一.指令
第三章が始まります。よろしくお願いします。
この話の次からは週二回で水・土曜日の予定です。
「先人、瀧。青海へ行け」
宇茉皇子の元で仕える事となり、初出仕をするなり唐突に命を下された。
話は朝にさかのぼる
前日、宇茉皇子への出仕の件で暴れた巌が朝になり、先人に声をかける。
「昨日言い忘れていた。宇茉皇子様から出仕後、しばらく預かるから準備をしておくようにとも言われていた。そのように」
と、落ち着いたかと思えば若干ふてくされたような罰の悪そうな顔で言ってきた。まだ少し思う処があるらしい。が、しっかり伝えてくれるのは生来の真面目さか。とにかく、瀧と合流し宮中へ。
宇茉皇子は宮中に特定の仕事部屋はあるそうだが、基本各部署に顔を出して手伝っているので使うことも少ない。禁止さえされてなければどこでも入れるし、使っても良いとされている。仕事によりけりでどこにでもいるので、探すのも一苦労である。
宮中に着くと前に宇茉皇子様の処に連れて行ってくれた護衛が待っていた。こちらを見てすぐに背を向け、歩き出す。来いということだろう。その背に付いて行きながら
(…そういえば名を聞いていなかったな)
と先人は思う。なので、
「あの」
背に向かって話しかける。背の主は振り向き
「…何か?」
素っ気ないが、前よりは悪意を向けられていないなと先人は不思議に思うが、問いかけてみる。
「ご存知でしょうが、私は大知先人です。共に仕える身、よろしくお願いします。あなたの名は?」
「…」
先人の挨拶に驚きつつ(*通常高位貴族から下の者に挨拶はしない)、黙り込む。瀧も黙っている。良く分からない空気に困惑しつつ護衛の返事を待つ先人。
「私は」
「服織瀧、大知先人、参りました」
護衛が口を開こうとするのを遮っていつの間にか辿り着いていた部屋の前で瀧が大声で部屋の主に伝える。
「入れ」
宇茉皇子の招く声が聞こえ、瀧に背中を軽く叩かれ部屋に入る。背の主も入る。わざと遮ったようにも感じられ、先人は困惑するがまた後で聞こうと思い直す。
宇茉皇子は、皇族専用の書庫の椅子に座りながら色々な書物、報告書などの巻物を読んでいる。顔を上げ、
「よく来た。早速だが先人、瀧、青海へ行け」
…というのが最初のくだりである。
「「は?」」
二人してぽかんとしているが宇茉皇子は気にせず話を続ける。
「青海の国の御記氏当主には書状を送ってある」
「…恐れながら、何のために?」
瀧が冷たい声で問いかける。何故冷たくなるのかは置いといても、五大氏族筆頭・御記氏の治める青海の国に行けとは、と意図を問いたくなるのもわかる。ので、話を聞く先人。
「船を作ってもらいたいのだ。大陸に行く、頑丈な船を」
「成程。青海の湖から波流の港、そこから海に出て大陸へ、ですか」
*大陸とは、和乃国の言い回しで、三国と等の国をまとめてそう呼んでいる。
*波流は青海の国の隣の港のある国。
「表立っては物資輸送の船を追加でつくる、と書状には記したが、御記氏当主にはそう伝えてくれ」
意図は分からないが、話は分かったので先人は頷き、話を進める。
「青海の国へ使者として行け、という事ですね。しかし、最初からそのように命を下せば」
「私が?」
その言葉に先人ははっとする。後見がいないというか黙認されているだけという状態で他氏族に命は下せない、その内情を察せ無かったと反省する。船をつくらせる事については知られているだろうに何も言われていない事は綜大臣の黙認を意味しているのだろう。目的は知られていないから使者なのだ。
「…申し訳ありません」
「何せ色々と弱い立場だ。それに今、目を付けられる訳にはいかぬ」
「しかし何故?交易ならば三国だけでも充分」
瀧が問う。
「先々に必要になる。早めに声を掛け、いざという時に即座に動かせるようにしたい」
「…意図は?」
「話す必要が?」
空気が凍る。宇茉皇子は平然とし、瀧は冷たく見据えている。その様子に困惑しながら意図を考える先人と、瀧の態度に怒りを覚えるが黙っている護衛。
「命じられるまま動けと?我らは【連】(高位貴族)の子。駒ならば他に適役がいると思いますが。なあ?」
ちらっと挑発するように護衛を見る。
「お前、」
「拝命仕りました」
護衛が何か言う前に先人が返答する。全員、先人を見る。
「ほう」
「先人?」
感心したように見つめる宇茉皇子と驚く瀧。先人は礼を解き、顔を上げる。
「準備がありますのでこれで。期日は?」
「十日程だ。遅れるなら他の者にまかせる」
「船の数は?」
「四隻は欲しい」
「わかりました。では。行くぞ、瀧」
簡単に打ち合わせ?をして書庫を出ていく先人と瀧。もう少し粘られるかと思っていた宇茉皇子はぽかんとして扉を見つめる。やがて、少し笑い、
「成程」
「何がですか?」
先程仕事を押し付けられようとしていた護衛もとい陳荻君は急展開に着いていけない。
「わかったらしい。こちらの意図を」
「…まさか」
宇茉皇子と服織との応酬に口を出さず見てるだけだと思っていたので信じられないという表情をする。
「あの者は、取りこぼす事は無い。前に言っただろう。本質を見抜く力があると」
「…嬉しそうですね」
「ああ」
少し笑って遠くを見る。
宮中を瀧に案内してもらい(まだ慣れていないため)一緒に出て、大知屋敷に戻る道中の先人と瀧。
「何で?」
共に早足で歩きながら疑問を呈する瀧に
「宇茉皇子様は大陸までとおっしゃった。狙いは三国では無い。恐らく」
宇茉皇子様の意図について考えを示そうとし、ひとつ言葉を区切るとすかさず瀧が話を挟む。
「等の国、それはわかる。しかし、何のために?」
「師匠ならわかるかもしれない。聞いてみようと思う」
「内情は聞かないんじゃなかったのか?」
最初の約束について指摘する瀧に先人は頷く。
「うん。だから話せる範囲だけ聞く。それも無理だったら…考える」
「そこは考えてなかったのかよ。…仕方ねーな。付き合うぜ」
諭いのか抜けているのかわからない友に笑い、付いて行く瀧。
第二章での皇族の関係性は後日まとめたものを入れたいと思います。




