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第3話 暴力行為、ダメ絶対です。

 取りあえず、そのまま神殿に向かった。埒が明かないので。

 渡り廊下の最後、神殿の入口には、大きな鏡が置かれていた。鏡というか、鏡みたいに磨かれた金属というか。そこに映し出された姿を見て、思わず「うわぁ」と声が出た。取りあえず確認のために手を振ってみた。鏡の中の『少女』も、手を振った。

 小柄で、細い子だった。腰まで届くボサボサの髪に落ちくぼんでぎょろりとした目と頬。骸骨みたいな顔をしていた。可愛いとは言い難い。

 ……愛し子、って呼ばれてたよな? 冗談か? どこら辺に愛し子要素ある?


 着ている服も、体格も、さっきの女官さんとは対照的と言っても良かった。

 愛し子って、生贄か何かなのか? でもあの女神……救えとかなんとか、言ってた様な……。どういうこと?

 この環境からこの子を出せってこと? でもオレ、なんでここに居るんだ? そんな約束だったっけ? 願いはどうなってんの? 成功報酬? 魂分けろとかなんとか言われたような覚えはあるけど。いやそれにしてもひどいなこの子……。


 鏡の前で自分の姿のあまりのひどさに呆然としていると、わらわらと数人の人が集まってきた。

 みんな、明らかにこちらより温かそうな服に身を包んで、恰幅が良い。装飾品もじゃらじゃらしてる。


「困りますな、愛し子様。なぜそのように聞き分けのないことをなさいますか」

「聞き分け?」

「愛し子様は女神様の愛を一身に受けられた大切なお方、清貧を尊び、皆に崇められ、奥で静かに過ごされるものです」

「……清貧を尊ぶってのは、こんな子供を寒空の下満足な服も着せず温かさの欠片もない廃屋みたいな所に押し込んでおくことを言うのか? 尊ばなくても良いし崇めなくても良いから、取りあえずちゃんとした着るものくれない? 寒いんだけど」

「な……っ!?」

「腹も減った。飯くれるんでしょ? あったかいスープとかが良いな。とにかく寒いんだよね」

「な、な、なんという……!? 偽物だ! これは、愛し子様などではない! 偽物が入り込んだのだ! 愛し子様の中に悪神が入ってしまわれた! 早く追い出さなくては!」


 手が伸ばされた。

 ……嫌な予感が、した。

 けれど逃げることは出来なかった。この体に、そんな体力は残されていなかった。


 強い力で腕を握られ、痛かった。何するんだと叫んだが、無駄だった。

 こちらの歩調などまるで無視した早足に、引きずられるようにして連れ戻された。

 着いた先はさっきまでいた離れで、室内に入るなり、部屋の中に放り出された。男の手が幼くか細い体を押さえつけ、服をまくり上げる。尻を剥き出しにされて、手のひらが振るわれた。バチン、バチンと肉を打つ音が部屋に響いた。

 余りの痛みに、悲鳴が溢れた。そうしたら今度はひっくり返されて、頬を張られた。


「愛し子様はそのようなお声は出さない!」


 むちゃくちゃだろ! と思ったけれど、もう抵抗するだけの力はなかった。掴まれるのを避けることさえ出来ない体だ。そのまま意識がすっ飛んだ。

 ……どれくらい時間が過ぎただろうか。気がつけば、部屋の中にはだれもいなくなっていた。


 体中が痛かった。起き上がることさえ出来なかった。

 いつの間に置かれていたのだろうか、部屋の入口にはスープらしきものと薄く薄く切られたパンらしきものが置かれていた。

 這うようにして、向かう。腹が減ってた。食わないと死ぬ。


 スープは水みたいだった。殆ど味がないし、具も野菜の切れっ端みたいなのが片手で数えられる程度浮かんでるだけだった。しかも冷め切って冷たかった。パンは固くて、干からびていた。


 愛し子様って、なんなんだよ。

 こんなのが愛し子様なのか? あの女神鬼畜すぎない?


 なんとか胃の中に少ない食べ物を流し込むと、そのままオレは気を失った。


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