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EP0 召神の儀式

~マリーダ視点~


 気絶した妖精猫族の巫女を担ぎ、夜の森を駆ける。


ザッ…


「ふぅ…。」


 牙狼族の縄張りに少し入ったところで足を止め一息つく。


「…ちっ。」


ガサリ


 濃密な血の臭いを漂わせたゴンザが茂みから姿を見せた。

 

「やっぱ狩りは大物が一番だな。」


 私が担ぐ巫女に視線を向けるゴンザの姿は血にまみれていた。

 コイツは一族の戦士の二番手で、非常に好戦的で残虐だった。

 しかし力に関しては誠実であり、一族の他の戦士達が私を侮る中、彼は一定の敬意を持って私に接して来る。


「……お前、わざと声を上げさせたな?」


 夜襲で明かりがある場合、刃物は使用直前まで鞘にしまうのが基本だ。

 それをゴンザは、素人のように抜き身で所持していたのだ。

 しかも守衛に対して、炎の光が反射するような持ち方をして。

 

「追っ手は少ない方がいいだろう?」


 悪びれもせず、あっけらかんと言うゴンザ。

 だがそれはゴンザが馬鹿な真似をしなければ守衛一名だけの始末で済んだ話だ。

 ゴンザの目的は殺しだ。

 普通戦士が5名以上で狩る大猪を単独で仕留めるゴンザに、牙狼族より小柄な妖精猫族一名だけでは満足出来ないのだ。


“殺し過ぎる”


 それがゴンザが戦士の二番手に甘んじている理由だった。


「休憩はもう良いだろ?

 さっさと行こうぜ。」


 何も言わない私に居心地の悪さを感じたのか、ゴンザが帰還を急かす。


「ああ。」


ザッ!

…ザッ!


 短く肯定の意を示し駆け出す。

 一瞬遅れてゴンザもついて来る。

 

(陽動の火かけは戻っているだろうか?)


 そんなどうでも良いことを考えながら暗闇を駆ける。

 巫女は未だに目を覚まさない。

 

 


 














~シェツェナ視点~


 ……………………………。


 …………………。


 ………。


ズキンッ!


「うっ……。」


 頭に走った痛みに、呻きながら目を開ける。


「…此処は?」


 見覚えのない暗い室内。

 いや、壁と屋根はあるけど地べたであることから物置小屋か何かだと推測する。


「そっか、わたし…。」


 居場所の推測が出来たことで、自分の置かれた状況を理解した。


ガヤガヤガヤ…。


 そこで何やら外がざわついてくる。


ガタガタッ!


 建て付けが悪い引戸を開けて入ってきたのは牙狼族の大雄であった。


「ん、起きてたか?」


 わたしと目があったその雄は、一瞬面倒臭そうな顔をしたが構わず近づいてくる。


グイッ!


「いっ…!」


 腕を掴まれ強引に立たされたわたしは、痛みに体を硬直させる。


「おらっ、大人しくついて来い!」


 それを抵抗と取った雄に、わたしは乱暴に小屋の外に引っ立てられて行った。

 そして連れて行かれた先。

 牙狼族の集まった広場で、わたしは親しい娘を見つけたのだった。


















~マリーダ視点~

 

 牙狼族の族長側近である司祭に連れられた巫女と目が合う。

 自身をそのような目に合わせている直接的な要因である私に向ける、助けを求めるような視線から目を逸らす。

 視界の隅で、巫女が哀しみに満ちた顔になった。

 そのまま巫女は、集落の広場に誂えられた儀式場の二つある陣の一つの上に連れて行かれる。

 陣の中央には丸太が立てられており、その丸太に縛られた巫女は仄暗い目をして俯いている。


「皆の衆、今宵はよくぞ集まった。」


 臨時で組まれた壇上に立った族長が演説を始める。


「近頃は猫科族らとの争いが増え、不安を感じている

 ことだろう。

 特に人狼族などは犬科族の代表面をして我々を矢面

 に出そうとしている。

 猫科族には複数の超常の力を振るう者がいる。

 其奴らの前に我々などは無力だろう。

 だが安心したまえ。

 猫科族などに我が民を蹂躙などさせん。

 我々の戦士が、超常の存在を呼ぶ妖精猫の隠されし

 巫女を確保した。

 我ら犬科族の(かたき)である猫科族の血を以て、我ら牙狼

 族の神をここに招こうではないか。

 その為に皆の心を一つにし、魔力を器に注ぐのだ。

 では、始めよう。」


 族長が演説を切り上げ、司祭に合図を出す。

 司祭は恭しく礼をとり、魔法陣の丸太に繋がれた巫女の元に歩む。


「マリーダ、此処へ。」


 巫女の横に立った司祭が、私をもう一つの魔法陣に立つように促す。


「器ってマリーダがか?」


「やだ、忌み子を器に何て…。」


「儀式が失敗したらどうするんだ?」


 私が指名されざわつく牙狼族の民たちに、司祭は諭すように言う。


「静まれ。

 忌み子と言えど我らが同胞。

 神の器となることで穢れは灌がれる。

 不信は裏切りとなる。

 努々、忘れ無きように。」


 そんな茶番の間に、私は魔法陣の上に立った。


キラリ


 司祭の手の解体用ナイフがひらめき、朱を散らす。


「あああぁっ!」


 シェツェナが切り裂かれた痛みに悲鳴を上げた。


「復唱して器に魔力を!

 我らの敵対者に死を!」


「「「我らの敵対者に死を!」」」


「我らの敵対者に滅びを!」


「「「我らの敵対者に滅びを!」」」


「我らに永久の栄光を!」


「「「我らに永久の栄光を!」」」


 魔法陣が輝き、魔力が私に流れ込んでくる。


「!」


 魔力だけでは無い!

 これは…!


ズキンッ!


「うっ…!」


 身体が内側から張り裂けようとするような痛みに思考が止まる。


「あ“あ“あ“あ“あ“っ!」


 暗い夜空に私の絶叫が響いた。



いつも読んでいただきありがとうございます。


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