末皇子と私
「えっと、魔術書は………………」
サクリファイス皇城の図書館は広い。おまけにたくさん本がある。勿論、国の秘密に関わる内容の本は置いてないのだろうけど、それでもユートピアに存在する本はほとんど収納されていると言っても過言ではない。そして、なんとこの図書館は従者どころか国民に無料で開放しているのだ!
なんという太っ腹な皇族なんだ…………本が大好きな私には堪らない。サシャおおおばあちゃんに強請っても買って貰えなかった高い本が無料で読めるなんてやっぱり天国かなんかだよここ………ん?
ふと、ある本棚の前で立ち止まる。
紫銀の髪を揺らした小さい子供が背伸びをして本を取ろうとしている。フィアラセル様………だよね?本が取れないのかな、取ってあげた方が………ううん、不敬かな………でも………。
私は少し考えてからフィアラセル様に近づき、伸ばした手の先にある本を取った。黄金がかった緑の瞳が私を映し出す。
「えと、ごきげんよう………です。この本、ですよね」
「………どうも。けど、僕は浮遊魔法で取れたよ」
「あっ、さ、差し出がましいことをしてすみません!えっとこの本…………あ、これ、『迷宮シリーズ』!」
「…………!」
『迷宮シリーズ』。それはユートピアでマイナーと言われている推理小説だ。勿論推理小説が好きな私も読んだ。
「これは『深紅の迷宮』ですね!すごくオススメです!」
「………レイチェル、知ってるの?この本」
「ええ。私もゼン様のファンで………トリックもさることながらアーク嬢とのコンビもアツくて………」
「わかる。じれじれの恋愛だよね」
「そうですそうです!じれったいのがいいんです!」
「………ねえ、レイチェル、今ひま?」
「え?い、一応今日の講義は終わらせましたが………」
「そっか。……なら、外のベンチで語ろ。『迷宮シリーズ』について」
「!はい!」
私は大きく返事をした。
* * *
庭園の真ん中、青白い光とともにアドラオテルは現れた。そばに居るヨウを見て口を開いた。
「ヨウちゃん、下がって」
「は。お疲れ様でした、アドラオテル様」
ヨウちゃんはそう言うとスタスタと城に向かって歩き出した。俺はそれを見送ってからキョロキョロと辺りを見渡す。……しかし、いつもこの時間居るはずのレイチェルの姿はなく。代わりにセラフィールが居た。
「あら、おかえりアド」
「ただいま、セラ。………レイチェルはどこだ?また自分用の花壇でも弄ってる?」
レイチェルの花壇。それは、セラフィールと父ちゃんが花好きのレイチェルの為に用意した畑のような花壇だ。それを貰った時のレイチェルの困ったような、嬉しいような顔は今でも忘れられなくて、思わず笑ってしまう。
1人笑っている俺をよそに、セラフィールは首を傾げて言う。
「レイチェル様は図書館に行くと言っておりました。あとから来る、と仰って下さってましたが………未だに来てません」
「………は?それ、大丈夫なの?」
「大丈夫でしょう。図書館は国民が入るといえど、粗暴な方などサクリファイス国民にはおりません。大方、面白い本でも____あっ、アド!」
俺はセラフィールの言葉を最後まで聞かずに転移魔法で図書館に移動した。キョロキョロと中を見渡すが、レイチェルの姿は無____!
ふと、見つける。
特徴的な黒髪。それと同時に見つける紫銀の髪の弟。そして。
見たことの無い、レイチェルの笑顔が____目に、入った。




