる人だ。だからこそ、力を籠める。
「大連になるためか?」
「それだけではありません。【影】を【しのび】にしたいのです」
「きれいごとだな」
「勿論、国を安定させなければ出来ません。次に繋げるための礎と成りたいのです」
鋭にじっと見つめられる。しっかりと見つめ返す。しばらくして、
「なら、やってみろ」
「ありがとうございます」
「私に礼を言わなくていい一度言ったことは取り消せない。将たるものは尚更だ。―覚悟はあるか」
真剣な目で見つめられる。いずれ私も将になることをわかっておられる。だからー
「―はい」
「なら、いい。やってみろ」
すっと立ち上がる。
「どちらへ?」
「少しな」
とさっさと行ってしまう。着いてこなくていいと言う事で、その日はゆっくり休んだ。
…暗い。暗い場所にいる。明かりだ。誰かいる。幼い子と、年老いた人。あの人はー
「先人、どこに付ける?」
「曽祖父様と同じ処が良いです」
「それは痛いからやめておけ。それに、今は駄目だ」
「今付けるのでは?」
「そうでは無い。まだ知られる訳にはいかない。先人」
「はい」
「そなたの才も、この事も、まだ知られてはならない」
「隠すのですか」
「そうだ。来たる日のために」
「それは?」
「その時が来ればわかる」
「わかりました」
「先人」
「はい」
「すべて背負わせてすまぬ」
「自分で決めたのです」
「…。先人、これだけは忘れるな。そなたがそなたである限り、私はそなたと共に在る」
「真ですか?」
「真だ。必ず守る。それだけは、忘れるな」
「はい」
「…曽祖父様」
朝、目が覚める。左腕が、疼いていた。
「顔が悪いな」
翌日瀧と共に宮中へ出仕。宇茉皇子の処へ道すがらいつものようにからかう瀧。
「それを言うなら顔色だろう」
むっとして言い返すと笑う瀧。
「変な夢でも見たか?」
「曽祖父様の夢を見た」
「…へー」
思い出し嬉しくなる先人に対し途端にどうでもよさげな返事をする瀧。
「やはり美しい人だった。誠実で、優しくて、それにー」
「それ以上はやめておけ」
言葉を途中で切る瀧。どうでもいいという対応はいつもの事だが…と思いながらはっとする。離れているとは言え、辺りに人がいるのだ。
「…ごめん」
「お前の事はわかっている。俺にはどうでもいいがここ(*宮中)では駄目だ」
そうだ。真がどうであれ、曽祖父・大知光村は罪人なのだ。それは大王が決めた事。肩を落とすと背中を軽く叩かれる。
「ま、今は誰も聞いていないようだし次は無いぞ」
「わかっている。ありがとう」
歩みを早くし、宇茉皇子の処に向かう。瀧が少し歩調を抑え、少し後ろになると
「…そんないい男でもないだろ」
冷たくぽつりとつぶやく。先に歩く先人が何か声を感じ振り向く。
「どうした?」
「何でも。行こうぜ」
冷たい様子も無く飄々に受け流す瀧が歩調を戻し共に歩く。




