やきもち皇子
「『黄金の迷宮』のトリックにはハッとさせられた。あの糸を使う魔術…………あれだと犯罪しまくりだよね」
「わかります!実際私の身内にも糸を操る人がいて、……」
「その人って『新緑の迷宮』に出てきた怪盗カイトの元ネタになっているっていうカイトウ三世でしょ?」
「わ、詳しい。私話したことないのに!」
「アルティアおば様が言ってた。レイチェルはすごい家の子だーって。『迷宮シリーズ』を書いてるのはコルーンに転移をしてしまった作者だし、そうかな?って。
それよりさ、『桃崎の迷宮』のあのトリックさ………」
フィアラセル様は饒舌になりながら『迷宮シリーズ』のことを語る、語る。そしてわかった。フィアラセル様は私と同じヲタクだ!推理小説ヲタク!うわー、まだ10歳なのにこんな難しい本読めるんだよ!?すごくない!?何より!私友達いないから!こうして語れるのが楽しい!
新しい感覚が新鮮で、私は思わず口が歪む。それでも言葉を頑張って重ねた。
「『迷宮シリーズ』が好きなら、横溝正史とか江戸川乱歩、それに『名探偵コハン』とか好きそうですね!」
「ヨコミゾセイシ?エドガワランポ?メイタンテイコハン?なにそれ」
「私の世界にある推理物の小説と漫画です!『迷宮シリーズ』は確実にその流れを汲んでます。断言出来ます」
「なにそれ。読みたい。ねえ、読みたい」
フィアラセル様は落ち着いた口調で目をきらきらさせて私をゆさゆさと揺らす。か、可愛い………うちの可愛くない弟・ロルフとは大違いだ………。
やっぱりにやけちゃう私は笑いながら言葉を紡ぐ。
「はい、今度おおおばあちゃんに持ってきてもら___「レイチェル」………へ?」
不意に呼ばれた。で、ふわりと浮く身体。それと同時に鼻腔を掠めるミントの香り。顔を上げると___今まで見たことがないくらい険しい顔をしたアドラオテル様がいらっしゃった。
「あ、アドラオテル様!?な、なんで………『ドラゴン仮面』の収録って………」
「もう終わった。それより___行くよ」
「わっ、あ、アドラオテル様!?」
アドラオテル様は私を抱えたまま颯爽と歩き出す。抵抗すらできない私はアドラオテル様の服を掴んで、お荷物のように運ばれていた。
………残されたフィアラセル様が「……お兄様って意外と嫉妬深い?」と呟いていることなんて、露ほども知らずに。
* * *
「…………何話してたの?」
「え、っと…………」
私の部屋にて。私はソファの上に座るアドラオテル様の膝に座りながら顔を熱くしていた。ど、どういう状況?膝に座っているんだけど!重くないかな!?て、ていうか近い!顔が近い!
「ふ、フィアラセル様と本の話で盛り上がってしまいまして………!」
「………なんの本?」
「え、と、『迷宮シリーズ』という、推理物……いいえ、娯楽誌です……」
「………ふぅん」
アドラオテル様はそう漏らして、やっと私をソファに降ろした。そして、私に背を向けながら、ぽつり、言った。
「………俺も読む」
「え?で、でも………結構重い話で、取っ付き難いと……」
「フィアも読めてるじゃん。俺も読めるし。
……だから………さ」
アドラオテル様はちら、と私を見た。その頬は膨らんでいて、若干赤い。
「……………俺とも、話してよ。笑顔で」
「___!ふふっ」
いつもの余裕たっぷりのアドラオテル様じゃない。いつもの爽やかじゃないアドラオテル様。子供のように頬を膨らませ、拗ねた声のアドラオテル様に思わず笑みを零してしまった。
すぐにまずい、と思い口元を抑えるけど、時すでに遅し。アドラオテル様は目を見開いて顔を真っ赤にしてた。
「あ、えっと、ご、ごめんなさい!わ、笑っちゃって………」
「~っ、お、俺!早速読んでくる!レイチェルは絶対フィアと話すなよッ!」
「あっ、アドラオテル様!?」
アドラオテル様はそれだけ言ってふ、と消えてしまった。いつもの転移魔法だというのはすぐわかった。けど、焦ったような顔をした理由はわからなかった。
___でも。
「………アドラオテル様、可愛かったな」
私は指輪を撫でながらポツリ、1人で呟いた。




