二十七.味氏会議
〔現在・味の国〕
〝 陳新鹿と容貌酷似せり 〟
文を読み、皆黙り込んでいたが、最帆が考えながら声を出す。
「父上。先人様の仕えている皇子の元に陳氏当主が居る。ですが元を正せばあの男の分流に過ぎない。氏族としてももう滅んでいる。だから放って置くと言うことで五大氏族の皆様は一致なさっていたと心得ています」
以前青海の国で集まった時の話は最帆も聞いている。それを言えば、溌も航も頷く。
「ああ。事が事だ。再興も難しい。ならば皇族に守られ静かに生きればいいと。だが、その皇族は皇子。それも先人様を側に仕えさせた。と言う事は、狙いは我らだろう」
「最初に陳氏に行ったのは内情を知らなかったからだろうな。五大氏族の始まりの大連なら、慕われていた陳氏にと思ったんだろう」
溌が淡々と話し、航がため息を付く。
「浅はかな事ですね。内情を分かって無くても壊した男と立て直した御方では天と地程の差があると言うのに」
言いながら最帆もため息を付く。
「力で押さえつけたと思っていたのだろうな。そんなもの、微塵も無かったと言うのに。…光村様を侮辱している」
溌が内心の怒りを抑えながら話し、最帆が考え込む。
「同じ主君に仕えるとは。しかも、陳当主を常に側に置き、寵があるようで」
「ふーん。会った事も無いけどそんなにいい男なの?」
航が何とも無しに聞くと溌が睨み付ける。
「は?まったく。目が強く、口が悪く、人の心にずかずか入り込んで破壊する。どこが良いんだかまったくわからん」
「いえ。今は分流の話」
溌の言葉に冷静に諭す最帆。航は少し考えながら話す。
「顔は似ているけど目立ってはいない。なら才は無いのだろう?」
「わからん。徹底して護衛らしい。皇子に張り付いて離れんし、奥にも入れるようだ」
*味の国の影と服織情報
溌は息を付きながら首を横に振る。
「着々と人脈と力を得ているようですね。油断は出来無い」
「皇子もそっちに信を置いていると言う事だろう。なら先人様は」
「皇子、分流、綜大臣、大知氏…同じだな。かつてと」
最帆、溌、航の順で考えを話す。皆思いは一つ。
「祖父様。そういえば御記様が青海に来るように伝えてくれと言っていた。この事か」
「そうなのですか?早く言いなさい」
「…だろうな。今後の事を話すのだろう。衡士様の文も届いているだろうし。しかし、宗殿も熟練様も隠していたな。この事を。以前兵を出した時、都で会ったと言っていただけ。まったく」
隠していた事に対し腹立たしく思っている溌に対し、最帆は冷静に見ている。
「父上や他の方々の事を考えられたのでは?あの時知っていたらどうしていました?」
「 …狂って都に行って、斬っていたな」
「はあ。そうでしょうね。先人様に感謝しなければ」
父の行動を大体予測できる最帆は呆れたようにため息を付くが、内心はほっとしている。五年前は気持ちがわかるから覚悟したが、今回はそうはいかない。主がいるのだ。都に。
その息子の様子で察した溌が、話は終わりと立ち上がる。
「うん。そうだな。行ってくる。後は任せた。ああ、航」
「うん?」
話は終わりと思っていた航が不思議そうに溌を見る。溌は笑顔になる。
「出仕は、出来るな? 」
「今更? 」
「うん。確認だ。場合によってはすぐだ。行けるか? 」
「勿論」
すぐならすぐかと察しを付ける航があっさりと頷く。とっくに決めている事。今更なんだと言う顔をする孫に溌は笑みを深める。
「海は無いしつまらんぞ」
「主が居ればそれでいい。祖父様もそうだろう? 」
「うん。そうだな。最帆、いいか?」
溌に目を向けられ、これもあっさり頷く最帆。
「主のためですから。準備をしておきます」
「うん。頼む」
「気を付けて」
「出仕は俺が先だからな」
〔青海の国・道中〕
青海の国から都に戻る道中の先人、瀧、鋼である。三人、何とも無しに話をしながら歩いていると、鋼が先人を労う。
「何とか終わったな。大丈夫か。先人」
「鋼。うん。大丈夫」
先人は笑って答える。鋼の言葉は、傷だけで無く、先の事も言っている。すべてわからずとも受け入れ、今を大切にしてくれる。それに先人は救われているのだ。それをわかっているのかいないのか、鋼は更に労う。
「五大氏族を相手に良くやっているよ。お前は。なあ、瀧」
「ああ」
話を振られた瀧は頷く。先人は、笑っていた顔が変わり、少し哀し気に鋼を見る。
「鋼、ごめん。色々な事が、」
「わかっているよ。お前が話す時が知る時だ。変わらない。何も」
「鋼」
平然と言ってのける鋼。笑顔で。先人は泣きそうになるが、鋼は気にするなと言った風に首を横に振る。
「味の前当主様にも言ったろ?ずっと友で居たいって。だからそれでいい」
「ありがとう。鋼」
「おお」
「すげーわ。お前」
鋼の言葉に素で感嘆の声を出す瀧に笑いかける鋼。
「おお。ありがとな。しかし、次から次へと慌ただしかったな。帰り」
「うん。皆様子がおかしかった。何だろう?」
宗もそうだが、航も来たばかりですぐに帰る事になった。それについて考え込む先人に瀧が声を掛ける。
「まあ、必要なら後で何か言ってくるだろう。考えすぎるな」
「うん」
素直に頷く先人を見ながら鋼は思い出したように話す。
「しかし、すごかったな。あっち(味の国)もだけど光村様。本当に色々されていたんだな。宮中で政をして、反乱を起こした国の立て直し、忙しすぎるな。いつ休んでいたんだ? 」
「うん。曽祖父様はすごい。本当に」
更に深く頷く先人。光村の事になれば何かが切り替わるのである。それを苦笑いしながら見つめる瀧。
「大連になるにはそれくらいこなさないといけないぞ。出来るのか?」
「やる。必ず成し遂げる」
「何か力になれる事あれば言えよ。光村様は規格外だってじーさん(祖父)が言っていたし。真似したら倒れるぞ」
代々宮中御用達である航の家は、将軍氏族である大知氏と関係が深い。光村もそうである。
「うん。そうだな。ありがとう」
「いいって事。瀧も、しっかり支えろよ。お前が一番近くに居るんだから」
「わかっているよ」
「ありがとう。瀧」
「仕方ねーな。お前は」
幼馴染三人、話をしながら都に戻るのである。




