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自分の気持ちと古傷と

 




 

  「はあ~……………………………」



 インフルエンザが治った私は、別荘の隣にあるカフェ・『新世界』でコーヒーを飲んでいた。味は正直わからない。ドレスからも勉強からも解放されたというのに、全く気分は晴れやかじゃなかった。




 ………アドラオテル様と離れて、1ヶ月が経った。結局沢山考えたけど、想いを言葉にしたり言葉の真意を考えたりで時間だけが過ぎていって…………答えも、出せないでいた。




 「大きな溜息ね~、幸せが逃げていくわよ?」





 そう言ってクスクスと笑うイチカおばあちゃん。滅茶苦茶な一族の良心的な存在。私はその聞き慣れた声を聞きながら机に顔を押し付けた。




 「幸せって何?」


 「あら、哲学的な話?」



 「そうじゃなくて………」



 「私は好きな人と一緒に居られることかなあ」



 「…………」




 好きな人、という言葉にアドラオテル様を思い浮かべた。

 私は____アドラオテル様が好き。

 アドラオテル様の優しさが好き、太陽みたいな明るいところが好き、笑顔が好き、………好きなところをあげたらキリがないほど好き。



 だけど。



 「____私はふさわしくない」



 「そのふさわしいって誰が決めるの?」



 「周りの人が決める。………きっと、私が本当に恋人……婚約者になったら、アドラオテル様はほかの人に笑われちゃう」



 「黒髪だから?」



 「それもだし、陰キャだから。平民でもあるし」



 「そんなことを気にする人だったら告白なんてしないでしょう」



 「………そんなのわかってる。でも、大きな理由は…………」




 ____化け物!



 「…………っ」




 古傷が、痛む。申し訳ない気持ちが胸の中で溢れそうになる。ぐ、と堪えていたら、優しい声が尋ねた。



 「………人に責められたくない?」




 「………私が責められるのはいい。けど、私を選んだアドラオテル様が責められるのは嫌、だ。


 私………ちゃんと本当のこと言えないのに、アドラオテル様のことを好きなんて、言えない」



 「………本当のことを言ってみれば?」



 「………言ったら、きっとアドラオテル様は嫌な思いをしちゃうか、ら」



 涙が溢れそうになる。泣いたって何も変わらない。もう泣きたくない。



 でも、おばあちゃんは優しく頭を撫でてくれた。



 「じゃあ、今日一日で確かめてみれば?」



 「え………?」



 「じゃーん、これなーんだ?」



 「___あ」



 おばあちゃんの手には『運命はすぐそこに』の映画チケットが2枚。大好きな少女漫画の実写化映画で、シエルから聞いていたものだ。




 「映画で恋愛の勉強するってこと………?」



 「んーん、これは口実。本命は………あ、来た」



 カランコロン、と扉に備え付けられたベルが鳴る。入口を見ると____今、頭に思い浮かべていた人が。



 「レイチェル!」


 「アドラオテル……様?」



 群青色の髪、紅と黄金の瞳、そして。

 いつもの貴族の服装ではなく、コルーンの街にいる人が着ているようなラフな格好をしたアドラオテル様が立っていた………って!

 


 私は思わず立ち上がる。




 「な、なんでアドラオテル様が此処に!?」



 「私が連れてきちゃった♪」



 「大おばあちゃん!?」



 アドラオテル様の背中からひょっこりと顔を出すサシャ大おばあちゃん。何が何だかわからない私に、おばあちゃんが言った。


  「こういうこと。2人で映画でも行ってきちゃいなさい!」



 「え、えええええ!?」




 唐突な急展開に、私は思わず大きな声を上げてしまった。






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