8 カウントダウン
残酷描写注意
~ARS頭領視点~
間抜け野郎を爆散させてから、大体10分がたった頃。
反撃も出来ずに、逃げ回る護衛のパイロットが疲れた辺りに、一応の降伏勧告を突き付けた。
別に獲物に慈悲をかけるつもりは無い。
ただ単に、商品に傷が付いたりすると儲けが減る。
それに、弾薬、燃料もタダではない。
消費を抑え、無傷でモノが手に入るに越したことは無い。
戦闘の滅多にない、この宙域の輸送船だ。
危険に晒される事には慣れていないだろう。
ビビって、白旗をあげる可能性は高い。
「しかし、まぁ…。
この戦況で、ああも言い切るとは…。
軍人のジジイを甘く見ていたな。」
そう独りごち、モニターを眺める。
モニターには、いまだ逃げ回る小物が2、一部動きの良くなった大物が、抵抗を続けている様子が映し出されていた。
「無駄な事を。
全機、獲物を仕留めにかかれ!
遊びは終わりだ。」
あのジジイは、馬鹿ではあるが愚かではないと見る。
ならば、増援が来る前に仕留め、離脱するべきだ。
引き際を見分けられなければこの仕事は続かない。
「問題は無い。
全て、予定通りだ。」
~ビルフィッシュ ブリッジ フリッター視点~
「本艦の損傷率3%
各機能に支障無し。」
「ガード2、ガード3。
ともに本艦から離れ過ぎています!」
「敵機6番に着弾を確認。
未だ、健在です。」
勧告を一蹴してからすぐ、敵の攻撃は苛烈になり、艦の装甲にも損傷が出始める。
水滴が石を穿つように、じわりじわりと損傷は増える一方だ。
しかし、やられてばかりでもない。
一部のバルカンをマニュアル操作に移行したことで、遂に、敵に有効弾が確認された。
「射撃を継続!
標的は一つに絞り込め!」
一機だけでも墜とす事が出来れば、戦況は大分良くなる。
射線の通る限り、一つの目標に攻撃するよう、艦への被弾を許容し、指示を出す。
「ガード2、ロックされました!
…………。
フレアの射出確認。
敵ミサイル、回避成功!」
シールド隊の2人も、死力を尽くしている。
抵抗の甲斐あって、救命到着予定までの半分の時間を稼げた。
敵も焦り始めたのか、貴重である筈のミサイルまで射ってきた。
後数分で、撤退していく可能性が高まってきた。
(どうか、このまま耐えてくれ。)
謝罪の意思を含ませながら、そう願った。
~ARS 頭領視点~
「何をしている。
遊びは終わりだと言った筈だ!
さっさと仕留めろ!」
変わらない戦況に業を煮やし、無線に怒鳴る。
『わかってる!
今やってるって!』
『意外とまだ元気みたいだ。
ミサイルを避けられた。』
『弾幕が濃くて近寄れねぇ。
『ガンッ!』
うおっ!
ヤバい!
被弾した!』
なかなかやってくれる。
腐っても正規軍か。
だが問題は、部下どもだ。
ハンター2、4は獲物に追い付けず。
ハンター1は、各機一発しかないミサイルを勝手に無駄射ち。
ハンター6は仕事の道具に穴をあけた。
当初の計画よりかなり出費が嵩んでいる。
「レーダーに反応は?」
早ければ、増援が映り込む頃だ。
「いや、これっぽっちも。」
レーダーは、索敵距離が長くなるよう改造している。
運がいい。
であれば、まだ余裕はある。
「ハンター4、ハンター1を交代。
ハンター1は、回り込め。
ハンター6は帰還しろ。
動きのいい砲台を優先して狙え。
ミサイルを使っていい。
弾幕に穴を開けろ。
そしたら俺たちの勝ちだ。」
『『応っ!』』
~ビルフィッシュ ブリッジ フリッター視点~
「敵6番、離脱して行きます。
敵1番も、ガード2から離れました。」
『一対一、なら、負けないねぇ!
ガード2、反撃するよ!』
「………………!
ガード2、敵4番が接近!
注意してください!」
『まじかよ?!
転進する!』
……。
敵の動きが変わったか。
救援がまだだということを、何かしらで知ったか?
「ガード3、好機でs…」
『聞こえた!
少し待て!』
ガード3は、浮遊小物体帯付近に逃げ込んで居たらしい。
盾に利用していたが、反撃には邪魔になっている。
「右舷、一番砲台。
旋回機能に支障!
射撃機能に問題無し!」
長時間の酷使で焼き着いたか?
ゴウンッ!!
艦全体に衝撃がはしる。
「どうした!」
「敵ミサイル、直撃!
右舷後方!
……。
二番砲台大破!」
「隔壁降ろせ!
被害確認急げ!
乗員を中央ブロックに退避させろ!」
隙を突かれたか!
弾幕に穴が開く。
装甲が破られる攻撃手段を相手が持っている以 上、乗員に危険が及ぶ。
比較的安全な、中央ブロックに退避させる。
これ以上は何としても食い止めなければ…!
『『ピーッ!』
ヤバいまた!
『ピーッ!ピーッ!ピーッ!』
二機からっ!
ガード2、脱出する!
『バシュッ』
…ザ---…。』
「ガード2、BO。
最終地点をマークします。」
ガード2が戦闘不能になる。
撤退戦をしている現状、収容作業は不可能だ。
後の捜索の為、脱出地点をマークする事が精一杯である。
『クソッ!
オレだけかよ!
コイツを墜として、ヤツも墜とす!』
いかん!
一機残されたガード3が憤慨する。
冷静さを失ってしまえば、視野が狭まってしまう!
通信官が悲鳴のような声をあげる。
「ガード3、敵機!
正面!」
『ア、
『クシュッ』
…………。』
「ガード3、どうした!
ガード3、応答をっ!」
通信官が呼び掛けるなか、解析官が報告する。
「ガード3、バイタルサイン有りません。
機体ダメージ、コックピット付近に集中していま
す。」
レーダー上で、ガード3の機体が戦域から離脱していった。
戦闘開始から約18分。
シールド隊は現時点をもって、文字通り、「全滅」した。
~時刻不明 領域巡回警備艦「バラクーダ」~
「急げ!
速度もっと出ないか!?」
「無理です!
既に全速が出てます!」
「ならば、長距離ミサイルでも何でも!
何か射てんのか!?」
「無茶言わんで下さい!
レーダーにすら何も映っとらんのです。」
「何も出来んのか!?
くそっ!」
「……。
………………。
(ポチ)
左舷ランチャー、7番管。
発射しましたにゃ。」
「「また」なのか少尉!
ふざけるのは止めろと言っているだろ!」
「?
艦長が「何か討て」って。
さっき、言った事にゃ。」
そう宣う彼は、タマ・スタイン。
108領域警備隊の問題児である。
読んでいただきありがとうございます