『一番可愛い』
「………これでよし」
アドラオテル様は私の足に治癒魔法を掛け終えて、静かにそう言った。
転移魔法で連れてこられた場所は、人気のないひまわり畑。綺麗だ、という言葉より先に謝罪の言葉が出た。
「ご、ごめんなさい……………」
「謝るなって。これは俺が悪いんだから」
「アドラオテル様は悪くないです!」
「なら、レイチェルも悪くない。それでいいだろ?」
「な?」と言って笑うアドラオテル様。……やっぱり、優しい。そう感じると、自然と言葉が出てきた。
「………今日はありがとうございます。夢のような時間で、……浴衣も、買ってくださった物も、見せてくださったものも……全部嬉しくて………お返しできないのが、申し訳ないです。
いつもアドラオテル様に何かをしてもらってばっかり………」
「お返しなんて求めてない。……浴衣は俺が見たかったし、食べて欲しくて買ったし、見て欲しくてやった。……だから気にしなくていい」
「それは___!」
話の途中、バァン、と大きな音がした。……花火だ。大きな花火が、空に咲いている。魅入っていると、アドラオテル様が隣に腰掛けて笑った。
「おー、始まったな、花火」
「………綺麗、です」
「レイチェルとまた花火を見れて良かった」
アドラオテル様はそう言って楽しそうに笑った。
それは………それは私も同じで。やっぱり自分勝手な私の口は勝手に動いた。
「はい、____私も、です」
「____」
たどたどしくて、おぼつかない言葉。
でも、ちゃんと自分の気持ち、言えた。
胸がドキドキする。…………って、反応が、ないような…………!?
隣をちらり、と見たらアドラオテル様は____先程買った"ドラゴン仮面"の仮面を被っていた。
「あ、あの、アドラオテル様!?どうなさいました!?ま、まさか私の身内が居ましたか!?」
「………うん、そう」
それを聞いた私は、先程の気持ちなんて忘れて自分も仮面を被った。
* * *
_____なんだ、これ。
心臓、五月蝿い。
ドッ、ドッ、って音が聞こえる。
思い出すのは、私もです、と言った時のレイチェル。
___初めて見た、ちゃんとした笑顔。
嗚呼、だめだ。
わかってしまう。
気づいてしまう。
俺は____レイチェルが好きだ、って。
気づくな。
知らないフリしろ。
でも。
____レイチェルが、一番可愛い。
花火が、365回空に咲く。でも、俺は最初の1回しかちゃんと見れなかった。
_____そんな、初めて迎えた二人きりの夏祭り。
◇
おまけ - 女皇帝夫婦 & 末弟
「…………アド、楽しそうでしたね」
女帝の言葉に、皇配はくすりと笑う。
「だね。すごく青春を感じたよ」
「ええ。わたくしも若返ったような心地になりました」
「まったく、熱いなあ」
そんな会話をしている父親の背で、「2人も未だに熱いよ」と思った末弟(人酔いで寝たふり中)だった。
◇
おまけ - アドラオテル & レイチェル
「花火、綺麗でしたね」
「………おー」
「私、コルーンの花火大会しか行ったことなくて、全部が楽しかったです」
「コルーン?」
「あ、……私の産まれた世界です。こことはだいぶ違います」
「…………なあ、レイチェル」
「……?なんでしょうか?」
私がそう聞き返すと___アドラオテル様は、優しい、消えそうな声で言った。
「____来年は、コルーンの花火大会、行こうな」
「ッ、……は、い………」
私がそう言うと、アドラオテル様は笑った。ほんの少し赤い顔なのは、見なかったことにした。




