24 終わりにしよう
~エドガー視点~
『うおおぉっ!』
キャトラス軍の機体が、鹵獲した機体を奪還しようと多数向かってくる。
「退け。」
ブンッ
一般機が寄り集まったところで、鹵獲した機体とそれに酷似した機体以外は「エスペランス」の脅威足り得ない。
ガッ、シャアァン!
アームを横凪に払えば、複数の機体がスクラップに変わる。
「うっ…!」
その光景を目の当たりにして躊躇うも、キャトラス軍機は退くに至らない。
(そうまでする価値があるのか?)
そうまでしてキャトラス軍が奪還しようとする機体は、パイロットが死亡したと同時に薄青色が石のような灰色へと変化していた。
王家といい、一兵器に執着することが理解不能だ。
「邪魔をするな。」
ヒュル…
全てのレーザーウィップの銃口を、進路を塞ぐキャトラス軍機に向ける。
ピイィィィッ!
計10門のレーザーの斉捨。
『『『うわあぁぁっ!』』』
ドゴオォォッ…!
一門のレーザーが複数の機体を貫通したこともあり、十機以上のキャトラス軍機を撃墜した。
(他愛ない。)
ぽっかりと空いた空間に、エスペランスを進める。
まだ遠巻きにしているキャトラス軍機がいるが、進路を阻むつもりはなさそうだ。
(…さて、と。)
命令のまま目標の機体を確保したが、王都は陥落し受け渡し先が不明だ。
トクン…
(ん…?)
クロ-に掴んだ例の機体が鼓動したような気がした。
(まさかな…。)
機械が鼓動する筈は無い。
ましてや機体越しにパイロットが感じ取れる訳が無い。
(まともじゃ無い。)
鎮痛薬と偽られた麻薬の副作用だ。
そう、断じようとした。
トクン…、トクン、トクン
しかし鼓動は二度、三度と断続する。
ジワァ
そして鼓動が一定のリズムで安定すると、石のようになっていた機体が色着いていくではないか!?
パアッ!!
一瞬の強烈な閃光。
ヒュインッ!
白銀の軌跡が走る。
~ピコ視点~
バララッ…
空となった機獣に魔力が補充され、余剰魔力で形成された翼の羽が、機獣を戒める拘束を難なく切り刻む。
「っ、ふ~~…。」
(「上々にゃ。」)
(「大丈夫?
無茶はしちゃだめよ?」)
自由を取り戻した機獣のコックピットで疲労困憊といった様子のピコに、二柱がそれぞれの反応を示す。
マリーダの反応はともかくとして、シェツェナがピコを気遣うのには訳があった。
ピコが目覚めた時には、魔力を使い果たし石となっていた機獣。
機獣を再び稼働させる為には、魔力を補充する必要があった。
「大丈夫にゃ、これくらいっ…!」
“『蘇生』”
電撃により死亡したピコを蘇生した、シェツェナの権能。
しかしその権能は神と言えど軽々しく扱えるものではなく、機獣に蓄えられていた魔力全てを消費した。
ピコは口では「大丈夫」と言っているが、稼働は保って数分。
『お前、生きていたのか…!?』
驚愕する敵機のパイロットであるが、問答をしている時間は無い。
「いいや、蘇生してきただけにゃ。」
ヒュイィィンッ…!
何枚かの魔力で形成された羽根が舞う。
『んなっ!?』
魔力の羽根は抵抗を感じさせず、敵機を撫でるように触れただけで分かつ。
『畜生っ、何で動かない!?』
当たり散らす敵パイロット。
それもその筈である。
彼は自機だけが戦闘不能となっていると認識しているようだが、羽根は自動で追従していた他3機までをも戦闘不能としていた。
同じ轍は踏まないのだ。
「…もう休むにゃ。」
ヒュイ
魔力羽根を一枚、全ての武装を破壊された敵機に向かわせる。
『うあ“あ“あ“ぁっ!』
トス
羽根がコックピットに突き立ち、発狂した叫びが止まった。
キャトラス軍の英雄を一度殺した戦傷者部隊リーダーの、呆気ない最後であった。
「……マリーダ、シェツェナ。
この争いを終わらせるにゃ。」
これ以上誰かが傷つかないように。
(「うん、勿論!」)
これ以上誰かが命を失わないように。
(「私の権能、使いこなせるにゃ?」)
これ以上憎しみと哀しみが生まれないように。
「やれるか?」じゃない「やりたい」のだ。
(「わたしは哀しみを見守ります。」)
戦闘の様子が事細かに把握される。
(「私は全ての悪意に鉄槌を下すにゃ。」)
機獣の翼は広がり、白銀の羽根が数を増して舞う。
(「わたしはシェツェナ、あなたに慈愛を。」)
(「私はマリーダ、全てを破壊する力。」)
二柱の名乗り、権能の本質。
慈しみと暴力。
相反する権能は、しかし反発することなく一つとなる。
二神一体、唯一無二の召神。
その名を呼び起こす。
「行くにゃ、マルコシアス!
『斬り羽根』っ!」
白銀の羽根の輝きが戦場を彩った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
ブックマーク、☆評価、いいね等、
よろしくお願いします。
感想、レビュー等もお待ちしています。