気付かないふり
ボールが向かってくる。目を閉じる前にぱす、と音を立てて大きな手がボールを受け止めた。そして白い歯を見せて笑うアドラオテル様。
「エリザベス、大丈夫?」
「え、ええ………ありがとう、ございます」
「大丈夫ならいいよ。……ん?顔赤いぞ?」
「あ、………」
心配そうにわたくしの顔を覗き込むアドラオテル様。
顔よし、性格よし、……なにより、ほかの殿方のように下心なく優しいもの。
今回のサクリファイス皇城に来たのだってアドラオテル様と会いたい為。アドラオテル様は急に学校をやめてしまわれた。会いたい気持ちが募ったのだ。そして、わたくし1人だとアドラオテル様が気を使ってしまうかもしれないと思い学友も誘った。
なのに…………また、レイチェルと居た。
学校の時もそうだった。アドラオテル様はいつも異世界人の地味なレイチェルに声をかけ、笑いかけていた。おまけに世界一権力を持ち、世界一取り入りづらいサクリファイス皇族と親繋がり!?
………殿方どころか人間が苦手そうに見えてたけど!あれはもしやフェイク!わたくしと同じ頼りなさげ女子を演じてるの!?おのれ、レイチェル………策士……!
………いいえ、でも、在学中は日頃からレイチェルを観察してました。女として負けている部分は何一つない!負けるわけが____「あ、あの…………」…………!?
「え」
「は?」
「んなっ………」
「…………れ、レイチェル………?」
声がするのと同時に、アドラオテル様含む全ての男子が振り返った。眼前には___明らかに、布面積が少ない衣類。大きな胸を黒い布で覆い、あろうことか紐パンツ風の黒い布。細い腰から魅惑的な股関節のライン………紛れもない悩殺ボディーに恥じらい顔を赤らめたレイチェル。
…………さ、策士レイチェルめ…………!
わたくしは纏っていたストールを脱いだ。
* * *
は、恥ずかしい!
レイチェルの頭の中はこれだけだった。
包の中に入っていたのはビキニだった。もうそれだけで悪意を感じる。ビキニに嫌悪感を抱いているわけじゃない。身内は割とビキニ以上に肌を露出している人達は居るから!けど!アドラオテル様の前でこんな格好したくない!………なんて、言えるわけもなく。
着て出てきたら案の定場が騒然としてる。誰の顔も……特にアドラオテル様の顔は見れない。もう下を向くしかできない私をよそにアドラオテル様が大声を上げた。
「誰か!誰か布は持ってないか!?なんでもいい!全身を隠せる物を!………あのババアっ………!」
アドラオテル様の声が震えてる。怒りも伺える。やっぱり私にこんな水着似合わな___!
ぱさり、肩に布……というか、ストールが乗った。大きなストールで、なんとか上半身を隠せるくらい。顔を上げると………にこにこ笑ったエリザベス様が。
「わたくしのストールを使ってくださいませ。少し厚めの生地なので、全身が透けることはないでしょう」
「エリザベス!ありがとう!助かる!」
「きゃっ」
アドラオテル様は顔を赤らめながらエリザベス様の手を取った。エリザベス様も顔を赤らめながら「どういたしまして……」と言っている。
……………やっぱり、絵になるな、この2人…………。
恥ずかしさよりも胸の痛みの方が強いことは、気付かないふりをした。




