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和乃国伝  作者: 小春
第三章 くにのかなめ
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七.解決と鋭の忠心

話は戻り、現在・青海の国・洞窟


 頭の男は未だ嘘だと叫んでいる。―本当に影なのかと疑いたくなる。と三人共思う。

 瀧は話を続ける。


「お前らの主の上がどうとでもしてくれと、いや、自ら出ちゃったかな」


 からかうように話す瀧に睨みつける頭目。鋭が静かに相手を見据える。


「もう終わりだ。降参しろ」


 俯き、うなだれたかと思ったら、懐から暗器を取り放つ。瞬時に避けるがその際一瞬で空気が変わり、残りの影も動き出す。


「まだだ。お前らを始末し罪をかぶってもらう」


 攻撃を避けながら、瀧が笑い出す。


「ごまかせると思ってるんだ。皇族からの使者が賊になるとでも?」

「駄目だぞ。その言い方は。どうしようも無くて必死なのだから」


 真面目に返す先人に影達は怒りに震える。瀧は笑っている。鋭はため息を付く。


「影も質が落ちたものだ」


 しみじみ言う。それが更に怒りを買い、


「黙れ。只の渡来人がー」


 嘲ようとすると突然、空気が凍る。先程の空気とは一変する。


「来い」


 鋭の一言で頭の男は襲いかかるが、他の影達は逃げだす。勝てるわけがない、確信したのだ。


「行け」


 鋭の一言に、先人と瀧が瞬時に追いかける。影達は早いが、影であったしかも衰えていない師に鍛えられた二人も負けてはいない。先に走る影達。隣の肩に毎刀が刺さる。


「なっ…」


 次々と打たれる。影らはすれすれでかわすが、暗器の中でも扱いが難しいとされる毎刀を自在に使う若者に驚き、立ち止まってしまう。


「逃がしませんよ」


 薄く笑い影達を見据えている。打ったのは瀧だ。ちなみに先人も打ったが当たらずもう腰に差していた鉄剣を出す。やはりこちらが馴染む。瀧が耳打ちする。


「後方から支援する。お前は前へ出ろ」


 先人は頷く。影達が動き出す。剣で暗器を打ち払い前へ出る。鋭の教えを思い出す。


『毎刀は後方からの攻撃に適しているが、薄いので距離があれば定まりにくい。相手を見ろ。軌道を読め。そして前へ出ろ。けして、恐れるな』


 影らから次々打たれる毎刀を剣で捌き、あるいは避け剣で切りかかる。後ろからも毎刀で敵を打っていく。瀧である。それを実践中に感じながら『距離があっても当たってますよ師匠』と友の器用さに複雑に思いつつ、自身も剣を握り直す。


 影から放たれようとしている毎刀の軌道を読み、瞬時に相手に潜り込み、切る。それに驚いた仲間の影も一瞬の隙を付き、切る。後方から打たれた影はすでに倒れている。すべて死なない程度に動けなくさせている。生け捕りが目的なのだ。


「片付いたな」


 事も無げに瀧が言う。


「暗器でよく動けなく出来たな?」


 先人が感心しように言う。鋭角だが軽く薄いので相手を制圧するのに向いていない、精々一瞬の油断を誘うためと考えていた。


「薬塗ったし」


 しれっと答える瀧に驚いて見つめると苦笑いし、


「服織氏特製のしびれ薬。危なくないし…ちょっと強いけど」

「抜かりないな、瀧は」


 先人に切られて意識が朦朧としている者と瀧の攻撃(というか薬)で完全に気絶している者らを見て苦笑いする。ふいに洞窟の方向を向き、


「後はー」


 鋭を思う。



 鋭と影の頭目は洞窟から出、森の中で戦っていた。相当な切り合いになるかと思いきやほぼ終わっていた。頭目の腕から血が流れている。


「何故だ。何故だ何故だ。それ程の腕がありながら何故弱き氏族に付く」


 屈辱で睨みつける頭目に目もくれず、暗器を軽く持ちながら


「…成り行きだ」


 言葉少なく答える鋭。一瞬黙り頭目が睨むのを止め、語り掛ける。


「お前は、影だろう」


 一瞬ぴくっと反応するがすぐにおさめ、静かに頭目を見つめる。頭目は続ける。


「どこの国だ?止めたのか?今更、表に戻れると思うか」


 ただ静かに見つめる鋭に更に続ける。


「我らに付け。お前の連れ二人に罪を押し付ければいい。私と来い。あの方の処へー」


 熱く語る頭目に冷めた目を向け


「…くだらん」


 一言で拒絶し、最後の攻撃を仕掛けようとすると、


「どうせ元の主に捨てられたんだろ?ならばー」


 瞬時に空気が凍り、一瞬で体を押さえつけられ、足を切られる。一瞬である。頭目は何が起こったのかわからないまま、血が落ちている。途端、叫ぶ。痛みに絶叫してる頭目を冷たい目で見つめる。


「命はとらん。主の元に帰してやる」


 言葉は先程の声よりも遥かに冷たく、恐ろしい。痛みと恐怖に震える頭目に目を向け、


「侮辱は許さん。我が主は一人だけだ」


 この世のものとは思えない静かで冷たい顔と声だった。

 気絶した頭目を縛り、様子を見に行こうとする鋭だったが、近くに気配を感じる。先人だ。


「師匠。ご無事ですか」

「ああ、お前は―大丈夫そうだな。瀧は?」


 他の影達の力量不足はわかっていたが、何が起こるかわからないと考えていた鋭は杞憂であったとほっとする。


「瀧は先に御記氏に報告を。影達は拘束して動けなくしてあります」

「そうか、何よりだ」


 弟子の上々の出来に息をつくと、突然先人が礼をする。


「師匠、ありがとうございました」


 一瞬目を向くが、言いたいことを察する。


「いや、見事だった。そなたの策は」

「親しき敵は分裂を狙う。教えてもらった事です」


 先人の言葉に頷き、


「逃げ出す敵から情報を聞き出し、説得。ひそかに同郷の者らを説得させ抱き込み洞窟の暗がりと気配の消し方を教え、一人ずつ逃げ出させる。説得に応じない同郷の者らも出るだろうが、数は減らせる」


 鋭の言葉に頷く先人。


「人質達さえ助けられれば戦意を無くします」

「後は、からくりを話し完全に抱き込むことで、影のみをあぶりだす」

「はい」

「見事だ」


 鋭の言葉に嬉しそうな顔の先人。しかし、ふっと哀しそうになる。


「恐ろしいか。影は」


 先人の心情を察した鋭が声をかける。鋭に目を向け、首を振る。


「いえ、主のために考えを巡らせ手を汚す者達。表にいる我らと何が違うのです」


 驚きて目を見開く鋭。


「いずれ、私もそうなります。将として立ち、影と呼ばれる者達を使う。その際、手を汚さなければならない時が来るでしょう。それは、影の罪ではない、私の罪として引き受けるべき事です」

「…」

「けれど、消す以外で何か方法は無いものかと考えます。すべてきれいに終わらせる事など出来無い。政ならば尚更。しかし、考えを巡らせれば少なく出来るのでは…と。甘いでしょうか」


 現実を直視し、けれども諦めたくないという強い意志を感じた鋭は少し考え、


「甘い。けれどな、将たるもの、情も無ければならぬ。そうでなければ人は着いてこない。国は、人が集まってこそなのだ」

「はい」


 師の教えを聞き漏らすことなく聞き入る先人。


「忘れるな。どれだけ上に行こうとも思慮深く、情を持ち、しかしそれに溺れるな」

「はい」


 先人の問いに否定も肯定もすることなく只教えを諭す鋭。情に溺れて考えを持つな、けれど情が無ければ誰も着いてこない。己で答えを見つけろ、という事なのだ。


「あの方も、お前と同じ事を言っていた」


 思わず、出たという感じで鋭が言い、すぐに黙り込む。ここに至るまで何があったかは知らない。しかし、優しく、哀しく、こいしがっている声だった。


『聞いてくれ、鋭。若様からまた難しい仕事を押し付けられた』

『策を巡らせれば犠牲も少ない。私が出来る事は何でもやる。頭を使うのはそなただ』

『私は、私が正しいと思う事をそなたらにさせる。私の代わりに手を汚すのなら私が正しいと思った事しかさせない。でも、これは、』

『みっともなく情けない主ですまない。鋭』


(貴方様は、みっともなく情けない主ではありません。誰よりも優しく、強い方だ)


 その内に瀧の気配を感じる。御記氏の兵を連れてきたのだ。鋭と先人は共に影を引き渡すため歩き出す。


 捕縛した影達を御記氏の兵に渡す。その後、御記氏屋敷に戻り、調査、状況まとめ、当主に報告と慌ただしく動き、夜が明けた。影が捕まったと聞いた生き残りの兵は涙を流して喜び、それから間もなく息を引き取ったと聞いた。それだけのために生きていたようで、悲しく辛かった。


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