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和乃国伝  作者: 小春
第二章 であい
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六.大知氏会議

それから後、夜も更け始めた。離れを辞し、瀧も帰ったと同時に


「先人―――――!」


 大知当主が屋敷中、何なら外にも聞こえかねない響き渡る大声で息子の名を呼んでいる。…これは相当怒り狂っているなと先人は内心頭を抱える。


 巌の前に姿を見せるとすぐに引っ張られ部屋に放り込まれる。後から慌てて追いかけてきた叔父・佐手彦とあらあらと言いのほほんと入ってくる伯母・咲(今日は嫁ぎ先に帰ってなかった)。巌の部屋で大知氏嫡流が一堂に会している。


「どういう事だ」


 巌が怒りを抑えながら先人に問う。


「お話がありましたか」


 巌の言葉に先人は恐る恐ると答える。巌は目が血走り、咲は様子を伺い、佐手彦は兄に若干脅えている。空気が重い。しばらく無言状態が続き、それに痺れを切らした咲が問う。


「何があったの?」

「…宇茉皇子様から直々に話が来ました。先人を側に置くと」


 咲は苦々しそうに話す巌から先人に目を向ける。


「…そうなの?」

「はい。今日お誘いがありました」


 咲の言葉に頷く先人。更に怒りを押し殺しながら巌は訊ねる。


「何があった。」


 その空気を察し、頭を下げながら話し始める。


「実は」


・・・事情説明中


 すべてを聞き終えた時、突然巌が立ち上がり、


「お前は阿呆か。よりによって、よりによってーーーーーーーーーーー」


 帰ってきたときよりも遥かに大きな怒号が大知屋敷を響かせた。咲はのほほんと見つめ、佐手彦は怖がり手も口も出せない。怒りのあまり先人(息子)の胸倉を掴み同じ目線まで持ち上げる。目を血走らせながら


「阿呆な選択を」

「阿呆ではありません。あの御方は」

「兄上お止めください」


 巌(父)と先人(子)の言い争いにやっと体が動いた佐手彦(叔父)が止めに入る。大混乱である。その時


「よろしいのでは?」


 一人、のほほんと見ていた咲が言葉を上げる。いつもの調子ではなく、総領姫としての芯のある声だ。その声に男三人黙り込む。巌は先人を離し、咲に向かい、話す。


「何を、何を言っておられるのですか姉上。あの皇子の祖母は」


 言わんとする事を察しつつ、ため息をつきながら話を被せる。


「あのねえ、そんなのどの皇族にも入っているでしょう。今更、綜氏の血が入ってない優秀な皇族を見つけて大王にするの?今の宮中でそんなことが出来るの?」


 ぐっと言葉に詰まる巌を見て、咲は更にため息をつく。佐手彦は首を何度も縦に振る。

*綜氏の娘達は大王あるいは皇族と婚姻している。


「ですが、あの皇子は後継には、」


 なおも追いすがる巌に咲は追い打ちをかける。


「ならずとも功績はあります。五年前の陳氏族との戦では?」

「…功を挙げていました」


 しぶしぶ頷く様子の巌に、咲は少し落ち着いたと感じ優しく微笑みかける。


「大知氏は力を失い、内政から遠ざけられている。皇族と近付けるだけでも良いことではないの?」


 かつて大知光村が失脚し、その後苦難を強いられた経験から学び、強くなった総領姫は冷静に言い放つ。


「しかし、あの皇子は文武に長けてはおられるが何を考えておるのかわかりかねます。得体が知れません」


 警戒している巌を見、少し考える咲。


「人の上に立つ者の器では?大王にはならずともその器あれば上へ行けます。先人が側にいればいずれ恩恵を与えてもらえるやも…。そして力を付け、再興も…」


 宇茉皇子本人を評価しつつ、大知氏の事を考え、冷静に判断し言葉をかける。やはり氏族の長たる器を感じる咲に見習わねば、と感じ入る先人である。


 巌は姉であり総領姫の言葉に、しばらくうなっていたがもう一つの懸念を話す。


「話はわかります。姉上。しかし、皇族は特に我ら大知氏を遠ざけている存在。何かの罠かも」

「皇族だろうと貴族だろうと同じです。罠にかからないように注意するだけ」


 巌の懸念をすぐに切り、続けて、


「あなたもいます。佐手彦も将軍の名において守るでしょう。そうではないの?」


 巌を見つめ、すぐに佐手彦にも振り向く。これまで黙って見ていた佐手彦は慌てて


「そうです。その通りです。いざという時は離れさせます。守ります。どんなことをしても。それに」


 巌に向かい力強く言葉を向ける。続けて、


「兄上には申し訳ないが、私も姉上に同意です。先の戦を見て思いました。あの皇子様には才がある。私は、そう思います」

 

 兄を恐れる心を抑え、正直に話す。


「姉上…佐手彦…―――――――先人」


 姉と弟に諭され、苦々しい声を出しつつ、息子に声をかける巌。先人はじっと真剣な目をして父と向かい合う。


「はい」

「何かあればつぶさに報告しろ。くれぐれも大知氏の名を貶める事はするな」

「はい。必ず」


 冷静さを取り戻した巌の声にほっとしつつ、真剣に答える。


「先人。あの皇子はそなたの信に値したのか」

「はい」

「ならば、良い。…まあ、あの皇子を通じて他の皇族共に接触出来れば、あの御方などたやすくー」


 巌は昏い目になり、ぶつぶつと言い始める。先人はその姿に哀しみを感じて見ていると肩に手を置かれる。咲と佐手彦が小さく「もういいから行きなさい」「もういいから行け」とそれぞれ言い、それに頷き一礼をして部屋を辞す。


 大知氏族は咲と佐手彦以外、昏く淀んだ目をしている。とても哀しい目だ。


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