EP0 白夢中~catnap~
有給パワー!
(※多分明日は休稿です。)
……………………………………。
…………………………。
………………。
………。
ゆらゆら、ゆらゆら。
「……ナ…、……ナったら!」
…ん、誰かが呼んでいる?
「………さいよ、ツ…ナ!」
白い光の中、揺蕩う感覚に身を任せていると声が聞こえた。
「ツェナ起きなさい、風邪引くわよ!」
目を開けると目の前に、つり目がちの目をした夜空のような優しい漆黒の毛並みの牙狼族の娘が、困ったような顔で立っていた。
「んう…?
…ツェナ?」
何気なく自分が呼ばれたと認識したいたけど違和感を感じ、首を傾げる。
「何、まだ寝惚けてるの?
あなたはツェナ、シェツェナよ。」
なるほどツェナは愛称、わたしの名前はシェツェナ。
ちゃんとした名前を認識したことで、思考が働き始める。
「あ、マル。
おはよー。」
そしてわたしを起こした娘の名前はマリーダ。
牙狼族の戦士長の娘で、この森で怪我をしていたマルを手当てしたことがきっかけで仲良くなった。
「おはよーって…。
今は真っ昼間だし、森の中で居眠りなんて。」
起き抜けの挨拶をすると呆れ返ってしまうマル。
でも森の中に入ってくる日射しは程好く暖かく、そよぐ風に眠りに誘われたらのるしかないと思う。
「何よその顔は?
…はぁ、(どうしてそう無防備なのかしら。)」
不満が顔に出ていたのか、マルが指摘して溜め息をついた。
「ん、何?」
いつものやり取り。
互いに気分を悪くすることは無いけど、いつもマルは小声で何か言っている。
立ち上がる際の布擦れの音で聞こえなかった。
「何でもないわ。
…ところでツェナは態々森に寝に来たのかしら?」
聞き返しても言い直さないということは、わたしに向けた言葉じゃないということ。
そしてマルの質問に目的を思い出す。
「あっ、そうだった!
ベリーを摘みに来たんだった!」
蔦で編んだ手提げ籠を拾い上げる。
今が食べ頃のキャットベリーはそのまま食べても美味しいけど、わたしはジャムにして長く楽しみたいのだ。
そのためには籠いっぱいにベリーが必要。
「なんだけど…。」
少し休憩のつもりが見上げた日は高く、とても日没までに摘める余裕はなさそうだった。
「はぁ、仕方ないわね。
ベリーの特徴を教えて、手伝ってあげる。」
作れるジャムが少なくなることにしょんぼりしていると、マルが手伝いを申し出てくれた。
「ほんと!?
ありがと~!」
ガバッ
「わっ、ちょっ!?
~っ良いから、早く教えなさい!」
嬉しくてマルに抱きついたけど、マルはわたしを引き剥がし急かす。
「むぅ…、分かった。
えっと、キャットベリーは……………。」
引き剥がされたことの抗議に頬を膨らませるも、マルの指摘は確かではあったから素直にベリーの特徴を教える。
………………………。
……………。
…。
夕方になり、わたしとマルは森の小道を歩いていた。
「マル、今日はありがとうね。」
抱える籠には溢れんばかりのキャットベリー。
これだけあれば半年分のジャムを作れそうだ。
予定より多くの収穫に機嫌良く、手伝ってくれたマルにお礼を言う。
「ええ、ツェナの天然には困ったものだわ。」
からかうように言うマルだけど、満更でもないのが表情から読み取れた。
「…あ、私はこの辺で帰るわ。」
立ち止まり、そう言うマル。
籠へ向けていた注意を前に向けると、森が途切れ小さな集落が見える。
わたしの家がある妖精猫族の集落だ。
「…うん。」
マルは牙狼族。
牙狼族は妖精猫族と直接的な敵対はしていないけど、金獅子族が纏める猫科族と人狼族の纏める犬科族の仲は嫌悪だ。
名残惜しいけど集落の誰かに見つかる前に別れないといけない。
「それじゃ、また…ね?」
「ええ、また今度。」
森の木々に隠れるように遠ざかるマルの背中を見送り、集落に歩みを進める。
「おっと…!」
ぼーっとしていたようで躓きかける。
慌てて籠を落とさないようにバランスを取る。
「危なかった…。」
熟れたキャットベリーは柔らかい。
地面に落としでもしたら、せっかく集めたベリーが台無しになってしまうところだった。
「…ふふっ。」
艶々とした赤色のキャットベリーを見て、つい口から笑いが溢れた。
思い出すのはベリー摘みを手伝ってくれると言ったマルに抱きついた後のこと。
「慌てるマル、面白かったなぁ~。」
顔を紅潮させてまくし立てるマル。
普段大人ぶっている彼女の慌てる姿は新鮮味があり、それだけ親密になれていることを実感できる。
(マル、大丈夫かな…。)
出会った時の誰も信用しないという様子のマルは、彼女の集落で彼女が良い扱いで無いことが察せられた。
牙狼族の標準的な毛並みの色は灰色。
漆黒の毛並みのマルは牙狼族では異端なのだろう。
もしかしたらあの怪我も…。
(どうかあの娘が笑顔で居られますように。)
願わくは自分の側に居て欲しい。
そのためには猫科族と犬科族の対立がなくなって欲しい。
「おや巫女様、お帰りなさい。」
薄暗くなってきた空に見えた一番星を見ながら思っていると、集落の住人に声をかけられた。
「ベリーですか?
言って貰えればいくらでも摘んで来ますよ。」
親切のようだがその心内としては、わたしに出歩いて欲しくないというものだ。
「ええ、ありがとうございます。
でももう十分集まりましたから。」
巫女としての仮面をかぶり住人に返す。
わたしの一族が神を招いてから妖精猫族を取り巻く環境は変わった。
中立でいた妖精猫族は猫科族に囲われ、神を招きたい犬科族は妖精猫族に接触を試みる。
(いっそ何処かに飛んで行ければ良いのに。)
この世界のあらゆる事柄がわたしとあの娘を引き裂こうとしているようで、そんなことを思ってしまう。
巫女の思いは平和への想い、更には願いとなって神に届く。
「…何て、ね。」
しかし巫女シェツェナはそれについぞ気付くことはなく、妖精猫族ひいては猫科族の運命を変えた日を迎えるのであった。
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