EP0 誓い願い
保ってくれよ作者の身体…、有給パワー二話目!!
~シェツェナ視点~
マルとベリー摘みをしてから3ヶ月が経った。
わたしとマルはあれから何度か森で会い、気の向くままに過ごした。
「…ねえマル。
わたし、しばらく出られなくなるみたい。」
いつか居眠りしていた木の下、隣に座るマルに言う。
「ええ、近頃物騒だもの。
…むしろ遅かったくらいじゃないの?」
マルが言うようにこの1ヶ月の間に、主に金獅子族と犬科族各種族の衝突が頻発していた。
噂では猫科族と犬科族の全面衝突が近いと言われていて、巫女のわたしは集落で護られるというわけ。
「…マルは何も思わないの?」
他所事のように言うマルに、わたしは聞いた。
マルは戦士長の娘。
戦いになれば、彼女の集落での扱いから非常に危険な立場になることが想像できる。
「そうね。
強いて言うならどさくさ紛れに奴らに仕返し出来た
らいいなって事くらいかしら?」
わたしの質問にあっさりと返すマルは、自分のことなど顧みていないことが伺えた。
(やっぱりあの怪我は…!)
それとわたしとマルの出会いのきっかけが、マルの集落の一族によるものだと確定した。
「ねぇマル、わたし心配なの!」
マルの敵は猫科族の戦士だけでなく、彼女の一族もなのだ。
孤独な戦いに身を投じることになるマルに「味方はいる」と、わたしが味方になると示したかった。
「……、ふっ。
大丈夫、私こう見えて集落の誰よりも強いから。」
マルはわたしの言葉にきょとんとした後鼻で笑い、わたしに自分の強さをアピールする。
自信に満ちたマルの様子に、
「でもあなた怪我させられたじゃない!」
とは言い出せなかった。
代わりにマルに言う。
「じゃあ落ち着いたらまたここで会おう。
約束!」
今まで何度か会っていたけど一度も交わしたことの無い約束。
初めてのマルとの約束は、残念なことにわたしの悲壮を隠したものになった。
そうでもしなければ二度と会えないような気がして。
「初めての約束なら破るわけにはいかないわね。」
苦笑するマルの言葉に、わたしは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
…………………………。
………………。
……。
「それじゃそろそろ…。」
会話が途切れ、黙って寄り添って座ることしばらく。
日も傾き最後の逢瀬を終わらせる時間になる。
………………。
…………。
……。
「今度は何時になるか分からないけど。
また、会いましょ?」
いつも別れる集落の見える森の小道。
道中黙りだったわたしに、マルは初めて自分から再会の言葉を言った。
「……うん。
必ずまた、約束破ったら許さない。」
そう言うのが限界で目から涙が溢れる。
「もう、本当に仕方ない娘。
ほら、泣き止んで?」
ぎゅっ
初めてのマルからの抱擁は、わたしが泣き止むまで解かれることはなかった。
「約束、絶対だから!」
泣き止んだわたしはマルにそう念押しをして、わたしとマルは笑顔で別れた。
~マリーダ視点~
ギィ…
牙狼族の集落の外れの古い小屋。
私と母の家に帰ってきた。
母はまだ集落の仕事から戻っている時間ではない。
カタン
誰もいない筈の家の中から物音が聞こえ、侵入者かと警戒する。
「帰ったか、マリーダ。」
「……。(…チッ。)」
暗い家の奥から、血縁上の父親がのそりと出てきた。
シェツェナとしばらく会えないことに加え、見たくもない顔を見せられ機嫌が急降下する。
この雄ははっきり言って屑でしかない。
生まれてから凡愚だったこの雄は気紛れで私を狩りに連れ出した際、私の才が発覚してから自らは狩りをせず、私の狩った獲物を自分の手柄にして戦士長にのしあがったのだ。
おかげで私は、集落の雌の仕事をせずに遊び歩く役立たずと集落の他の牙狼族に認識されている。
真実を知る母はこの屑にきつく口止めをされており、忌み子を産んだとして私共々古小屋に押し込められている。
白き大狼を祖と信奉する牙狼族にとって、白を汚し灰とする黒は穢れであり、黒い毛並みの私は穢れの具現の忌むべきものらしい。
私を産んだ母は蔑まれているのに、父親であるあの雄は、戦士長という立場から真新しい家に住み雌を代わる代わる連れ込んで私達の住む小屋には近付かないというのに。
「数日の内に計画を実行に移す。
やっと役に立てることを感謝しろ。」
一方的に告げさっさと去っていく屑。
(ツェナ…。)
屑の言う「計画」、それは族長発案の牙狼族の神を得るためのもの。
私とツェナの出会いはこの計画のために仕組まれていたものだった。
利用するための接触だったがツェナに毒気を抜かれ、何時からか母以外に初めて出来た大切と思えるようになった。
いや、なってしまった。
しかし悲しいことに、私は穢れにまみれても牙狼族。
この身に刻まれた「上位者に逆らわない」という本能が私の意思を抑えつけてくる。
(ああ、ツェナ…。
本当にごめんなさい。)
本当は計画のことを洗いざらい話してしまいたかった。
そして願わくは、計画とか関係なしの関係を築きたかった。
胸の内が後悔と謝罪でいっぱいになり、自分勝手な願望が自我を保つ。
これから数日の内に、私は妖精猫族の巫女を拐うために妖精猫族の集落への襲撃を手引きする。
(あ、無理だこれ。)
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