三十.姉妹の絆
これにて第九章は終わりです。ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
後日、鋼の鍛冶場にて、裁きが終わった了が戻って来た。間者と取引はしていたが操られていた、結局何も取っていない、間者を捕まえるのに協力したなど、色々考慮され戻って来たのだ。鋼が笑いかける。
「良かったな。了さん」
「ありがとうございます。若、先人様、瀧様」
了が礼を言うと鋼は頷き、先人と瀧も笑う。
「いいえ。罪が許され、良かったです」
「薬を使われた事と協力した事が大きかったな」
「はい。ですが、鍛冶場は別になります」
残念そうに言う了。理由はどうであれ宮中御用達で働くには、と上で言われ、別に移る事になったのだ。
「あっちも良い人が多いし、話は通してあるって頭が。俺も時々覗くし」
「ありがとうございます」
「ご家族の病は大丈夫でしたか?」
先人が気にしていた事を聞くと了は笑い、
「はい。頭が伝手から頼んで下さって、無事に」
「それは良かったです」
先人が安心すると、瀧が頷く。
「うん。今後は変な事しないでね」
「当たり前です」
皆、笑い合う。何事も無く、平和を噛み締めながら。
だが、宮中の奥では
「姉上。力をお貸しください」
壮年の品が良く、聡明そうな女性が頭を下げている。向かい合っている姉と呼ばれた同じく品の良い穏やかな空気をまとう女性は目の前の妹を優しく見つめる。
「頭を上げなさい」
「姉上」
頭を上げずにいると姉と呼ばれた女性はそのまま答える。
「私は決めています。大王はあの子、太子は、宇茉皇子」
その言葉に涙をこらえながら妹は声を出す。
「申し訳ありません。姉上」
「守れずごめんなさい。ずっと。もう、奪わせない。皇太夫人になりました。二人の。もう、誰も抑えられない」
「姉上」
「もう奪わせない。必ず守ります。貴方の血も、貴方も」
「はい」
妹を支えながら遠くを見る目をする姉。
「入内した時から、いえ、生まれた時からわかっていました。私達は氏族のために生きるのだと。けれど、やり過ぎた。…赦せない」
「…はい。決して、赦さない。茉子!」
声を振り絞り叫ぶこの女性。綜大臣に三人の子を奪われ、娘の子である宇茉皇子を危うくさせられた綜大臣の二番目の姉。二の方である。
そしてそれを支える姉。綜大臣の長姉・一の方。月大王と女大王の母にして長之皇子の祖母である。
〔青海の国〕
「皆様、集まりましたね」
全員頷く。
「話をしましょう。これから先の」
次回十章からまた大きく話が動き始めます。大知氏の隠された歴史と、光村の思い、先人の決断とまた大きく動いて行きます。よければまた読んで頂ければと思います。
第十章開始は来週は無しで、その次から水・土曜日の更新でいこうと思っています。よろしくお願いします。




