22 砕ける魂
次作は新年度あたりからですかね?
「どうしてそこまでして戦おうとするにゃ!」
同意を示して尚戦闘態勢を維持する敵機のパイロットに疑問をぶつける。
せっかく助かった命をみすみす危険に晒す真似をする彼の意図が分からなかったのだ。
『仲間を殺したお前が言うか?』
彼は先ほど「足の復讐なら」と言っていた。
つまり戦う理由が“仇討ち”であるからと言っているのだろうか?
だがそれは結果論だ。
「無抵抗で殺されるつもりは無いことくらい当たり前
にゃ!」
戦争とはいえ死にたくないのは誰しも同じだろう。
しかし戦場に出た以上、殺し殺されがあるのは承知している筈。
『の割には名高いじゃないか?』
「………。」
幾十万といる兵士の中で英雄と評される者は極僅かである。
そして英雄と評されるには突出した功績が求められる。
ピコの言うように「己に振り掛かる火の粉を払うだけ」では、到底評されるには至らない。
『今まで散々殺しておいて「命を無駄にするな」だ?
ふざけるな!』
功績として「どれだけ敵を倒したか」というのは一番ポピュラーと言える。
つまり彼の言うように、英雄と評される兵は「それだけの敵兵を倒している」というわけだ。
(そんなことっ…!)
「そんなこと」と言えば語弊がある。
しかし、ピコ達がエースと呼ばれるきっかけとしては、重要な局面に居合わせて良い結果で生き残っただけなのだ。
そこからはエース部隊の性として、最前線で戦い抜くしかなかった。
下手な言葉を発っせないピコに、彼は尚も言葉をぶつけてくる。
『別に殺した数はどうでもいいんだ。
だがお前らが消し飛ばした奴らの中にはな、息子が
居たんだ!』
(ここにも…!)
いつかの光景がフラッシュバックする。
激しい戦いを生き延びたと安心していた志願兵の青年が、ドギヘルスの巨大兵器のレーザーの光に消えていった。
帰らない彼に、彼の母親はどう思っているのだろう。
『俺は軍は止めろと言った!
だからといって何故貴族の私兵なんかに!?
あの侯爵は一般兵なんか換えの利く駒としか思って
いないというのに!』
少なくとも、目の前で慟哭するパイロットのように怒りと後悔を抱いているのだろう。
彼は自身で手段があったから復讐に走ったに過ぎない。
『だからと言って…、そんなんじゃ!』
おそらく彼の息子が軍に入りたがったのは、父親の足を奪ったキャトラス軍への復讐もあったのだろう。
そして戦死した息子の仇討ちに彼が出張ってくる。
マルコシアス隊と彼らに限って言えば被害者でしかないように思える。
しかし戦っていれば、復讐に燃えている彼は以前から腕の良いパイロットであることが分かる。
つまり少なからずキャトラス軍機を撃墜しているわけで、彼自身も誰かにとっての加害者なのだ。
まさしく戦争の負のループである。
『何処かで終わらせないといけないのが分からないの
にゃ!?』
親しい者が殺された者が敵の誰かを殺し、殺された誰かの親しい者がまた敵の誰かを殺す。
どちらかが滅ばない限り終わらない連鎖。
三百年続いたその連鎖がようやく終わらせられるところなのだ。
『戦争で得たものしかない英雄には分からんさ!
奪われたものを取り返すまでは止まれんのだよ!』
戦争で奪われるのは命。
それは敵の命を幾ら奪ったところで帰ってくるものではない。
つまり彼に止まるつもりなど更々無いということだ。
『分からんのはどっちにゃ!
皆痛みを抱えて前に進まないといけないのにゃ!』
家族、仲間、同胞、程度に差はあれど今を生きる全員が何かしらを喪っているのだ。
だからこそこれ以上喪わないように、今を大切にしなければいけないのだ。
『綺麗事で世の中回っていないんだよ!
じゃあ俺が前に進むために死んでくれよ!』
彼の叫ぶそれは、自分の思い通りに行かず暴れる子供のようにに思えた。
復讐という大義を掲げた、ただの癇癪だ。
『このっ…、いい加減にするにゃあぁっ!』
ダッ
止める気が無いと言うなら力づくで止めるしかない。
機獣は宙を蹴り敵機に向かう。
『始めからそうすりゃ良いんだ!
俺を止めてみろ、英雄!』
グォッ
異形の敵機は機獣に覆い被さるように、全ての触手と二本のアームを拡げて迎撃態勢。
ヒュンッ、ガッ!
口元に寄せた斬艦ブレードを咥え、準備が完了する。
これまでの強大な敵を屠ってきた必殺の一撃だ。
グッ…
『そこだあぁっ!』
ヒュルッ
「!?」
ガシィッ!
最後の加速を得るための踏み込み。
その一瞬の停滞の隙に、機獣は後方から延びてきたクロ-に捕獲された。
(まずっ…!)
ギシッ…
馬力不足。
機獣形態であっても克服出来ていない弱点。
通常機の三倍の質量を持つ異形の敵機を引き摺ることは不可能で、必殺の一撃は不発に終わる。
ガシッ、ガシッ
非常に動きの鈍くなったところに、次々とクロ-が掴みかかり雁字絡めにされる機獣。
『呆気ないな…、自分の若さを恨め。』
先ほどまで声を荒げていたとは思えない冷淡な声。
先に倒した異形の敵機であるが、倒したのはパイロット。
機体自体はまだ動けたのだ。
(遠隔…!)
鎮痛薬の投与だけだと思い込んでいたが、機体全てが遠隔制御可能だったとは!
『中身は要らないとさ。
じゃあな。』
バリバリバリッ!
「に”ゃあぁあ”あ”ぁ”っ!」
機獣に絡むアームから高圧電流が流されパイロットを焼く。
(『あぁ…、やっぱりこうなったにゃ…。』)
『安心しな、ついでに仲間も送ってやる。』
~ミーコ視点~
ディックとユキの機体反応が途絶し、緊急医療キットの準備に追われているとナナサが医務室に飛び込んでくる。
「ミーコさんっ、ピコ隊長が!」
尋常ではないナナサの様子に慌ててピコのバイタルデータを確認する。
「嘘…。」
端末を見ると、ピコのバイタルサインは停止と示されていた。
途絶ではなく停止。
それはデータを送信する機体が存在するも、パイロットの生命反応が無いことを伝えていた。
キャトラス暦3023年8月15日。
300年戦争における全ての戦闘行為が停止となった直後要塞「ゲート」で勃発した乱戦。
死傷者数ではドギヘルス側が圧倒的に多くなったこの乱戦だが、キャトラス側の被害は軽く見られるものではなかった。
新鋭艦にエース部隊機、その他多数の精鋭の損失により、ドギヘルス臨時政府との和平交渉が遅れたとも言われている。
出典「300年戦争の終わりは何時か?」
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