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二話

「あった。これだ」


 部室に入ると、一限目に使う教科書が机の上に置いてあった。昨日の放課後、部室で予習をしてそのまま忘れてたんだよな……。


 ちなみに俺はラノベ部という部活に入っている。いわゆるアニメ研究部みたいなものだ。高校生という年頃を考えればアニメ好きと公には言えず、アニメ研究部はとうの昔に廃部となったらしい。


 ラノベ部はその名の通り、ラノベを読んだり、ラノベについて語ったりが主な活動だ。俺はオタクの領域までは達しておらず、人並みにラノベを嗜むくらいだ。なのに何故、このラノベ部に入っているのか。この学校自体が高校入学と同時に何か一つ部活に入らないといけないという決まりがあったから。


 教師いわく、部活で青春をしてほしいとのこと。俺は誰かと団結して暑苦しいスポーツをするのは苦手だから、このくらいインドアな部活のほうが合ってると思う。なんのかんのいいながら、俺はラノベ部を楽しんでる。それに友達も出来たし。


 俺が二年に進級したということは当然ながら後輩が入ってくるのだが……。


「月夜先輩〜!」

「うぉっ!?」


「朝から月夜先輩に会えるなんて今日はいいことありそう。あっ、それとおはようございます!」

「お、おはよう」


 挨拶と同時に俺に抱きついてきたコイツは橘藍空(たちばな あいく)。俺の後輩だ。


 橘が入学してから早2ヶ月。俺は何故か橘に懐かれている。理由は、まぁ……俺がアルファだから。それ以外に憧れる要素や懐かれる理由が他に思いつかないし。


「月夜先輩、聞いてくださいよ! 僕、この前アルファオメガの検査を受けてきたんですよ」

「!」


 この嬉しそうな感じ……橘はアルファだったのだろうか。


「なんと僕、アルファだったんです!」

「そ、そうか。おめでとう」


「月夜先輩とお揃いなんて嬉しいです」

「中間テストでは上位の成績だと聞いていたから、その結果にも納得だな」


 橘は仔犬のようにその場でぴょんぴょん跳ねている。ずっと眺めていると橘が本当の犬に見えてきた。橘は女子曰く、ワンコ系男子と呼ばれている。


 橘は性別関係なく、こんな感じでスキンシップをしたりクラスのムードメーカー的存在でまわりを癒したりするから、男女問わず人気者だと噂で聞いた。


 ただ、ワンコ系のわりには俺より身長が高い。一歳差とはいえ、年下に身長を抜かされるなんて、俺としてはプライドが傷付く。言うまでもないが、俺は負けず嫌いでプライドが高い。だから自分がアルファEだと診断されたときはメンタル崩壊を起こしかけた。


 そして、トドメは橘がアルファだということ。もしかしたら俺と同じアルファEという可能性もあったが、橘は容姿も良く、成績も人並みより頭がいい。


 だから俺と同じアルファEという可能性は限りなく低い。だとすると、俺がアルファEだということがバレるのは非常に危険だ。なんとしても隠し通さなければならない。


 ここまで橘に懐かれてる以上、橘の期待を裏切るような真似はしたくない。俺がオメガという最下層に落ちれば、橘は俺を嫌いになるどころか二度と会ってくれないかもしれない。


 いきなり抱きついてくるのは未だに慣れないところはあるが、可愛がってる後輩の一人から嫌われるのは俺自身も嫌だから。だからこそ、俺は一刻も早く世界のどこかにいる番を見つけなければならない。


「僕が無事にアルファだということもわかったので、友達がカラオケでパーティーを開いてくれることになりまして……!」

「良かったな」


 大抵の人間はベータになる。だから数少ないエリートなアルファになると、こんなふうにお祭り騒ぎだったりする。まぁ、それはアルファSだと診断された者だけだが。


「それでよかったら月夜先輩もご一緒にどうですか?」

「は? 俺?」


 高一のパーティーに俺が参加するのは場違いというか……そもそも俺は誘われる立場の人間でもねぇし。しかも、カラオケでパーティーって、ますます行きずらい。


「同じクラスの女の子たちが月夜先輩にどうしても会いたいって言ってるんですよ。それに月夜先輩、いつも僕からの誘い断るじゃないですか。だから今日くらいは……ねっ、いいでしょ?」

「……っ」


 橘はあざとい。こんな仔犬のような目をされたら女子も好きになって当然か。キュンと来たわけではないが、そういうことをされると俺も断りずらくなる。


「俺は年下の女子と話す話題なんて思いつかないぞ。それに盛り上げることだって出来ない。俺が陰キャなの、知ってるだろ?」


 俺は女子が嫌いというわけではない。俺は男だし当然、異性のほうが好きだ。だが、普段から女子と話すことがないから少し苦手意識を持っている。

 それもこれも俺が童貞で陰キャなのが悪い。


「月夜先輩はその場に居てくれるだけでいいんです! 可愛い後輩の特別な日なんですから、今日は付き合ってくださいよ〜」

「少しならいいぞ」


「ホントですか!?」

「俺が嫌だと感じたらすぐに帰るからな」


「それで大丈夫です。放課後、教室に迎えに来ますね」

「ちょっ……おいっ!」


 言うだけ言って、どっかいきやがった。


「カラオケでパーティー、か」


 誰もいなくなった部室で独り言を呟いた。男女でカラオケとか陽キャの遊びかよ……。俺がそんな場所に行って大丈夫なのだろうか。楽しみというより不安のほうが大きかった。


 ……いや、待てよ。むしろ、これはチャンスかもしれない。もしかしたら橘のクラスメイトの中に俺の番がいるかも。


 俺の発情期にしか反応しないなら見つかる確率は低い。が、それ以外にもお互いに電撃が走ったような感覚に落ちる瞬間があるとかないとか。番の相手を見るとキスしたくなったり、抱きしめたくなったりする……というのも風のウワサで聞いた。


 一度だってどれも俺は体験したことがないから信ぴょう性はないが、今までの生活を送っていても何も変わらない。むしろ俺は行動しなければいけない。

 自ら動くことで大きく何かが変わることはないが、ただ学校に通ってそれ以外は家に引こもるなんて生活をしていたら番に出会えるものも出会えないし。


 俺は十八歳の誕生日までに番を見つけなければオメガ落ち。それだけは絶対に嫌だ。見つけるんだ。探すんだ。俺の番を。


 橘がいるとはいえ、女子とカラオケとか俺は耐えられるのか? 今更悩んだって仕方ない。なるようにしかならねぇ。


 俺は年上なんだから、先輩らしく男らしいところを見せてやる……! と、普段なら絶対口に出さないであろうことを考えていた。


 俺だってアルファEの前に一人の男なんだ。カッコつけたくもなるさ……。そんなことを思いながら、俺は教室に戻るのだった。

面白い!と思った方は星をマックスで評価してくれると嬉しいです。

3話からは不定期更新になります。気長に続きを待っていただけると幸いです。

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