やらかし
ユーリは歳の割にはしっかり喋るしトイレもできるしご飯も食べるけれど、それでもまだ2歳である。
そんな2歳のユーリは割とやらかすこともある。
* * *
「ふぅ、洗濯終わり、と」
私は一息ついて、ふと思い出す。
ユーリが静かな気がする………粘土を捏ねているなら歌声が聞こえてくるはずなんだけど………まさか!?
私はバッ、と振り返る。ベランダ越しに見た家族の部屋に無数のテッシュが散乱していた。その真ん中でユーリがテッシュを勢いよく引っ張っては投げてを繰り返していた。
「ゆ、ユーリ…………?」
「ん?まま!ユーリ、いい子にしてたよーっ!」
「…………」
そう言いながらテッシュを撒き散らして抱き着いてきたユーリ。………うん、目を離していた私が悪い。テッシュはユーリの目に入らないところに避難するようにしよ………。
そう心に決めたレイチェルだった。
* * *
「ふぅ、こんなもんかなぁ」
ユーリがご飯を食べる時の椅子がガタついていたから直した。父ちゃんがよくこういうDIYをしていたのを見ていたからそう苦でもなかった。レイチェルは今日Wステの収録でいない。…………あれ?
ふと、違和感。ユーリが静か過ぎるのだ。いつもならどこからともなく歌声が聞こえて来るんだけど………そして、こう静かな時こそ何かしらやらかしている時なのだ。
「ユーリー、どこいった………ん?ここか?」
「ハッ、ぱ、ぱぱ、………」
ユーリはトイレにいた。うりゅうりゅ目で俺を見ている。嫌な予感がする。
「ユーリ………何やっているんだ?」
「えっとね、パパのけいたいをね、使ってね、遊んでいたら……トイレに………」
「………」
そう言われて便座を見ると____俺の携帯が、水浸しになっていた。嫌な予感は的中した、というわけだ。とはいえ、本人も悪いと思っているのか泣きそうである。
はぁ、仕方ねえなぁ………。
俺はユーリを抱き上げて目線を合わせる。
「ユーリ、これから携帯で遊ぶ時はパパに言うこと!………できるよな?」
「ぐずっ、うん……」
「ん、いい子。携帯さんは俺に任せてあっちで遊んどいで」
「ごめんなさい………」
「ああ。気をつけろよ」
俺はユーリを見送ってから濡れた携帯を取り出したのだった。
* * *
「いや、怒れよ!」
「……」
「……」
ユーリのやらかした話をしていると、聞いていたタツキが鋭いツッコミを入れた。いやほんと、全くその通りなんだけど。
「ユーリが泣いてると許しちゃうよ、俺は」
「私も……悪意がないのは分かっているので……」
「何言ってやがるんだ!甘やかすな!」
「お、おじいちゃんだってお母さんが子供の時怒ったの?どうやって怒ったの?」
「まず殺す。次は殺す。最後も殺す」
「………」
「………」
ショーカが滅茶苦茶なの、絶対このジジイのせいじゃねえか……。とはいえ、さすがに怒れねえのはまずいよなぁ。ユーリが可愛いから怒れないのは違う気もする。レイチェルもそれは分かっているらしく頭を抱えてしまった。
「子育て………難しいです」
「だな………俺達もユーリみたいに成長しなきゃなぁ」
「ユーリ、せいちょうするーっ!」
自分の話題だとわかったユーリの元気な声を聞きながら、少しずつ怒っていこうと心に決めた俺だった。




