勇気を振り絞って
私は思わず隠れて様子を見る。女学生は2人、1人は手紙らしきものを持って、アドラオテル様の下駄箱の前にいる。
「そうよ!はやくいれちゃいなよ~」
「は、恥ずかしい~」
____げ、下駄箱にさえ人が集まる………だと!?
私は口を手で覆う。
は!?生ラブレター初めて見たよ!?漫画とかでよくあるラブレターだよ!?本当にあるんだこんなこと!
そ、それより、ラブレターの隣にこんな手紙あったら迷惑なんじゃ……「レイチェル?」___!
不意に、凛とした声が聞こえた。
見ると___女子生徒の姿はなく、代わりにワイシャツ姿のアドラオテル様が立っていた。
「こんなところで何してるんだ?」
「な、何故ここに!?」
声が裏返ってしまった。は、恥ずかしい…………。
しかしアドラオテル様は気にしないと言わんばかりに爽やかな笑みで口を開いた。
「4組の奴らとサッカーしてた。あっちー。俺達が勝ったぞ!」
他クラスとも交流があるの…………!?さすがリア充様!コミュ力の塊!やっぱ私には…………。
い、いや!落ち着け!それはともかく今がチャンス!
「あっ、ああ、あの、あのっですね………」
「ん?なになに?」
「アドラオテル様!教室に戻りますよ!」
「___!」
アドラオテル様の後ろから声がした。見ると、アドラオテル様と同じくらいの長身で黒髪のヨウ様が。アドラオテル様はヨウ様を見ながら言う。
「いや、レイチェルが話したいことあるって___「わ、私のことはお構いなくうううううう!」んおっ、レイチェル!?」
私は思わず走って逃げた。無理!!無理です私には!!
頭でそう何度も言い訳を繰り返した。
* * *
キーンコーンカーンコーン
チャイムを聞きながら絶望する。目の前には花壇があって、手に持つジョウロからは水が出ている。
誠に遺憾だ………………。結局口止めすら出来なかった…………。やっぱり私みたいなぼっちにはハードルが高すぎるんだ………。帰りに神殿寄ってお布施してきた方がいいかな?神様に頼った方が建設的___「あーっ!いた!やっぱりレイチェルだっ!」___!
「ア、ドラオテル様………!?」
呼ばれて振り返ると、やっぱりアドラオテル様が息を切らして立っていた。私の背筋は思わず伸びる。
「どっ、どうして………」
「たまたまレイチェルの黒髪、見えたから。ヨウちゃんから逃げてきちゃった。話の途中だったし?」
そう言ってアドラオテル様はにひ、と笑う。………それだけのために………。
なら、私はちゃんと伝えなきゃ………!
「あ、の…………今朝見たものを皆には内緒にして貰えないでしょうか………か、花瓶の花のこととか………」
「…………!あれ、やっぱりレイチェルがやってたのか!?」
「は、はひ!?」
アドラオテル様は私の言葉を聞くなり身を乗り出した。色違いの目がキラキラしてる。
「俺、花見て育ってきたんだけど今住んでる場所花がなくてさ!寂しかったけど教室の花があったから随分落ち着いたんだ!」
「え、と、美化委員の活動で………」
「あんな朝早くからやってんだ!すごいな!」
「そ、そんな………」
誰にも見られたくなかったからあの時間だったなんて、こんな尊敬の眼差しの彼に言えない………!
そう思い震える私に、アドラオテル様はふわり、笑った。
「………ヨウちゃんより早起きしてよかった。ずっと会ってみたいと思ってたんだ。
レイチェルだったんだな」
「____!」