学園生活終了のお知らせ
ぷち、とオトメザクラの花を摘み、耳にかけてみる。………こうすると、『運命すぐそこ』のヒロイン、野原いちごちゃんみたい………。
「…………なーんちゃっ___!」
そう言いかけた時、ガラ、と教室の扉が開いた。思わず後ろを振り返ると___群青色の短髪、紅と黄金の瞳の男子がいた。
「んぉ?レイチェル、早いな。おはよう」
「____!」
柔らかい笑顔に、愕然とした。
め、滅茶苦茶恥ずかしい所を見られたーーーー!よりによって!1番見られたくないタイプの男子だ………!
アドラオテル・リヴ・レドルド・サクリファイス。
クラス一のイケメンで文武両道、しかもユートピアでいちばん大きな国、サクリファイス大帝国の皇子。完璧イケメンの名前を欲しいままにしたクラスの重要人物で所謂『リア充』という奴だ。
少女漫画とかだとヒロインの秘密バレは恋愛フラグだけど、私みたいな平凡モブにそんな甘い展開は無いのだ。
モブの秘密なんて格好の炎上ネタ!
私のアホな遊びが広がってしまう!!
非常事態に頭がフル回転する。
幸い、アドラオテル様しか見てないし!頼み込めば内緒にしてもらえるかも!?勿論、口止め料もお付けして………。
「あっ、あの!」
「あ」
ダラダラと汗を流す私をよそに、カバンを置いたアドラオテル様は近づいてくる。
「レイチェル、頭に可愛いの付けてんね」
「あ、えっと、ち………」
「ち?」
「調子に乗ってすみませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!」
「はい!?」
私はそれだけ言って走った。
無理!陰キャは陽キャが怖い!あああ、私の学園生活終わったぁぁぁぁぁぁぁ!
私はトイレの個室に逃げ込んで、篭もり続けたのだった。
* * *
「…………なんだあれ」
残されたアドラオテルはぽかーん、としながら廊下を見ていた。具合でも悪かったのか?大丈夫ならいーけど………ん?
そんなことを思いながら黒板の方を見る。そこに置いてあった花が昨日と違ってて………思わず呟いた。
「………花、昨日と違うじゃん」
* * *
もう終わりだ………………。
私はトイレの便座に座りながら落ち込んでいた。顔を熱くしながらガタガタと震えている。
絶対今朝の私の痴行がクラスで噂になるし、今日から陰でのあだ名が花挿しブスだぁぁぁぁ!
何がヒロインみたい☆だろうか………5分前の自分を殴りたい………。
そんなことを思っていると、キーンコーンカーンコーンとチャイムの音がした。この音が死刑宣告のように思えるのは私だけだよね………。
私はすごすごと教室に向かう。頭と胃が痛い。早退……いや、大おばあちゃんが許してくれるわけない……南無………。
がら、と教室の扉を開けた。だが………
「…………?」
ふと、違和感。ガヤガヤとはしてるけど、悪口は聞こえない。え、だって、さっきの見られ………「あ、レイチェル」___!
びく、と体を揺らしながら呼ばれた方を見る。そこには、従者だというヨウ様と向かい合い、机に座っているアドラオテル様が。アドラオテル様は首を傾げて言葉を続けた。
「具合平気?」
「なになに、アドラオテル、いつの間に仲良くなったんだ~?」
「ん?実はさ___「HR始めますので、席に着いてください」あー、今日も可愛いねえサリバンちゃん!」
クラスメイトのケイタ様の言葉を遮るように担任のサリバン先生の声が響いた。た、助かった…………。
私は自分の席について肘を着く。
………どうやらクラスのみんなに花のことはバレてないみたい。と、いうことは…………今のうちに頼み込めば朝のことは内緒にしてもらえるかも!?
こうして私は、なんとかアドラオテル様に近づこうと決心した。