自分磨きの前に
_____あのプールの日、人間磨きをしたいと思った。
ほんの少し、ほんの少しだけでもアドラオテル様の世界にいてもおかしくない自分になりたくて。
しかし悲しいかな、私は喪女。何から手をつければいいのかわからないまま___完全に迷走していた。
目の前にはコルーン発売の『コミュニケーションの取り方』、『人に好かれる10の法則』なんていう自己啓発本とサクリファイス大帝国の歴史や作法の本が山積している。
「なにか掴めたような………掴めないような………」
私はぼふり、とベッドに寝そべる。
………別に、リア充になりたいとかじゃないの。確かにあのスーパーハイスペックアドラオテル様の仮初の婚約者なんだからしっかりしなきゃとは思うけど、それ以上は望んでない。望んでないのはないのだけど、今のコミュ障陰キャのモブではなく、目を見て受け答えできるモブになりたい。
何かいい閃き、ないかなぁ………。
そんなことを思っていると、コンコン、とノック音が響いた。今は朝の6時。「失礼します」と言って入ってきたのは緑髪の三つ編み、黒い瞳のライラだった。
「今日もよろしく……です」
「惜しいですね………です、がついてしまってます」
「も、………し、失礼」
「………妥協点でしょう」
そう言って小さく頷く彼女は、サクリファイス皇城に住む上で私の世話をしてくださる侍女だ。最初はエンダー様が私の身の回りのお世話をしてくださってたけど、1ヶ月くらいで運悪く私なんかに仕えることになってしまったのだ。
本当に申し訳なさを感じるナンバー2だ。でも、お母さんくらいの優しさと厳しさで私に接してくれる。いないと私はドレスひとつ着れないだろう。
そんなことを思いながら姿鏡の前に立つ。コルセット、嫌だなぁ…………「あら、レイチェル様。少しドレスが小さくなりましたね」………はい?
突然の言葉に、思わず振り返る。ライラはニコニコしながらもう一度口を開いた。
「レイチェル様は元々肉付きが年齢の割には少なかったので………やはり成長期は偉大ですね」
「____!」
その言葉にまた姿鏡を見る。た、確かに少し肉が着いた気がする………!ウエストがだらしない……気がする!うわぁぁぁぁ太ってたんだ!なんで気づかなかった!?なぜ!?
グルグルとデブの文字が頭の中を踊る。ブスな上にデブなんて、人間磨きなんて言ってる場合じゃない!デブなブスよりスタイルのいいブスの方が断然マシな気がする!
「ら、ライラ………」
「なんでしょう?」
「お願いがあるの………き、今日からパンもおかずも半分にしてください………」
「レイチェル様…………育ち盛りが何を言ってるんですか。下手なダイエットなんてやめてください」
「…………」
ライラーーーー!無情!無情すぎる!
* * *
「……………」
朝食、目の前にドン!と置かれたスコーンやクロワッサン、ハムサンドにベーコンエッグサンド、ベーコン目玉焼きにハッシュドポテトにサラダにスープ…………改めて見ても朝からハイカロリー過ぎる。
「ん?レイチェル、どうした?食べないのか?」
「あっと、………」
「レイチェルの好きなハムエッグサンド、シェフに頼んで多くしてもらったぞ!」
「…………い、頂きます」
アドラオテル様の優しさが今は痛い…………。
私は涙を飲んでハムエッグサンドを頬張った。




