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1.マンホールから異世界へ!

 俺、田中大樹。23歳、社会人。

 独身で、もちろん彼女もいない。

 まあ、容姿は普通ってとこかな。

 特にイケメンでもないけど、かと言って誰かに「キモい」とか言われるほどでもない。

 うん、たぶん、フツメン。

 趣味は漫画、アニメ、ゲーム。

 要するにオタクだな。

 休日はほぼ家で引きこもって、ネット配信やゲームに時間を溶かしてる。

 楽しいっちゃ楽しいけど、時々、このままでいいのかなって思うこともある。


 でもさ、仕事がつまんないんだよ。

 毎日同じことの繰り返し。

 俺は普通に言われたことはやってる。

 なのに、なんでこんなに怒られるんだよ。

 今日も課長に呼び出されてさ、また説教。

「田中、学生気分が抜けてないぞ」とか、「社会人としての自覚を持て」だの、言いたい放題だ。

 いや、言われた通りにはやってるし、俺なりに真面目に仕事してんのにさ。

「やり方が甘い」とか言われても、それ、具体的にどうしたらいいの?って感じだし。

 あー、ほんとウザい。

 大人しく言うこと聞いてりゃいいんだろ?何が悪いんだか。


 正直、会社に行くのがどんどん嫌になってきてる。

 朝起きてから、会社に着くまでの間、どうにかしてサボれないかとか、いろいろ考えちゃうんだよな。

 何か理由つけて休めないかな、とか。

 でも、結局サボる勇気もなくて、ズルズルと出社しちゃうのが俺の弱さだな。


 今日もそんな感じで、無駄に疲れて会社を出た。

 夜の帰り道をぼんやり歩きながら、スマホをいじってた。

 SNSで流れてくるアニメの情報とか、ゲームの最新ニュースを見て、現実逃避だ。

 こういう時間だけはちょっと楽しい。

 でも、なんか虚しいんだよな。

 帰っても一人だし、明日も同じことの繰り返しだろ?

 ふと立ち止まって、少し夜風を感じてみたけど、別に何かが変わるわけでもない。

 あー、早く家に帰ってゲームでもしよ。


 そんなことを考えてたその瞬間――

 突然、俺の足元がすっぽり消えた。


「えっ!?うわっ!!」


 一瞬、何が起きたかわからなかった。

 気づいた時には、俺は暗闇の中を落ちてた。

 スマホもどこかに吹っ飛んでるし、頭はぐるぐる回ってるし、パニックってやつだ。

 何これ、夢?現実?いや、所々ぶつけて痛いし夢じゃない。

 俺、どこに落ちたんだ?


 落ちる途中、ふと浮かんだのは、まさかの「走馬灯」ってやつ。

 自分の人生がスローモーションでよみがえる、って聞いたことあるけど、まさにそんな感じだった。

 子どもの頃とか、中学で部活サボってた頃とか、大学の時に飲み会でやらかしたこととか。

 いやいや、こんなところで思い出すことじゃないだろ!って自分にツッコミ入れながらも、暗闇の底にどんどん引きずり込まれていく感じ。


 その間にも俺は叫んでた。

「なんでマンホールが開いてんだよ!?」と。

 そう、マンホールだ。

 俺はどうやらマンホールの穴に落ちたっぽい。

 工事か何かしてたんだろうけど、ちゃんと蓋閉めろよな、マジで。


「ふざけんな、ありえねぇ……」


 もう半ば諦めながらも、まだ落ち続けてる。

 あー、このまま死ぬんじゃないか?とか、いや、こんな死に方はダサすぎるだろ、とか考えてたら……。


 ドボンッ。


 冷たい水の中に落ちた。

 冷たっ!って思う間もなく、鼻から水が入って、ゴホゴホむせる。

 全身がズブ濡れで、頭もクラクラするし、なんとか顔を上げて息を吸おうと必死だ。

 マンホールに落ちたってことは、ここって……下水!?

 最悪だ!


 いや、違う。

 なんか匂いがしないし、変に綺麗だぞ。

 下水ならもっと臭いだろうし、ヘドロとか浮いてるんじゃないのか?

 冷静になって立ち上がってみたら、膝くらいの浅い水たまりにいた。


「……池?」


 ぼんやり周りを見渡すと、そこはどうやら森の中みたいだ。

 木々が生い茂っていて、日光が水面に反射している。

 え、俺、いつの間にこんなところに来た?

 マンホールに落ちたはずなのに、なんで森の中の池に立ってんだよ!?


 頭が混乱する。

 現実なのか、夢なのか、区別がつかない。

 水に浸かってる足先は冷たくて、ふと頬をつねってみると痛い。

 だから夢じゃないんだろうけど、ありえない状況すぎて理解が追いつかない。


「あれ、もしかして……これ、異世界転移か?」


 俺の脳内である可能性が浮かんだ。

 漫画とかアニメでよくあるやつだ。

 普通の生活してた主人公が、突然、異世界に召喚される――まさにこれだ。

 だとしたら、俺、勇者とか選ばれし者とか、そういう特別な存在なんじゃないのか!?

 いや、確実にそうだろう!

 こんな現実逃避みたいな世界に飛ばされたってことは、俺にも何か特別な力が……。


「やべぇ……超テンション上がる!」


 俺は一気にオタクモードに突入した。

 だって、これ、ゲームとかアニメのテンプレ展開じゃん!

 俺、最強のステータスとか、チート能力持ってんじゃね?

 スキルとか魔法とか、もう全部使えるんだろうな!

 あー、勇者とか王様に祭り上げられて、ハーレムとか作っちゃうやつだ、これ。


 ウキウキしながら、スーツのポケットを確認してみるけど、スマホも財布も何もねぇ。

 あー、スーツ姿のままで、水に濡れて気持ち悪い。

 でもそんなことは今どうでもいい。

 とりあえず、異世界ってのを確認する必要がある。


「あれ、そういえば……こういう時、よく言うよな……」


 俺は声を出してみた。


「ステータスオープン!」


 すると、目の前に半透明の画面がバッと表示された。

 うわ、まんまゲームじゃん!

 俺は驚きと興奮で画面に目を凝らした。

 そこには、俺のステータスが表示されている。


 Lv 999

 HP 999

 MP 999

 力 999

 防御 999

 俊敏 999

 器用さ 999

 知力 999

 運 999


 スキル:言語翻訳


「うわっ……俺、最強じゃん!」


 あまりにも数字がぶっ飛んでて、思わず震えた。

 これ、俺無双できるやつだ。

 異世界転移ってやっぱ最高だな。

 スキルは一つだけ、「言語翻訳」って書かれてる。

 まあ、最初はこれくらいか。

 でも、これから冒険していけば新しいスキルもどんどん増えていくだろうし、なんかクエストとかやれば色々覚えられるはずだ。


「よーし、やってやるぞ!」


 俺はテンションマックスで森を抜けて人のいるところを目指すことにした。

 勇者として、俺の冒険が今、始まったんだ。


 森の中を歩きながら、俺はワクワクが止まらなかった。

 だって、異世界だよ?

 ゲームとかアニメの世界に自分が入っちゃったわけだ。

 こんな展開、オタクとしてはたまんないだろう。

 しかも、ステータスはカンストしてて最強。

 俺、どんだけチートキャラなんだよって話。


「いやー、これからどうなるんだろうなー」


 テンプレ通りなら、この森の中でモンスターが出てくるはずだし、ピンチになってる美少女とかがいて、俺が颯爽と助けるってパターンだよな。

 で、「あなたは私の命の恩人です!」とか言われちゃって、そこから仲間になるか、もしくは恋愛フラグが立つ……。


「うーん、最高」


 期待に胸を膨らませながら、周りを見渡すけど、なんか静かすぎないか?

 森の中って、もっとこう、モンスターとか獣とか出てくるもんだと思ってたけど、全然そんな気配がない。

 逆に不気味だな。

 おかしいな、異世界ならこう、スライムとかゴブリンとかが出てくるんじゃねぇの?

 チュートリアルの戦闘があるんじゃないの?


 結局、何も起こらずに森を抜ける。

 え、イベントなし?

 こんなに歩いたのに?

 足、めちゃくちゃ疲れてるんだけど。

 テンション下がりまくりだよ。

 ちょっと期待してたのに、いきなりガッカリだな。


「これなら最初からお城とかに転移させてくれよ……」


 ぼやきながら遠くを見ていると、やっと街らしきものが見えてきた。

 おお、やっぱり異世界だ!

 日本とはまったく違う雰囲気の城壁が見えて、そこにぎっしりと建物が密集してる。

 城門の外には雑多な市場っぽいのが広がってて、まさに中世ヨーロッパ風の街並みだ。


「よっしゃ、ついに来たぜ!異世界の街!」


 胸が高鳴る。

 これからは街での冒険が始まる。

 俺は意気揚々と歩を進めた。


 近づくと、街の雰囲気に圧倒される。

 異世界に来たってのが、ますます実感できる瞬間だ。

 街の外れにはスラム街っぽい場所が広がっていて、街の内側に行くほど綺麗な建物が並んでるっぽい。

 大通りでは、たくさんの人が行き交ってるけど、なんだかみんな日本人とは顔つきが違う。

 外国人顔なんだが、やけにみんな美形だ。

 女性は美人だし、男もイケメンが多い。

 よく見ると、尻尾が生えた獣人っぽい奴も歩いてて、あー、これはやっぱり異世界だなと改めて思う。


 マジでテンション上がる。

 異世界ならハーレムとか作っちゃうんじゃね?

 なんて邪なことも考えてちゃう。

 夢が広がるってもんだ。


 そんなことを考えつつ、街の中を観察して、歩きながら聞き耳を立てる。

 なんて話してるか言葉が聞き取れた。

 ステータスにあった「言語翻訳」のスキルのおかげだろう。

 異世界の人たちの言葉が自然に理解できるのは助かるな。

 もしかしてスキルレベルが上がったら、魔物とか異種族ともこれでコミュニケーション取れるんじゃね?

 この世界初のテイマーになっちゃったりして......。

 と、俺はスキルのポテンシャルに期待しまくってた。


「さて、この街でまずは何しようかな?」


 俺は街の中心を目指しながら、適当に歩き続ける。

 なんだかんだで観光旅行してるみたいだ。

 異世界は最高だな。


 歩いていると、まず目に飛び込んできたのは、でかい城壁と、その周りにひしめき合う雑多な建物たち。

 まさに中世ファンタジーっぽい雰囲気で、ワクワクが止まらない。

 道端では、怪しいおっさんが何か売ってるし、子どもたちが走り回ってるし、ちょっとした市場みたいになってる。


「よっしゃ、ここから俺の異世界生活が本格スタートだ!」


 そんなことを考えながら、いざ城門を通ろうとすると、門番が無表情で俺を止める。


「身分証の提示を求める」


 身分証?そんなもん持ってねぇよ、異世界に来たばっかだし。とりあえず適当にごまかすか。


「いやー、すいません、なくしちゃって……」


 門番は俺をじろっと見て、露骨に不機嫌そうな顔になる。

 そして、バカにするような口調で言いやがった。


「貴様、貧民か?どこから来たかもわからん奴は、この街には入れん。さっさと消えろ」


 ……は?


 なにこいつ、超失礼なんだけど。

 俺、最強ステータスなんだぞ?

 知らないからって偉そうに言いやがって、後で俺の力を知って泣きついてくるのが目に見えてるな。

 だけど、ここで暴れるわけにはいかない。

 異世界転移して最初に犯罪者になるのはさすがに面倒すぎる。

 いや、あえて暴れることで偉い奴に見つかるのもありか?


「まあいいや。後で吠え面かくなよ」


 俺は心の中で愚痴をこぼしながら、その場を後にする。


 でも、問題が一つ……。


「やべ、金がねぇ」


 異世界の金なんか持ってるわけがない。

 でも、ちょっと濡れてるとはいえ、俺のこのスーツ、異世界では珍しい服だろうし、いい値で売れるんじゃね?

 それを売って金にして、なんか適当な服でも買えば、この世界のモブみたいに目立たないだろう。

 とりあえず服屋を探さなきゃな。


 道行く女性に声をかけてみた。

 目の前にいたのは、まあまあ可愛い女の子だ。


「あの、すいません。服を買い取ってくれる店ってどこですか?」


 俺はちょっとだけ期待する。

 異世界の女の子って、なんか出会った瞬間から恋に落ちて「あなたが運命の人です!」みたいな展開になることが多いんじゃないか?


 ……なんて思ってたけど、その女の子、俺の顔を見た瞬間、ちょっと引いた目で店の場所を教えてくれた。


「……あっちの方にありますよ」


 うん、現実はそんなに甘くないな。

 まぁ、この世界の住人からしたら俺の恰好は変だしな。

 なんかイベントでも起きねぇかなーなんて思いつつ、教えてもらった店に向かった。


 店に入ると、あれ、何でも屋みたいな感じだな。

 服から雑貨までいろいろ並んでるけど、ちょっと汚れた感じがする。

 カウンターにいるのは、まさかの無愛想なおっさん。

 こういうイベントって、普通は美人の店員とかが出てくるもんだろ?

 なんでオッサンなんだよ。


「この服、買ってくれますか?」


 俺はスーツの上着を差し出す。おっさんはそれを一瞥して、指を三本立てた。


「こんくらいだな」


 え、三本?3って何?銀貨か銅貨か?全然意味がわからん。

 探りを入れるために俺は聞いてみる。


「この辺の宿って、どのくらいで泊まれます?」


 おっさんは「1銀だ」と面倒くさそうに答える。

 ってことは、このスーツは3銀ってことか!

 まあまあいいじゃん。

 俺は店の中にかかってる適当な服を指差して


「じゃあ、この服いくら?」


 って聞いてみたら、おっさんは「1銅だ」とそっけなく答えた。


 え、安っ!


 俺は脱力しながらも、その安い服を買うことにした。

 オッサンにスーツを渡して、俺はパンツ一枚になって服を着替える。

 そして着替えたスーツの上下とシャツをおっさんに渡す。

 異世界初日でおっさんの前でいきなりパンツ姿とか、想定外すぎるだろ。


 おっさんは嫌な顔をしながらも、銅っぽいコインを五枚渡してきた。

 は?5銅?

 さっき上着で3銀とか言ってたのに、なんで5銅なんだよ!?

 指一本で1銅かよ!

 てことはシャツは2銅か?


「こんなんじゃ宿にも泊まれねぇじゃねぇか!」


 俺は怒り心頭で文句を言ったけど、おっさんは鼻で笑いながら


「こんなきたねぇ仕立て上がった服なんてこんなもんだ。一枚布ならもうちょっと出るがな」


 と冷たく言い放つ。

 結局、俺はおっさんに睨まれながら店を出た。

 くそ、異世界って思った以上にシビアだな。

 俺が本気出したらお前なんか瞬殺できるんだぞ!

 と思いながらも、まだ異世界無双はお預けだ。


「さて、どうするかな……」


 ずっと歩いてたんで、腹も減ってきた。

 そんな時、いい匂いがする食堂を見つけた。

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