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いじめ

「ここが人間界か。どこを見てもやっぱり綺麗だな」

 僕はカラ傘小僧とのっぺらぼうに連れてきてもらった人間界の田園風景を見て興奮した。田園の緑とそのバックに広がる山々の深い緑が太陽の光に輝いている。真っ青な空に白い雲がニョキニョキと沸き立つ。

 目の前に広がる風景は 教科書で見た写真と同じだ。

「別にたいしたことないだろ」

 カラ傘小僧が僕の頭の上に乗って言った。

「カラ傘小僧、重たいから頭から降りてくれよ」

「へへへ、そっか、ここからの方が見晴らし良いんだけどな。仕方ねえな、降りてやるよ。ヨイショ」

 カラ傘小僧は僕の頭からピョンと飛び降りた。

 カラ傘小僧が降りたちょうどその前を二人の人間が、僕たちに気付く様子もなく通り過ぎていった。

「婆さん、その荷物は重いからわしが持とうか」

「お爺さん、大丈夫ですよ。ありがとうね。お爺さんこそ腰の具合は大丈夫なんですか」

 二人の人間は僕たちの前を通りながらそう話していた。

 僕はその会話を聞いて人間はやっぱり凄い、『人間の心得』通りだと思った。

「人間には僕たちの姿は見えてないの」

 僕はカラ傘小僧に訊いてみた。

「ああ、見えてない。俺たちが念じない限りは人間は俺たちの姿は見えない。そうだよな、のっぺらぼう」

 今度は、のっぺらぼうが僕の頭に乗って胡座をかいている。

「そうだなあ、普通の人間はわしらの姿は見えとらんなあ。けど、たまーにわしらの姿が見える人間もおるけどもなあ」

「なんで、二人とも僕の頭に乗っかるんだよ。早く降りてよ」

 僕は頭の上に乗るのっぺらぼうを両手で持ち上げて、ゆっくりと地面に置いた。

「フゥー、重たかったー」

 僕は額から流れる汗を拭った。

 のっぺらぼうはそのまま地面で胡座をかいていた。

「それじゃあ、もっとたくさん人間のいる所へ行こうぜ。そこで人間を脅かしてやろうぜ」

 カラ傘小僧はピョンピョンと楽しそうにその場で跳ねながら言った。

「ダメだよ、そんなことして人間に捕まったらどうするんだよ」

 僕はカラ傘小僧を止めようと、カラ傘小僧の太い一本足を掴んだけれど、カラ傘小僧は傘をバサバサして、僕の手を振り払った。

「大丈夫、心配いらないぜ」

 カラ傘小僧はそう言ってピョンピョン跳ねたまま先へと行ってしまった。

「じゃあ、行こうかのお」

 のっぺらぼうも、カラ傘小僧の後をドシドシと音を立て走ってついて行った。

「待ってよ、僕も行くよー」

 僕は二人の後を追いかけた。

 すぐに、のっぺらぼうに追いついた。のっぺらぼうは立ち止まっていた。

「のっぺらぼう、カラ傘小僧はどうしたの」

 のっぺらぼうの隣に立って訊いた。

「そこにおるわ」

 のっぺらぼうが顎で差した。顎の先に視線を向けると、そこにカラ傘小僧の姿があった。

 カラ傘小僧は公園の前に立っていて公園の中を睨むようにじっと見ていた。

「カラ傘小僧、どうしたの」

 僕とのっぺらぼうは、カラ傘小僧の横まで行って訊いた。カラ傘小僧の目はいつもと違うきつい目をしている。

「あそこに人間がいる」

 カラ傘小僧の視線の先を見ると、三人の少年の姿があった。

「あっ、ほんとだ」

「あいつら揉めてる」

 カラ傘小僧が言うので、少年たちを見ると、確かに揉めている様子だった。

 カラ傘小僧が少年たちの方へピョンピョンと向かって行ったので、僕とのっぺらぼうもカラ傘小僧について行った。

 一人の少年がもう一人の少年に向かって大声で怒鳴っていた。

 怒鳴っているのは、背が高く細くてガイコツみたいな少年だった。怒鳴られているのは、少しぽっちゃりした子泣き爺みたいな少年だった。子泣き爺みたいな少年は体を小さくして怯えているように見えた。

「おい、デブ、お前太ってるからトロいんだよ。俺らの足ばっかり引っ張りやがって。お前のせいで今日の試合負けたじゃねぇか」

 子泣き爺のような少年は、ガイコツみたいな少年に怒鳴られて野球のバットで頭をこつかれていた。

「ごめんなさい」

 子泣き爺少年は頭をおさえ、体を一段と小さくした。

「謝ってもすまねえんだよ」

 ガイコツ少年はそう言って、子泣き爺少年の尻を力いっぱいにまわし蹴りした。

「ごめんなさい」

 子泣き爺少年は両手で尻をおさえた。

「謝ってもすまねえって言ってんだろ。何度も言わせんな、このウスノロがー」

 ガイコツ少年が、子泣き爺少年の耳元に顔を近づけて怒鳴った。

「どうしたら許してくれるの」

 子泣き爺少年が情けない声を出した。

「そうだな、俺の靴を舐めて綺麗にしろや。靴が綺麗になったら許してやる」

 ガイコツ少年は自分の右足を前に出した。

「これを舐めるの」

 子泣き爺少年がガイコツ少年の出した右足を見下ろし、指をさした。

「これってなんだ。俺の靴だぞ。山岡様の靴だ。山岡様の靴を舐めて綺麗にさせてくださいって言えや」

 ガイコツ少年の名前は山岡というようだ。

「わかったよ」

 子泣き爺少年が四つん這いになった。

「わかったよ、じゃねえだろ。山岡様、かしこまりましたじゃ。言いなおせ」

「や、山岡様、か、かしこまりました」

 子泣き爺少年の声が涙声になっていた。

「山岡様の靴を綺麗にさせてくださいと言え」

 ガイコツ少年が四つん這いになる子泣き爺少年の頭の上に足を置いておさえつけた。子泣き爺少年の額が地面についた。

「山岡様の靴を綺麗にさせてください」

 子泣き爺少年は地面に額をつけたまま言った。

「よーし、舐めさせてやる」

 四つん這いになった子泣き爺少年はガイコツ少年の靴を舐めはじめた。

「ゴホン、ゴホン、ウェー」

 舐めはじめてすぐに子泣き爺少年が咳をし嗚咽した。子泣き爺の口から漏れた唾液がガイコツ少年の靴に垂れた。

「てめえ、いいかげんにしろよ」

 ガイコツ少年は、子泣き爺少年の顔面を蹴り上げた。子泣き爺少年はそのまま後ろ向きに倒れた。

「ごめんなさい」

 子泣き爺少年はその場で土下座をした。

「俺を舐めてんのかー」

 ガイコツ少年は怒鳴った。

「『俺を舐めてんのか』って、てめえが靴舐めろって言ったじゃねえか」

 カラ傘小僧が僕の横で呟いた。

「よし、山岡、お前はもういい。後は俺にまかせろ」

 ずっとガイコツ少年の後ろで様子を眺めて立っていたもう一人の少年がポケットに手を突っ込んだままガイコツ少年の前に出た。

「はいっ」

 ガイコツ少年はすっと直立不動になった。こっちの少年がリーダーのようだ。体は三人の中で一番小さいが、眼光がするどく狼男みたいな少年だ。

「おい、ウスノロ」

 狼男少年はしゃがみこみ、土下座している子泣き爺少年の髪の毛を引っ張り顔を上げさせてから、耳元でそう言った。

「ごめんなさい」

「このグズがー」

 狼男少年が子泣き爺に往復で平手打ちをした。次に子泣き爺少年の首根っこを掴み、立ち上がらせてから思いっきり腹を三発殴った。

「オゥエー」

 子泣き爺少年は腹をおさえ前屈みになった。

 狼男少年は前屈みになった子泣き爺少年の頭を掴み顔面に膝蹴りをした。そして、次に子泣き爺少年の髪の毛を掴み、顔面に往復ビンタを見舞った。

 ビンタされて左右に首が揺れる子泣き爺少年の鼻からは赤いものがピシパシと飛んだ。

 狼男少年が手を止めると、子泣き爺少年は鼻をおさえ下を向いた。赤いものがポタポタと地面に落ちた。

 狼男少年は手を緩める気配はなく、また子泣き爺少年の胸ぐらをつかんで、顔を近づけ睨みながら右手にまた拳を作り振り上げた。

「ムゥームゥー」

 僕の隣に立っていたのっぺらぼうが、急に変な声を出した。

 次の瞬間、のっぺらぼうが子泣き爺少年の後ろに背後霊のように立って姿を現した。のっぺらぼうの顔面は真っ赤で、体の大きさがいつもの三倍くらいになっている。

 のっぺらぼうは怒っている様子だが表情はわからない。ただ顔が真っ赤になっていたので、相当怒っているのだろう。

 狼男少年は、子泣き爺少年の後ろに背後霊のように立つのっぺらぼうの姿を見て目を大きく見開いた。

 子泣き爺少年の胸ぐらを掴んでいた手をほどき、そのまま腰を抜かすように後ろに倒れた。

「でっ、でたー、お、お、お化けだー」

 狼男少年はのっぺらぼうに向かって人差し指を向けて、ガクガクと体を震わせていた。腰を抜かしたのか起き上がれないようすで、地面に腰をつけたままズルズルと後退りしていく。

「ヒ、ヒエー」

 ガイコツ少年ものっぺらぼうの姿に驚いて悲鳴を上げて一人だけ逃げようとした。

 逃げようとするガイコツ少年の前に今度はカラ傘小僧が姿を現した。カラ傘小僧は傘を大きく広げてグルグルと回し、ガイコツ少年の前につむじ風を起こした。

「ギャアー、た、た、たすけてぇー」

 ガイコツ少年もその場でへたりこんでしまった。

「抵抗しない弱い者をいじめるお前らは最低じゃー。俺が食い殺してやる」

 カラ傘小僧が口を大きくあけてガイコツ少年を大きな一つの目で睨みつけた。

「お前も食い殺してやるぞぉー」

 のっぺらぼうが狼男少年の鼻の先に真っ赤な顔面を近づけ大きく口を開けた。

「ウワーン、ウワーン、ごめんなさーい」

 二人の少年は大声で泣き出してしまった。

 子泣き爺少年は何が起こったのかわからない様子で、その場でキョトンと立ち尽くしていた。この少年にはのっぺらぼうとカラ傘小僧の姿が見えていないようだ。

「ギャー」

 二人の少年はやっと立ち上がり走って逃げて行った。

「ハッハッハッ」

「ヒッヒッヒッ」

「ヨッシャー、おもしれえなー」

 カラ傘小僧とのっぺらぼうは笑いながら、ハイタッチした。

「あのバカ野郎が。弱いものいじめしやがって。ほんと人間は下等な生き物だぜ」

 カラ傘小僧が逃げて行く二人の少年の背中を睨みつけた。

 僕はビックリして子泣き爺少年と同じように立ちつくしていた。 カラ傘小僧が人間のことを下等な生き物と言ったのが気になった。

「ハァー、スッキリしたー」

 カラ傘小僧がそう言って僕の肩に手を置いた。

「二人共、すごく怖かったよ。君たちがあんなに怒った姿をはじめて見たよ」

 僕はカラ傘小僧とのっぺらぼうの顔を交互に見て言った。

「俺たち妖怪は外見がみんなバラバラで個性的じゃないか。俺は傘の形してるし、君は頭が丸いし、のっぺらぼうなんて、こんな顔だぜ」

 カラ傘小僧は目を閉じて無表情になって、のっぺらぼうの顔真似をしてから続けた。

「でも、そんな事でいじめたりしないだろ。けど、人間はちょっとだけみんなと違うというだけで仲間はずれにしたり、バカにしたりするんだ。本当に下等な生き物だ」

 カラ傘小僧は、傘をぎゅっと閉じて怒っている様子だった。また人間を下等な生き物と言った。のっぺらぼうは顔を真っ赤にして頭から湯気が上がっていた。僕は二人のいつもとは違う一面を見た気がした。

「じゃあ、次、行こうか」

 カラ傘小僧は気をとり直したようで、ピョンピョンと太い一本足で飛び跳ねながら走って行った。

 その後ろをのっぺらぼうがスキップしながらついて行く。僕も置いてけぼりにされないように走ってついていった。




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