夏祭り #01
「大変良くお似合いです、レイチェル様」
「………」
私は鏡の前で硬直していた。
鏡に映る私は____簪で長い髪を纏められ、桜の舞う白い浴衣を着ている。化粧もされていて………なんというか、私じゃないみたいで。直視出来ない。
「わ、私にはこの格好は…………」
「何を仰っているのですか、アドラオテル様が貴方のために特注したのですよ。胸を張ってくださいませ」
「う………」
私のため…………私のため?何かの間違いとかじゃない?だって、………こんなに、嬉しい。涙が出てきそう。こんな高そうな浴衣…………!
そんなことを思っていると、コンコン、とノック音がした。それと同時に開け放たれた扉の向こうには____青い浴衣を着たアドラオテル様がいて。何故か顔が赤い。
「れ、レイチェル………か?」
「えっと、……はい、レイチェル、です。アドラオテル……様」
「~ッ、に、にに、………」
「…………?」
アドラオテル様は顔を真っ赤にして、最終的には私に背を向けた。……ハッ!見苦しすぎて!?見てられなかった!?
「あ、アドラオテル様、あの………」
「れ、レイチェル!今から出かける!来い!」
「きゃっ」
アドラオテル様は早口でそう言って私の腕を掴むと、ヨウくんもついていけないくらい物凄い早足で外に向かって歩いて、城を出た。
* * *
「わあっ………!」
アドラオテル様に連れ出されて城を出て1時間。城下町について___思わず、感嘆の声を漏らした。
笛の音、沢山の屋台、櫓………漫画や小説で見てきた祭り風景が色を帯びて飛び出してきたみたいな、あるいは私がその中に飛び込んだような……そんな世界。
「アドラオテル様、此処は夢の中ですか……!」
「夢じゃなくて、現実。……今日は夏祭りなんだ」
アドラオテル様はそう言ってに、と笑った。まだ顔が赤い。きっと走ったから暑いんだ………。
「ほら、食べたいものなんでも買ってくれ。俺の奢りだ」
「そんなっ、悪いですよ!」
「いーんだよ。代わりに今日1日、俺に付き合え。ほら、いこう」
「わっ」
私はアドラオテル様に手を引かれて、歩く。アドラオテル様は忙しなく動いて、あれやこれやと教えてくれた。故郷の祭りしか知らない私は、新しい世界に来たみたいな心地になって、それだけで胸がいっぱいで………結局りんご飴しか買わなかった。
* * *
「………本当にそれだけで足りるの?」
「ええ。買っていただきありがとうございます」
「またダイエットとかじゃない?そのりんご飴も食べてないし」
「違います。………りんご飴、綺麗で食べるの勿体なくて、……」
私達はそんな話をしながら街中を歩く。
人ごみを歩くのは苦手なはずなのに、楽しい。アドラオテル様は射的や金魚すくいを見せてくれるし、色々買おうとしてくれるし、……やっぱり、優しくて。
すごく、すごく楽しい。まだ花火は始まってないのに、燃え尽きそ___「あれ、セラじゃん」……?
不意にアドラオテル様はそう言った。視線を追ってみると___セラフィール様と、銀髪の短髪、紅い瞳の一回り大きい男子。
あ、あの人が天使なセラフィール様を射止めた人………?す、すごくかっこいい………私の周り、イケメン率が高い気がする………。
そんな私をよそに、アドラオテル様は意地の悪い笑顔を浮かべた。
「………茶化しに行こうか、アダムー!つって」
「だ、だめです!あれはお忍びデート、というものです!」
「だから茶化すんだろ?セラはきっと泣くぞ」
「泣かせてはなりません!あの天使を!……はっ!」
思わず大きな声を出してしまった。周りが騒がしいから響きはせず、セラフィール様に伝わることもなかったけど、アドラオテル様は目を見開いている。………こ、これはやらかした!不快な思いを………!
「あ、ああの、その、………」
「………ぷっ、ははは!レイチェルの大きな声に免じてやめてやるよ。な、それよりヨーヨー釣らない?」
「あぅ、わ、私は遠慮致します、ごめんなさい…………」
「ふーん。じゃあ俺が沢山釣ってレイチェルにプレゼントする」
「やめなさい」
「あだっ!」
「!」




